▼2024/02/19:氷砂糖から孵化する翅は
つい一昨日、ロリィタになろうと思い立った。心が傷ついて、辛くて、苦しくて死にたくて仕方ない。号泣しながらYouTubeの『お文具さん』のアニメ動画を見て、『自殺』『安楽死』と検索した結果を読んで泣き続けて日付が変わっても眠れない。翌日はどうにか仕事に行って働けたけれど、死にたさも辛さも消えなかった。こんなにも辛いなら死んでしまおうかと思いながら、それでも死にたくなかった。やりたいのにできていない事、書き切れていない小説やイラスト、追求したいメイクもある。そして沸々と『可愛い女の子になりたい』気持ちが湧きあがってきた。そうしないと死んでしまう気がした。次の日はたまたま休日で、紀伊國屋書店に赴いて目に留まった本──川野芽生さんの『かわいいピンクの竜になる』の表紙を開く。文体は初め『読み易い』以外の感想が無かったのだけど、数行読み進めてふと感じる。
これは、私の為に書かれた本だ。
ロリィタや可愛らしいもの、綺麗なものたちについて紡がれる文章はどうしたって素敵でしかない。私がずっと求めていたものが目の前に現れたと感じたから、迷わず会計に持って行く。
私は死にたくて仕方ない時や苦しくて辛くて耐えられない時、書店に向かう事にしている。書店は私が衝動買いを自分に許す唯一の場所だ。死にたいけれど死ぬのは怖い。やりたい事も行きたい場所も見たいモノも沢山ある。痛いのも苦しいのも嫌だ。涙が止まらない夜は何回あっただろう。今こんなに辛くて、私はいつになったら強い大人になれるのか。
仕事を辞めてしまおうかとも思った。でも、こんなにも居心地が良くて優しい人達ばかりの職場よりも良い所なんてあるか分からない。
こんなにも死に近い場所に居るのは久しぶりだ。戻ってきたと言っても良いかもしれない。だからこんなにもレースやフリル、リボンが恋しいのだ。薔薇の花弁めいた繊細な布を見ていると少しずつ心が癒される。十字架やお花や星々のプリントも愛おしいし、ふんわりと膨らんだスカート、チュールのパニエ、パフスリーブの袖も可愛くて仕方ない。暫くの間私は所謂一般的なお姉さんの格好をしていた。Vネックのワンピース、チャコールグレーにオーロラカラーのロゴが素敵なスウェットも嫌いになったわけじゃない。でも、今の私はアンシャンテリックアンシャンテリーの菫柄のワンピースやMILKのグラフィック柄スカートやさくらんぼモチーフのネックレス、星箱worksの星座モチーフスカートを身につけたい。どうせいつか死ぬなら、自分が本当にそう在りたい姿になっておきたい。
だから、まだ死ねない。もしも私が死んだら、この脳内に渦巻く素晴らしい物語は何処に行くのだ。あの魅力的な個性を持つキャラクターは生きる場所をなくすし、あの、歪みながらも美しい情景もどうなるのか分からずハラハラする場面も、使ってみたい取って置きの台詞が消えるなんて嫌だ。まだ死んではいけない。
それを思い出させてくれたこの本は、きっと私の為に書かれたのだ。
インテリアコーディネーターの二次試験に不合格だと判って、私の中で何かが崩れた。それまで如何にかやり過ごしていた日常がますます色を失くし、毎日死にたくて仕方なかった。過去形で書いているが、今も辛い。死なないとは決めたものの、生きている事がこんなにも辛いのは久しぶりだ。何をしても楽しくなくて、生きる意味を問い始めてしまって、ふとした瞬間涙がこみ上げる。色々と辛い事が重なってしまったのが要因の一つではあるものの、私は随分と無理を続けてしまったようだった。『これが普通なのだ』と自分に言い聞かせて必死に歯を食いしばり職場へ向かって、結局また折れてしまった。八時間労働は私にはまだ早かったらしい。
職場の皆さんにも、『矢野さん大丈夫?』と思われていたようだ。先月からずっと辛かった。苦しいし、生きているのがもう無理だと思いながら接客したって楽しくない。毎日、生きるのが苦痛だった。それでも自暴自棄にならなかった事は褒めて欲しい。それでも、毎夜号泣してから眠りに就く事が続くと普通に限界だ。
職場の上長には休職を勧められた。私もそうした方が良いように思えた。自殺するよりはマシだろうと。でも収入が途絶えると同時に私の趣味の幾つかは諦めなくてはならない。帰宅する途中、スマートフォンで傷病手当金について調べたのも無理からぬことだろう。私はお金がかかるタイプの女の子だ。如何にかやりくりして貯金しつつも好きなものを購入してきたのが本当に救いだったのだ。髪の毛を切って好きな色にするのにも、素敵なネイルアートを施すのにもお金が必要。コスメもお洋服もアクセサリーも時計も、タダでは手に入らない。だから働いてきたのに。
こんな病気になんて、なりたくなかった。けれども、此処で死んだら病気に負けたと認める事になる。
戦ってやろう。負けて堪るか。この脳内で絶えず生まれる物語を書き尽くすまで死んでなんてやらない。死神の大鎌を持つ腕に蹴りをかましてやろう。どうせ骨格しかないんだから直ぐに折れるでしょ。私は死んでなんかやらないし、そうそう簡単に倒れて堪るか。これは宣戦布告だ。何処の誰か知らないが、私は一筋縄ではいかない女の子だ。
みたいに思った影響なのか、一昨日くらいからロリィタになりたくて仕方ない。ふわふわのフリル、シフォンの袖やきゅっと結ばれたリボン、繊細に編みこまれたレースを纏って街を歩きたいのだ。過去にゴシックロリィタだったこともあるが、今は玄よりもパステルカラーやダスティカラーのふわふわした色遣いやイチゴやさくらんぼのモチーフに心惹かれる。天使とか、お人形とか、エルフとか、ユニコーンとか。可愛らしいものを自分に許せるようにもなったし、今までなら可愛すぎて敬遠していたものを『可愛すぎ。欲しい』と思って昨日は買い物三昧だった。戦利品の写真は後でInstagramにアップする予定。
ロリィタになると決めてから、年齢も急に気にならなくなった。今年三十二歳とか、お洋服や装いに関係ないしただの数字だ。誕生日は私の製造番号。単なる記号でしかない。だって、私が可愛い格好をしていても誰にも迷惑をかけないのだ。寧ろメンタルが悪化して休職する方が迷惑だと思う。
私は自分を救うために可愛くなるのだ。金平糖みたいに甘くて、蜂蜜みたいにツヤツヤで、重なり合う花弁みたいに瑞々しい装いこそが相応しい。決めた。私はロリィタとして生きていく。