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「すみません...。結局休ませてもらって」
白を基調とした部屋の中、桐島は起き上がると側に置いてあった眼鏡をかけ、保健医である金崎静雄に謝った。
本来ならば女性である事が多い保健医だがここは男子校ということもあり男性保健医となっている。
「いやいや、何を言っているんですか。桐島先生、38度の熱を出していたんですよ? 自宅は一人暮らしって言うからここにいてもらうしかないじゃないですか。家に一人で居たって治りゃしませんよ」
白衣に身を包み腕を組み仁王立ちの金崎に叱られる子供のような図になっているが言っている事は正論なので仕方ない。
「本当にすみません。...こんなに酷いと思わなかったもので... 」
そうなのだ。
朝の登校から伊藤が付き添ったままこの保健室へと連れられて、いざ熱を測れば想像以上の高熱に伊藤から「ほらやっぱり」と溜息を吐かれる始末。
金崎からは強制休養を言い渡され結局朝から昼間になるまでこの保健室で寝ていたのだ。
「はぁ、とりあえずもう少しこのまま休んでいてください」
体感的にはだいぶ楽になったので大丈夫かと思い起き上がってみたが仁王立ちの金崎に打診する勇気がなく素直に従うことにした。
「ありがとうございます...」
もう一度横になろうかとしていたところでけたたましく扉を開ける音がすると中から顔を出したのは
「...キリちゃん、もう良いの? 」
桐島を保健室へと連れてきてくれた伊藤であった。
「あっ..「桐島先生はまだ駄目だ。今日は放課後までこのまま休養! 」...ということ」
桐島が返答する前に仁王立ちの金崎が答えてしまった。
けして間違いではないのでその答えに乗っかる。
それでも朝の具合の悪そうな桐島を心配していた伊藤。
「...でも朝よりは顔の赤みがだいぶ引いたね」
近づいてきた伊藤は手の甲で桐島の頬を撫でた。
「だ...大丈夫」
突然の近さにまたもや頬が赤くなる感じがする。
「あーコホン。...伊藤、桐島先生は病人だから...自重な? 」
間近にいた金崎に苦笑交じりに言われれば伊藤はさっと手を退ける。
「ところで伊藤、まだここにいるなら今のうちに昼メシ食べてきていーか? 」
「ん? いーよ。どーせ、昼休み中はいるつもりだったし」
「そんなの悪いし、一人で大丈夫」と頭の中では言ってみたものの口に出すタイミングを見つけれず桐島はそのまま享受した。
「ねぇ、キリちゃん、喉乾いてない? 」
横になっていた桐島に「コレ持ってきたんだー」とブルーの爽やかなパッケージのスポーツドリンクをニンマリして見せると桐島の頬にドリンクを当てる。
「冷たいの気持ちくない? 」
熱は引いたもののまだ薄っすらと熱をこもらせていた体には気持ちよく。
自然と頬をドリンクにすり寄せた。
「うん...気持ちいい」
「よかった。そしたら起き上がって飲もっか」
常日頃ならば注意するべき言葉遣いもこんな時は仕方ない。と桐島は気にしない事にして伊藤の言う通り上半身を起こす。
「はい、飲める?」
『労わる』ってきっとこんな感じなんだろうな。などと脳裏を掠めるのはやはり桐島の頭が正常に動いてないからで。
貰ったドリンクを開けて、唇を開き流し込めば喉を潤すものの、少量のドリンクが口元から垂れてきてしまった。
「あっ、」
「キリちゃんてば、おっちょこちょーい」
苦笑しながら伊藤は周りを見回すも、新しいタオルがどれかわからず
「ごめんね、袖で拭くけど昨日洗ったばっかだから綺麗だよ」
そう告げると伊藤は桐島に近寄り己のシャツの袖で桐島の口元を拭いた。
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