09 わをもって貴しとする



 なんやかんやあってアッパーヤードを制圧したエネルとその仲間達。
 そりゃあもう反発が凄かった。そりゃそうだ。王位の簒奪と何ら変わらないし、シャンバラの人から見ればガンフォールもエネルも不法占拠者。納得出来る部分しかねぇ。

 そんな情勢でふらふらとしていれば勿論、ある程度の厄介毎には巻き込まれるわけで。

「圧縮(シピエス・エイル)!!」
「ぁ……!!」

 注射器に入った空気が圧縮されるとその力を押し戻すように、俺はその男に迫った攻撃を空気の反動で押し戻した。これによって近づかなくても攻撃を避けたりいなしたり出来るんだから本当にロギアってチート。超嬉しい。

 あー、間に合った間に合った。流石にね。目の前で人が死にそうになっていたら助けてしまうよね。
 背中についている布がひらりとはためく。エネルが太鼓を背負っているのに対し、俺は天女の羽衣のような布を背負っていた。

「ゲイア様!!」
「貴様、風神……!!」

 片や神官シュラ、片やゲリラの誰か。二人は大きく跳んでお互いに距離を取ると、その間に俺を挟んで再び対峙した。
 
 心鋼を持っていないとうかつに散歩も出来んのかこの島は。いやまぁ前述のとおり、理由については明白なんだけれども。
 俺は肩を落としてため息をつくと、民族衣装を着たゲリラの一人をチラリと見降ろした。身長差があるとどうにも威圧感を与えてしまう。そんな俺に声をかけたのはシュラだった。

「ゲイア様、何故ここに!御付きの者はどうしたのです」
「あ〜……撒いてきた。というか、ただの散歩のつもりだったんだよなぁ。うーん……」

 どうしよう。うっかり助けてしまった男を前に、俺はううむ、と首を傾げる。
 一度助けてしまったからには、じゃあそう言うことでサヨウナラ、とはいかないし、かと言って責任もって俺が戦うというのも絶対嫌だ。本当に俺そういう荒事向いて無いから。ヤダヤダー、おにいちゃん争いとか苦手ですぅ!

 律儀にもフザ(シュラの飼ってる鳥)から降りたシュラは、俺の斜め後ろに控えるようにして立った。せめてシュラでなくゲダツだったらなぁ。うっかり彼を逃がしてくれそうなものなのだけど。

「うーん。ダメ元で聞くけどさァ、彼、逃がしてあげない?」
「……ゲイア様、それは……」
「だよなぁ。えー、でもさァ、なんか……こう、上手い事行かないかなぁ」
「上手い事というと、例えば?」
「俺たち無傷。彼は生きながらえる。アッパーヤード平和。みたいな」
「カハハハ、ゲイア様は冗談がお上手で」
「やっぱそうなるよなぁ」

 こうして談笑している間にもシュラの視線は的確にゲリラを捉えているし、ゲリラ側も恐らく俺とシュラをどうにかしてやろうと殺気立っている。
 ダメかなぁ。ダメだろうなぁ。命令なら聞くだろうけどなぁ。くそう、散歩とか言って森に入るんじゃなかった。ジャングル探検ではしゃぐには心鋼が必要なんですね分かりました。次からはエネルを誘おう。

「あー、うーん。よし、じゃあこうしよう。シュラ、彼はあれだ。神の御加護があったということにしよう」
「む……ゲリラをお許しになるのですか?」
「許す許す。俺が許す。俺がこうしてたまたま此処に居るのもあれだ。縁みたいなもんだ」

 ゴリ押しだが、俺がこう言えばシュラには覆せない。シュラは槍を肩に担ぐと、やれやれ、とでも言いたげに首を振った。
 反論自体は出来るのに、それをせず俺の言う通りにしてくれるとこ最高に良い奴だなシュラ。今度何か良い物やるからなシュラ。

「っ!!黙って聞いていれば!此処は元々我らの祖先の地!お前の慈悲なぞいらん!! 風神ゲイア、覚悟ッ!!」
「げ。もー……」

 いつのまにか出来た俺らの通称「風神ゲイアと雷神エネル」。エネルの名前が後ろに来ているのが許容されている時点で誰が広めたのか丸分かりのそれは、瞬く間にスカイピア全土に広がったらしい。
 ゲリラの男は死ぬ前に一矢報わんと言わんばかりの勢いで、刃を片手に突進してきた。あ〜〜も〜〜。

「神の御前で!頭が高いッ!!」

 そして当然のようにシュラに迎撃された。思いっきり吹っ飛んだゲリラをエアバッグの要領で助けてやるが、男は相変わらず殺気立って俺を睨みつけてくる。もーマジ怖い。身体は動かないだろうに、どうしてそうも意志が強いんだシャンドラの人たちは。

「も〜〜。ままならねぇ〜〜。シュラ、そいつ殺さないで適当に離れたところに捨ててこい。殺すなよ」

 やってられん。俺は男の周りに空気を少しだけ奪って意識を落とし、地面に崩れ落ちた男をのの様棒でつっつく。シュラはため息をついたがそれを拒否せず、「かしこまりました」とだけ言って、フザに乗って飛んで行った。

「平和が一番なんだけどなぁ」

 金で出来たのの様棒を肩に担いで、俺は鬱蒼としたジャングルへとまた足を進めた。
 帰り道が分からなくなっていた。
 ほんっっとままならねぇ……。




prev next