04 おだやかなひびよ、わが愛よ
悪魔の実を食べてからも、ビルカは至って平穏だった。
「なァエネルや」
「なんだゲイア」
「平和だなァ」
「……それがどうかしたか?」
嫌そうに眉間に皺を寄せるエネルは、至極うっとおしそうに俺を見た。つめたァ〜。はー。ビルカは平穏そのもであるが、なにを隠そう我が弟エネルくんはがっつり遅れた反抗期を顕現させていた。しかも俺に。
そこは父や母では無いのか?と思いはしたが、あの二人は仕事に忙しい。えらーい人であるから、ふんぞり返って偉そうにしていないだけ良い両親だ。いや、まぁ、親としては……どうなんだろう?俺の主観は庶民のままで、貴き血の人達は皆こんな感じなのかもしれない。
端的に言えば完全放置、だった。いやもう俺らそこそこ良い歳なんだけどね。さらに言っちゃえば彼のこのスタンスはいつものことでもある。
「あ〜……エネルくん、お兄さんを踏んづけるのやめて?」
「貴様のその貧弱な二の腕を鍛える手伝いをしているのだ。有りがたく思え」
「えいやっ」
ドスン、と音を立て、バーベルを片手で上げ下げしていたエネルが俺の背中から落ちた。尻餅をつくような無様な真似は当然していない。
腕立て伏せを止め、俺を貫通する片足から逃れるように転がればエネルはニヤリと笑った。
「あ、ちょ、おまビリビリ付きは卑怯!」
「フフン、随分回避が上手くなったじゃないか」
地についた片足も重そうなバーベルもそのままに、エネルは反対の足を雷に変えて追撃する。
腹這いのまま慌てて雷を避ければ、すぐ隣の床が熱で焦げた。おいおい虐待か?!お兄様泣くよ!?
大袈裟なまでに床を転がる俺を見て、エネルは「ヤハハハ」と笑ってダンベルを投げ捨てる。
「げっ」
「こう平和では刺激が足りないだろう?」
頭蓋骨直撃コースのバーベルは、まだ俺には持ち上げられないものだ。さらにいえば二メートル地点から落ちる鈍器を腕だけでキャッチなぞ、普通に無理。
俺は身体を空気に溶かすと、肩車をされるようにエネルの肩へと実態を戻した。ズシィーンとバーベルが落ちて、床に罅を入れた。
……わぁい、四メートルの視界って高いなぁ!あほか。俺は兄へ鈍器を振るった弟へ教育的指導をするため、米神を締めるよう拳を当てた。
「教育的指導だコラー」
「あほか。双子の片割れに暴力を振るうなぞ、お前にこそ教育的指導が必要よ」
「はぁ?お前さっきのビリビリスタンプやらバーベル落としは暴力じゃないと?」
「当たらぬものは暴力ではない」
「じゃあこれも当たってないだろ」
「肩に乗って過度な負担を強いている」
嘘つけ。俺はエア、つまり空気だ。軽い重いなぞ感じてもいないはずだし、俺が此処でエアエアを止めたとしてもエネルがこの程度で負荷に思うはずがない。
が、俺はあまりの言い様に笑ってしまった。
「ふ、ふふふ、はははは!」
「ククッ、ヤハハハハ」
エネルの頭を抱えるように片手で持って、笑い出せばエネルも笑う。
俺らに友達はいない。ご学友という下僕ばかりいる。何故なら、俺らの親がえらーい人だから。
だから俺とエネルはこうして、二人きりの部屋でお互いだけを遊び相手に笑うのだ。
「俺、エネルが居て良かった」
「ヤハハ、そう思うのであれば少しは弟を労ったらどうだ?」
「そんなエネルきゅんにはお兄ちゃんからのチューを贈呈します」
「ふざけろ」