12 さあ出番だ!



 きた!きた!遂に来た!

 マクシムの完成を伸ばしに伸ばして早数年。それ本当に必要か?というような機能をワガママで作ったり、これ本当に良いのか?というような部屋を沢山作って、最終的にマクシムを変形ロボにしたいと叫んで拳骨を食らった甲斐があった。顔がついてんだから手と足が付いたって良いやろがい……。

 青海のことはまるで知らんが、ノックアップストリームに乗って、羊の船首をした船が入国審査を通らず入ってきたと連絡があったのだ。きっと、いや絶対そうに違いない。
 楽しそうに耳を澄ませているエネルの隣に寝転んで、俺はバタバタと脚を振った。え?俺の年齢?当然エネルと一緒だよ!

「やけに嬉しそうじゃないか」
「はは、まぁね。青海の海賊、久しぶりだろ?」
「ついこの間も来たろうに」
「それ、一ヶ月以上前だろ。十分久しぶりの範囲さ」

 目を開けて不満そうに俺を見下ろすエネルくん。我が弟は本当に可愛い。これはきっと嫉妬だな。

「ヤハハ、不快なことを考えている顔だなゲイア」
「痛い痛いいだだだだだっ!やめ、おま、何で空気の俺の顔を鷲掴めるんあだだだだだだ!!」

 懸念と言えばこれだ。
 まさかのエネルくん、武装色の覇気習得。いくつになっても向上心のある弟かっこいい!なんて思ってたけれど、良く良く考えてみれば恐ろしいことこの上ない。
 麦わら達に弟がボッコボコにされるのは困るけど、可愛い弟が主人公を殺しちゃうのはもっと困る。

 的確に俺の米神へとダメージを与える手のひらを何とか引き剥がし、俺はわざとらしく顔を擦った。
 DV反対。二人きりの兄弟なんだから、もう少し兄に優しくなれないものか。

「私ほどお前を甘やかしている者はおらん」
「頭の中読むのやめて?」
「ヤハハハ、読むまでもないわ。……んん?」

 憤慨している俺をあっさり放置して、エネルは腕を組み首を傾げた。何だ何だ。これだから末っ子はマイペースでいけない。
 じゃれている俺とエネルに苦笑いしたヤマは、「ゲイア様、お戯れもほどほどに……」と手に写真と思わしき紙を数枚持ってやってきた。それを俺に差し出すと、いっそわざとらしいほどに恭しく頭を下げる。

「ゲイア様、此方が此度の犯罪者共です」
「うむ、ご苦労。はー、七人!あれ?こんなに少なかったっけなぁ」
「なんと、面識があるのですか!?」
「あるわけないだろ。青海人だぞ」

 あぶねぇ。うっかり呟いた言葉に反応したヤマを軽くあしらって、そろりとエネルの方を見た。焼き餅焼きの弟……というのは当然冗談だが、俺が青海の海賊と知り合いだとエネルに思われたら面倒だ。
 鬼のような形相、もしくはこれからネズミを甚振る猫のようなエネルの顔を想像し、横目で彼の顔を覗き見る。が、そこには予想と違い、思ったよりも静かに目を閉じた弟が居た。

 ……目を閉じた?

「エネ……ッ!?」

 轟音。
 エネルの身体から伸びる雷の光が空気に糸を引いて、消える。
 突然の轟音は、俺達の遥か下で起きたようにも、すぐ横で起きたようにも聞こえた。
 慌てて身体を起こせば、エネルは目を開いて俺をうっそりと見つめていた。

「な、何を」
「ヤハハハ、お前の作った神の法を、破る天使が居たのでな……」
「はァ!?おま、もし、もしかしてエンジェル島に……!?」
「なぁゲイア……兄上。我が唯一の兄よ。……やはり今回の青海人と、他の青海人との扱いが、随分と違うなァ」

 はァ!?
 再度声を上げて、俺は悪い予感にエネルから距離を取った。こんなエネルの顔は見たことが無い、気がする。
 手の中の写真に皺が寄り、手汗で湿っていくのが分かった。

「あの者達はお前の何だ?」
「何でも無い。ただの不法入国者だ」
「おいおい、まさかこのおれが、そんな嘘に騙されると本気で思っているのか」
「嘘も何もない。俺とエネルは、ずっと共に居ただろう」
「ああそうだ。ずっと共に居た。このおれの半身。我らは二人で一つの柱だ」

 エネルが何を考えているのか分からない。
 初めてのことだ。
 彼が月を目指した時も、故郷を雷で沈めようとした時も、俺は弟が何をしようとしているのか、何となく察することが出来た。勿論過去の記憶のお陰でもあるが、それでも俺は、彼の人となりを、把握できていると思っていたのだ。
 なのに。それなのに、今は。急変したエネルの態度に、自然と足が動いて彼と距離を取った。

「どうしたんだよ、エネル。嫉妬にしちゃぁ、随分剣呑じゃないか。兄上ドキドキしちゃうぞ。ははは、そんな怖い顔をするなよ、凛々しい顔が……」
「ゲイア、”帰りたく”はないか」

「…………えっ」

 瞬間、近づくエネルの顔。尾を引く光の色。俺は自分が空気になれることも忘れて息を呑んだ。
 そして、腹部に衝撃が走る。 

「ぐァッ……ッ!?」

 エネルの右腕が俺の腹に食い込んだ。何処か遠い所で起こったことの様に感じていた。

 帰る?帰りたくないかって、そりゃ、お前。

 的確に俺の鳩尾を捉えたエネルの拳は黒く光るようだ。
 だからDV反対だって。
 エネル、俺の弟。
 主人公が来て、どんな話の流れだったっけ。
 俺は頭に過った考えを押し流すように思考を巡らせ、

「しばらく寝ていろ。目が覚めたら一緒に帰ろうじゃないか、なァ、ゲイア」

 俺は身体が求める本能のまま、細く繋がる意識を手放した。





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