人生は諸行無常だ。
 泣き疲れ、叫び疲れ、私は諸行無常を噛み締める。

 動かない身体を檻の中に横たわらせれば、ぐらぐらと地面が――船が揺れているのが分かった。辺りには酒と食べ物と、血の匂いが充満している。けれど、どうしてか私はずっと、教会を焼く煙の臭いが鼻にこびりついたかのようだった。 
 教会を焼いたのは、なんといつも寄付をしてくれていた街の人間だったらしい。
 私を売ったお金の分け前を貰うためだとか。

 私をロープでぐるぐる巻きにして笑う海賊とやらが、何ともまぁ酷い笑い方をしながら教えてくれた。
 いやまぁ教えたというか、泣いて暴れていた私に対する”しつけ”の一環だったのだろう。たった二年の幸せが、こんなやつらに壊された。涙が傷に染みる。不思議と今の自分を客観視する自分がいた。

 そりゃあ、そうだ。

 いくらシスターたちが善人でも、根っからのお人よしでも、この世界の人間が全員そうであるわけが無かった。

 神に唾吐くような奴らはいくらでもいる。

「いやー、にしてもこれが1000万ベリーとは!儲けましたね、船長!」
「がーはっはっは!いやーこれで俺たちも安泰だよ。見てくれが悪くてケチつけられねーように水でもぶっかけとけよ!死なせないようにな!」

「……って、ゃ、る」

 男たちは私を檻に放り込んでご機嫌に酒を飲んでいる。狭い船内。酒瓶が空けられ、ヤジが飛ぶ。それをぼんやりと眺めていれば、不思議と口が開いていた。

 昔の私ならどうしただろうか。
 大人であったならば、こいつらをどうにか出来ただろうか。捕まる前に逃げおおせただろうか。

「ンだよ、なんか言ったかガキぃ!鳥みてえに皮剥かれてェのか!?それ以上騒ぐとてめぇの喉潰しちまうぞ!!」
「おいバカ、傷つけんじゃねぇって言ったばっかだろうが!」

 檻ごと私を蹴る海賊を、船長が怒鳴りつける。小さな檻が吹っ飛んで、私を入れたままガシャン、と音を立て転倒した。ところどころにある打ち身が痛い。
 けれど不思議と、彼らから目を離す事は出来なかった。
 
「の、て、……る」
「あァ!?ンだぁ……?」

 檻の隙間から手が伸びて、私の髪を掴み上げた。男と目が合う。
 なんて恐ろしい形相だろうか。きっとただの子供ならまた泣き出しただろう。
 だが、私は違う。私は。

「呪ってやる」
 
 船は何度も嵐に見舞われたが、私の呪い空しく、陸地へとたどり着いてしまった。


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