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「いやァ、アンのお陰でゴミに埋もれず済んだ!ありがとう!」
紡がれたお礼に、思わずキョトンとしてしまう。
「……お礼を言うのは、私のほう。ありがとうサボ。私を逃がしてくれて」
私の言葉にニッカリと歯を見せたサボは、照れくさそうに頬をかいた。
そんな彼に、私は笑みを返した。
「ねぇサボ……私、本当はなまえって言うの」
「! 名前……あったんだな」
「……うん。黙っていて、ごめんなさい」
謝りつつも、やっと言えた解放感にスッキリする。ずっとサボを騙しているように感じていたのだ。
サボは気にしていないと首を振って言う。
「おれ、それよりも嬉しいんだ。これでようやく”初めまして”だろ!」
まぶしい。
彼の姿が輝いていて、まぶしい。思わずぱちぱちと瞬いた。サボはそんな私を不思議そうに見てから、行こう!と森へ足を進めたのだった。
森の中、サボは誰かと約束をしていたらしい。空を飛んで来たことで大分時間の短縮になったそうだ。
グレイターミナル……とても、ひどい場所だった。眼下に広がっていたゴミの山を何とはなしに思い出す。どこからか煙が出ていて、何とも不衛生そうな臭いがした。今もする。
本当にあそこで暮らす気なのだろうか。
「いやァ、よく考えると、なまえがターミナルに行ったら病気になってたかもしんねェ。なまえ、すぐ寝込むもんな」
「えっあっ、……そ、うかも?」
ちょうど同じようなことを考えていたところだったので、何と返したら良いか悩む。
そんな私にサボは笑うと、少し待ってろ、と告げて、ひょいひょいと木を登って辺りを見回し始めた。
こんなに深い森に入るのは初めてだ。此処で誰かと待ち合わせをしているらしいけど、果たしてどんな人なのだろうか。
……人、なのだろうか。
熊とか、もっと別の何かだったとしても驚かないようにしよう。サボの友人なのだし、失礼は良くない。
ひっそりと決意していると、サボが木の上で あ!と声を上げた。
「居た居た!エースだ!」
サボが嬉しそうに笑い、ぴょいと木から飛び降りる。私だったら、骨の一つでも折りそうな高さであるけれど、彼にはなんともないらしい。平然と降り立ち歩き出した。
彼の見つめる先を私も一生懸命見たけれど、人影は見えない。
「おーい!エース!こっちこっち」
小声で声をかけつつ、ぐんぐんと進むサボの後ろを小走りに追う。
羽が木の枝や草に引っかかっては動きを止めてしまう私を気にしてか、サボは私の右手を握った。
人と手を繋ぐなんていつぶりだろう……。
何となく気恥ずかしい。
少し歩くと、すぐに開けたところに出た。大きな木々は見上げても天辺が見えず、また生い茂る草や倒木によって森は天然の迷路と化している。
一人になったら確実に迷う。私は恥を捨てサボの手を強く握った。
キョロキョロと辺りを見ていると、調度私たちの目の前の茂みが動いた。
ドキリと跳ねた胸を手で抑え注視する。
茂みをかき分け、出てきたのはサボと年かさの変わらない少年だった。
「サボ!……と、誰だ?」
少年と目が合うと、彼は私を警戒するように眉間に皺をよせた。じろりとねめつけられる。
「あ、私……」
「エース、そうにらむなよ。前に話したろ?ようやく準備が出来たから、逃がしてきたんだ!」
「……あァ。サボの言ってた……アン、だっけか」
「えっと……アンも私の名前なんだけど……今は、なまえ、です。サボも、改めてよろしく……ね?」
エースは私のつま先から頭のてっぺんまでをジロりと見ると、フン、と鼻先を外に向けた。
「おいサボ、こんな女すぐに死ぬんじゃねェか」
「なまえはおれが守るからいーんだよ。妹みたいなもんだ!」
片眉を上げたエースに、サボはにししっ、と笑った。
仲良しなんだなぁ、と思うと、ホッとして顔が緩む。サボの気持ちも純粋にうれしくて、私はとても暖かな気持ちになった。
けれど、妹。妹か……。ほんの少し前までは、私にも姉が居た。きゃあきゃあと甲高い声を上げては、私を構ってくれていた姉が。
血の繋がりなど当然なかったであろう、あの教会の皆は、一番小さな私を猶更可愛がってくれていた。
今度は、私が年下を守る番なのではないだろうか。
これだけ世話になっているのだから、私も、お姉ちゃんにならなくてはいけないのでは、ないだろうか。
前世の存在が私にそう思わせた。
「サボ、わたし、7歳だから、サボよりお姉ちゃんだよ」
空気を読まずに投下した私の発言に二人の顔が引きつる。
「はァ!?」
「いやいや、嘘だろ。お前本当に数、数えられるのか?」
「どうみても5歳とか、そこらへんだ」
「えっ。……でも、サボ、6歳でしょう?わたし、本当に7歳だもの。 エースくんは何歳?」
「おま、おま、な、おれの話聞いてたのか?ええ!?」
「なんでお前に教えなきゃいけねーんだよ」
「っていうか、7歳だとしてもアンが……なまえが姉とかありえねー!」
「私、弟が出来るの初めて……!」
「「マイペースかお前!!」」
二人の合わさった呼吸に、私はキョトンとして首をかしげる。
サボにはとてもお世話になったし、確かに迷惑をかけたから、其処は申し訳ないと思っているけれど……。
姉になるのに何か不都合があるのだろうか。ちらりとサボとエースに視線を向ける。二人はお互いの顔を見合わせ何かをコソコソと話していた。
……何だか少し、疎外感。
「……おい、なんか聞いてた話とちげェぞ」
「おれも驚いてる……話してくれるようになるまで何か月もかかったし、普段もあンまり喋んなかったから……っていうか!おれは何か月もかけてアンと話せるようになったのに、何でエースとはすぐ喋れるんだ!?」
「知らねェよ」
「ずりィぞエース!」
「ハァ!? おま、やめろばか! ぐるじぃ!!首じま……っ」
……仲が良いのだなぁ。
エースくんのタンクトップを鷲掴み激しく揺らすサボと、赤いんだか青いんだか不思議な顔色をしているエースを見てしみじみ思う。
脳裏にいつも私を構ってくれた兄姉の姿が思い浮かんだ。
「ねぇ、サボ、エースくん、私、二人のお姉ちゃんとして頑張るからね」
拳を握る私に、サボは複雑そうな顔をし、エースは額に手を当て、ゆるく頭を振った。
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「いやァ、アンのお陰でゴミに埋もれず済んだ!ありがとう!」
紡がれたお礼に、思わずキョトンとしてしまう。
「……お礼を言うのは、私のほう。ありがとうサボ。私を逃がしてくれて」
私の言葉にニッカリと歯を見せたサボは、照れくさそうに頬をかいた。
そんな彼に、私は笑みを返した。
「ねぇサボ……私、本当はなまえって言うの」
「! 名前……あったんだな」
「……うん。黙っていて、ごめんなさい」
謝りつつも、やっと言えた解放感にスッキリする。ずっとサボを騙しているように感じていたのだ。
サボは気にしていないと首を振って言う。
「おれ、それよりも嬉しいんだ。これでようやく”初めまして”だろ!」
まぶしい。
彼の姿が輝いていて、まぶしい。思わずぱちぱちと瞬いた。サボはそんな私を不思議そうに見てから、行こう!と森へ足を進めたのだった。
森の中、サボは誰かと約束をしていたらしい。空を飛んで来たことで大分時間の短縮になったそうだ。
グレイターミナル……とても、ひどい場所だった。眼下に広がっていたゴミの山を何とはなしに思い出す。どこからか煙が出ていて、何とも不衛生そうな臭いがした。今もする。
本当にあそこで暮らす気なのだろうか。
「いやァ、よく考えると、なまえがターミナルに行ったら病気になってたかもしんねェ。なまえ、すぐ寝込むもんな」
「えっあっ、……そ、うかも?」
ちょうど同じようなことを考えていたところだったので、何と返したら良いか悩む。
そんな私にサボは笑うと、少し待ってろ、と告げて、ひょいひょいと木を登って辺りを見回し始めた。
こんなに深い森に入るのは初めてだ。此処で誰かと待ち合わせをしているらしいけど、果たしてどんな人なのだろうか。
……人、なのだろうか。
熊とか、もっと別の何かだったとしても驚かないようにしよう。サボの友人なのだし、失礼は良くない。
ひっそりと決意していると、サボが木の上で あ!と声を上げた。
「居た居た!エースだ!」
サボが嬉しそうに笑い、ぴょいと木から飛び降りる。私だったら、骨の一つでも折りそうな高さであるけれど、彼にはなんともないらしい。平然と降り立ち歩き出した。
彼の見つめる先を私も一生懸命見たけれど、人影は見えない。
「おーい!エース!こっちこっち」
小声で声をかけつつ、ぐんぐんと進むサボの後ろを小走りに追う。
羽が木の枝や草に引っかかっては動きを止めてしまう私を気にしてか、サボは私の右手を握った。
人と手を繋ぐなんていつぶりだろう……。
何となく気恥ずかしい。
少し歩くと、すぐに開けたところに出た。大きな木々は見上げても天辺が見えず、また生い茂る草や倒木によって森は天然の迷路と化している。
一人になったら確実に迷う。私は恥を捨てサボの手を強く握った。
キョロキョロと辺りを見ていると、調度私たちの目の前の茂みが動いた。
ドキリと跳ねた胸を手で抑え注視する。
茂みをかき分け、出てきたのはサボと年かさの変わらない少年だった。
「サボ!……と、誰だ?」
少年と目が合うと、彼は私を警戒するように眉間に皺をよせた。じろりとねめつけられる。
「あ、私……」
「エース、そうにらむなよ。前に話したろ?ようやく準備が出来たから、逃がしてきたんだ!」
「……あァ。サボの言ってた……アン、だっけか」
「えっと……アンも私の名前なんだけど……今は、なまえ、です。サボも、改めてよろしく……ね?」
エースは私のつま先から頭のてっぺんまでをジロりと見ると、フン、と鼻先を外に向けた。
「おいサボ、こんな女すぐに死ぬんじゃねェか」
「なまえはおれが守るからいーんだよ。妹みたいなもんだ!」
片眉を上げたエースに、サボはにししっ、と笑った。
仲良しなんだなぁ、と思うと、ホッとして顔が緩む。サボの気持ちも純粋にうれしくて、私はとても暖かな気持ちになった。
けれど、妹。妹か……。ほんの少し前までは、私にも姉が居た。きゃあきゃあと甲高い声を上げては、私を構ってくれていた姉が。
血の繋がりなど当然なかったであろう、あの教会の皆は、一番小さな私を猶更可愛がってくれていた。
今度は、私が年下を守る番なのではないだろうか。
これだけ世話になっているのだから、私も、お姉ちゃんにならなくてはいけないのでは、ないだろうか。
前世の存在が私にそう思わせた。
「サボ、わたし、7歳だから、サボよりお姉ちゃんだよ」
空気を読まずに投下した私の発言に二人の顔が引きつる。
「はァ!?」
「いやいや、嘘だろ。お前本当に数、数えられるのか?」
「どうみても5歳とか、そこらへんだ」
「えっ。……でも、サボ、6歳でしょう?わたし、本当に7歳だもの。 エースくんは何歳?」
「おま、おま、な、おれの話聞いてたのか?ええ!?」
「なんでお前に教えなきゃいけねーんだよ」
「っていうか、7歳だとしてもアンが……なまえが姉とかありえねー!」
「私、弟が出来るの初めて……!」
「「マイペースかお前!!」」
二人の合わさった呼吸に、私はキョトンとして首をかしげる。
サボにはとてもお世話になったし、確かに迷惑をかけたから、其処は申し訳ないと思っているけれど……。
姉になるのに何か不都合があるのだろうか。ちらりとサボとエースに視線を向ける。二人はお互いの顔を見合わせ何かをコソコソと話していた。
……何だか少し、疎外感。
「……おい、なんか聞いてた話とちげェぞ」
「おれも驚いてる……話してくれるようになるまで何か月もかかったし、普段もあンまり喋んなかったから……っていうか!おれは何か月もかけてアンと話せるようになったのに、何でエースとはすぐ喋れるんだ!?」
「知らねェよ」
「ずりィぞエース!」
「ハァ!? おま、やめろばか! ぐるじぃ!!首じま……っ」
……仲が良いのだなぁ。
エースくんのタンクトップを鷲掴み激しく揺らすサボと、赤いんだか青いんだか不思議な顔色をしているエースを見てしみじみ思う。
脳裏にいつも私を構ってくれた兄姉の姿が思い浮かんだ。
「ねぇ、サボ、エースくん、私、二人のお姉ちゃんとして頑張るからね」
拳を握る私に、サボは複雑そうな顔をし、エースは額に手を当て、ゆるく頭を振った。