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あれから、私のお披露目はすっかり回数が減った。単純に飽きられただけのようだった。
未だに召使達は私を丁寧に扱ってくれるが、貴族たちは時折顔を出しに来て、遊び半分に私を棒で突いては帰っていく。
もしくは複数人でやってきては、私をまじまじと見て気持ちの悪い顔で笑うのだ。
「もう少し育ったら、羽をもいでしまおうかと思ってるんですよ」
「それはまた、どうしてですか?世界に一羽しかいない鳥なのでしょう」
「ふぁふぁふぁ、鳥を慰み者にする趣味はありませんよ!」
「はっはっは、まだまだお若いですなぁ。しかしもったいないのでは。このまま剥製にしてもいいかと思いますよ」
「おお、それも良い!」
当然のように彼らは私が言葉が分かると考えていない。いや、そもそもペットの鳥が自分たちの会話を聞いているだなんて、想像もしていないのではないだろうか。
今日もまた、服の上から私の肉付きを確認した貴族達は笑いながら去っていった。
コンコン
窓が鳴る。ここが何階かは分からないが、外を見るにそこそこの高さがあるはずなのに、何故か窓の外に、逆さの少年が一人。
「ちょっと離れててくれな!」
そもそも私は鳥かごの中で、窓に近づくことは出来ないのに。サボはそう言ってから、勢いをつけて部屋に転がり込んできた。
窓が割れた音はしない。どうやって窓を開けたのだろう。
「おれのこと覚えてるか?」
「……サボ」
「! やっぱり! 喋れんじゃねェか!良かった、なァ、名前、なんていうんだ?ていうか、名前あるのか?」
嬉しそうに笑ったサボが、かごの隙間から手を伸ばしてくる。
「このあいだはごめんな。びっくりさせちまった」
「……」
「なァ、名前無いなら何て呼んだらいいかな」
短い手が、私の手に触れた。
温かい。
タコがあって節くれが出来始めているが、まだ幼い少年の手だ。
「うーん……そうだなァ。あ!アンはどうだ!?その羽、天使みたいだし。知ってるか?天使って、アンジェロって言うんだよ。でも長ェから、アン!
いつも神様って祈ってるし、もしかしてお前、神様のいる空から落ちてきちまったンじゃねェかな」
サボは私の手を取りながら、そう言ってうんうん、と一人頷く。
思い出せない。サボという少年を前世で知っていた気がするのに、思い出そうとすればするほどわからなくなった。
私がされるがままで居ると、サボは笑って手を離した。
「やべ、誰か来る。おれ、また此処に来るよ。だから泣くな。どうにもさ、こないだお前の涙見てから落ち着かねェんだ」
言われて初めて私は自分が泣いていることに気が付いた。
頬に手を当てると指先が涙で濡れた。
「アン、また来るからな!すぐだからな!」
サボは弾かれるようにしてドアの方を見たかと思えば、何とも軽い身のこなしで窓から外に出て行った。
垂れ流していた涙をトゥニカの袖で拭う。それと同時に、召使がドアから入ってきた。
まさか彼女の足音が聞こえていたのだろうか。
召使に身体を洗われながら、私はぼんやりと思考を巡らす。
私をアンと呼んだ彼は、どうして此処に来たのだろうか。
「まぁ……天使様、本日はご機嫌がよろしそうで良かったですわ」
「……機嫌」
「っ! ええ、いつもの天使様も素敵ですけれど、今日は一段と!」
ぴくりと翼の付け根が動く。
教会を出てからピクリともしなかった私の翼に、今ようやく血が流れだしたような気がしていた。
この部屋に仕舞われるようになってから、サボは何日か置きに私の部屋に来た。
相も変わらず、私は言葉を返せなかったけれど、それでもサボは話しかけてくれていた。
「アン、今日は本を持ってきたんだ。これ読んだことあるか?」
「アン、お前いつも果物しか食わねェのか?……いや、おれが食いたいわけじゃ……うん、あ、ありがとう」
「なァ、アン、おれいつか海賊になりてェんだ。こんな国から逃げ出して、自由に生きて!あの広い海を冒険するんだ!」
ああ、懐かしい。もう遠い昔のことのように感じていた悲しみが、喜びとともに帰ってくる。
シスター達の声が、笑顔が、帰ってくる。
今日は本を読む日らしく、サボは船についての本を朗読していた。私に読み聞かせてくれているらしい。
私は初めて自分から、鳥かごの外に手を伸ばした。かごを背もたれにして座るサボの肩に触れる。
糸くずが付いていた。それだけだった。
「……お!?どうした?この本、嫌いだったか?」
「……んーん、そうじゃないの」
「! い、今……!は、初めてだ。 アンが話してくれた!!」
本を閉じて、感激するようにサボが笑う。目をキラキラさせるサボに、そんな大層な、と私まで思わず笑ってしまった。
「っ!! あ、アン……お前、わ、笑えるんだな」
「? 私だって、人間だもの。笑うし、泣くよ」
「お、あ、おぉ!っそ、そうだよな! 笑うし、泣くし、喋るよな!!」
どうしてか慌てふためくサボの姿が面白くて、私はもう一度静かに笑った。
するとサボも鼻の下をこすって笑うので、私は、込み上げてくる感情をそのままに、涙をこぼしてしまうのだった。
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あれから、私のお披露目はすっかり回数が減った。単純に飽きられただけのようだった。
未だに召使達は私を丁寧に扱ってくれるが、貴族たちは時折顔を出しに来て、遊び半分に私を棒で突いては帰っていく。
もしくは複数人でやってきては、私をまじまじと見て気持ちの悪い顔で笑うのだ。
「もう少し育ったら、羽をもいでしまおうかと思ってるんですよ」
「それはまた、どうしてですか?世界に一羽しかいない鳥なのでしょう」
「ふぁふぁふぁ、鳥を慰み者にする趣味はありませんよ!」
「はっはっは、まだまだお若いですなぁ。しかしもったいないのでは。このまま剥製にしてもいいかと思いますよ」
「おお、それも良い!」
当然のように彼らは私が言葉が分かると考えていない。いや、そもそもペットの鳥が自分たちの会話を聞いているだなんて、想像もしていないのではないだろうか。
今日もまた、服の上から私の肉付きを確認した貴族達は笑いながら去っていった。
コンコン
窓が鳴る。ここが何階かは分からないが、外を見るにそこそこの高さがあるはずなのに、何故か窓の外に、逆さの少年が一人。
「ちょっと離れててくれな!」
そもそも私は鳥かごの中で、窓に近づくことは出来ないのに。サボはそう言ってから、勢いをつけて部屋に転がり込んできた。
窓が割れた音はしない。どうやって窓を開けたのだろう。
「おれのこと覚えてるか?」
「……サボ」
「! やっぱり! 喋れんじゃねェか!良かった、なァ、名前、なんていうんだ?ていうか、名前あるのか?」
嬉しそうに笑ったサボが、かごの隙間から手を伸ばしてくる。
「このあいだはごめんな。びっくりさせちまった」
「……」
「なァ、名前無いなら何て呼んだらいいかな」
短い手が、私の手に触れた。
温かい。
タコがあって節くれが出来始めているが、まだ幼い少年の手だ。
「うーん……そうだなァ。あ!アンはどうだ!?その羽、天使みたいだし。知ってるか?天使って、アンジェロって言うんだよ。でも長ェから、アン!
いつも神様って祈ってるし、もしかしてお前、神様のいる空から落ちてきちまったンじゃねェかな」
サボは私の手を取りながら、そう言ってうんうん、と一人頷く。
思い出せない。サボという少年を前世で知っていた気がするのに、思い出そうとすればするほどわからなくなった。
私がされるがままで居ると、サボは笑って手を離した。
「やべ、誰か来る。おれ、また此処に来るよ。だから泣くな。どうにもさ、こないだお前の涙見てから落ち着かねェんだ」
言われて初めて私は自分が泣いていることに気が付いた。
頬に手を当てると指先が涙で濡れた。
「アン、また来るからな!すぐだからな!」
サボは弾かれるようにしてドアの方を見たかと思えば、何とも軽い身のこなしで窓から外に出て行った。
垂れ流していた涙をトゥニカの袖で拭う。それと同時に、召使がドアから入ってきた。
まさか彼女の足音が聞こえていたのだろうか。
召使に身体を洗われながら、私はぼんやりと思考を巡らす。
私をアンと呼んだ彼は、どうして此処に来たのだろうか。
「まぁ……天使様、本日はご機嫌がよろしそうで良かったですわ」
「……機嫌」
「っ! ええ、いつもの天使様も素敵ですけれど、今日は一段と!」
ぴくりと翼の付け根が動く。
教会を出てからピクリともしなかった私の翼に、今ようやく血が流れだしたような気がしていた。
この部屋に仕舞われるようになってから、サボは何日か置きに私の部屋に来た。
相も変わらず、私は言葉を返せなかったけれど、それでもサボは話しかけてくれていた。
「アン、今日は本を持ってきたんだ。これ読んだことあるか?」
「アン、お前いつも果物しか食わねェのか?……いや、おれが食いたいわけじゃ……うん、あ、ありがとう」
「なァ、アン、おれいつか海賊になりてェんだ。こんな国から逃げ出して、自由に生きて!あの広い海を冒険するんだ!」
ああ、懐かしい。もう遠い昔のことのように感じていた悲しみが、喜びとともに帰ってくる。
シスター達の声が、笑顔が、帰ってくる。
今日は本を読む日らしく、サボは船についての本を朗読していた。私に読み聞かせてくれているらしい。
私は初めて自分から、鳥かごの外に手を伸ばした。かごを背もたれにして座るサボの肩に触れる。
糸くずが付いていた。それだけだった。
「……お!?どうした?この本、嫌いだったか?」
「……んーん、そうじゃないの」
「! い、今……!は、初めてだ。 アンが話してくれた!!」
本を閉じて、感激するようにサボが笑う。目をキラキラさせるサボに、そんな大層な、と私まで思わず笑ってしまった。
「っ!! あ、アン……お前、わ、笑えるんだな」
「? 私だって、人間だもの。笑うし、泣くよ」
「お、あ、おぉ!っそ、そうだよな! 笑うし、泣くし、喋るよな!!」
どうしてか慌てふためくサボの姿が面白くて、私はもう一度静かに笑った。
するとサボも鼻の下をこすって笑うので、私は、込み上げてくる感情をそのままに、涙をこぼしてしまうのだった。