6
窓越しにある外の景色は、誰もいないグラウンドと幹だけが残っている木々という寂しい風景でそこは見るからに閑散としていた。
然しながら伝わってくるのは冬独特の凜とした澄んだ空気で不思議である。
笹川は授業を聞いているフリをしながら外の景色に意識向けていた。

指定校推薦が既に決まっているのでどうしても勉強に熱が入らない。
しかし学校に行かないわけにはいかないのでとりあえず登校はする。

『どうせ家に居ても暇だし』と半ばやっつけ感もあったが今は違う。

笹川が自由を握る人間...支配できる人間がこの学校にいるのだ。

別に痛いことをしようなんて考えていない。

脅迫して、ほんの少し自分の言う事を聞いてもらい性欲処理でもさせて従わせようと。

要は『オモチャ』になってもらおうと思うのだ。

笹川は昨日見た、『オモチャ』桐島の熱により火照った顔を思い出していた。


目は焦点が合っていないのかトロンと潤んでおり、赤みをさした頬と濡れた口元はこちらを誘っているようにも見えた姿。

先日の『痴情のもつれ』からも想像できるがアレは多分男を知っている顔だ。

だとすれば、多少の処理は希望が持てそうだ。

『....せんせぇ』

家に帰ってから改めて見た動画にしっかりと映っていた甘えるような、懇願するような桐島の声。

昨日の保健室で桐島を見つけた時に耳元で桐島を真似て呼べば、唇を僅かに開き、こちらを赤く火照った顔で見上げていた。

見上げてくる姿に湧いて出るのは庇護欲では無く、支配欲で笹川は桐島を『オモチャ』として中々の逸材かもしれないと期待を込めた。






休み時間になり、笹川は早速と教室を出ていき件の桐島を探し始める。

一年の校舎まで足を伸ばせば目的の人間は荷物を持ち、ゆっくりと歩いてこちらに向かってきている姿を見つけた。

しかも都合が良いことに他の生徒は見当たらない。

好都合とばかりに桐島に向かって歩けば、何やら顔を赤くしている事に気づく。

一瞬笹川は眉を顰めた。

自分の『オモチャ』になる人間がああも直ぐに何処でも顔が赤くなるのは如何なものかと、何やら自分の機嫌が悪くなるのがわかった。

桐島の方も自分に気づいたであろう事を確認すると。

優等生然とした笑顔を造り

細めた目で桐島を見据え

「...せんせぇ」

と、あの呼び方で桐島を呼んだ。

「えっ? 」

自分の声でないからだろう桐島は吃驚する。
しかしそんな桐島を気にすることなく、笹川は笑顔のまま歩いて近づいていく。

先程、少しばかり機嫌が悪くなった事が原因なのか。どうにも笹川の存在に圧迫感を感じさせているらしい。

「...桐島先生。昨日言ってた通り国語苦手なんで教えてもらいにきました」


笹川はニッコリと人好きのする笑顔で桐島に話しかければ笹川の笑顔が怖いのかみるみる内に桐島の顔が青くなってきた。

「.....」

答えれない桐島へ更に近づきながら質問する。

「先生は国語の中でも何が好きなんですか? 」

どんどん近づいてくる笹川に桐島はなんとも言えない圧迫感を感じたようで少しづつ後退していく。

「....」

未だ答えない桐島に静かに、しかし先程よりも強めの口調で質問を投げかけた。

「先生は国語の中でも何が好きなんですか? 」

「あ...あの...に、日本文学...」

ついと、桐島が答えた途端、笹川は前進するのを止める。

止まった笹川に、桐島が安堵の表情を浮かべたのがわかった。

「じゃあ、それで良いんで教えてください。放課後、第二図書室にいるのでちゃんと来てくださいね」

そんな桐島に笹川は強制的な約束をした。
どうやら桐島には訳がわからないようだったが、笹川は満足した。
踵を返し戻ろうとして、「ああ」ともう一度振り返る。

目の前のか弱い小動物を見つめる。

一応の『保険』を思い出したのだ。

「もし来なかったら」

静かに話す笹川に桐島が視線を向けている事を確認すると。
ニッコリ笑い。

「桐島先生と抱き合ってたあの既婚者の『先生』との関係、バラしますね」

とあの優等生然とした人好きのする笑顔で言い放ち笹川は満足気に今度こそ踵を返し戻って行った。
しおりを挟む 11/14
prev  next