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午後8時。
桐島は愛する教授。
斎藤との待ち合わせの為に繁華街からは一本入った裏通りにある小さな喫茶店にいた。
ジャスが流れる店内にはカウンターと少しばかりの半個室の様なテーブル席。
えんじ色のベロアのソファは座り心地が良く「この懐かしい雰囲気が好きなんだ」と斎藤は言っていた。
斎藤が来るのを頬杖をつき窓の外を眺めながら待つ。
桐島にとって逢瀬の日は嬉しいのと同時に斎藤がやって来るまでの間がもどかしくて堪らないのだ。
一日中嬉しいのともどかしいのがない交ぜになっり、教師として如何なものかと思うが今日も廊下を歩いている最中についぼーっとして生徒とぶつかってしまった。
明らかにぼーっとしていた自分が悪いと思いすぐに謝罪しようとした自分に紳士的な態度で手を差し伸べてくれたのは自分よりも大きな生徒だった。
雰囲気から多分一年ではなさそうだったが何年生かまでは分からず「すみませ…ん。あっ、ありがとうございます。」とつい敬語でお礼を言ってしまった。
「いえ。こちらこそすみません。ぶつかってしまって。」
低い声は高校生らしくなく年より落ち着いて見えた。
桐島はコーヒーを飲みながら外を眺め今日の出来事を思い出しながら斎藤が来るのを待った。
思いを馳せながらひと時を待てばコーヒーを飲み終わるのと同じタイミングでカランと扉の鐘が鳴る。
「桐島くん。随分待たせてしまったね。」
桐島が振り向いた先には白髪混じりのオールバックでいつものアイロン済みのカッターシャツを着た斎藤申し訳なさそうに立っていた。
その息は白く、外の気温が更に低くなってきたことを示す。
「いっ、いえ……。そんな申し訳なさそうにしないでください。ぼ……僕も先生を待つ時間好きなんで……」
最後の方は尻すぼみになっていったが斎藤には伝わった。
いつもならそんな桐島に優しく笑いかけるのだが今日の斎藤はそんな桐島に悲痛な顔をした。
「せんせぇ?」
斎藤の醸し出す雰囲気の異常に気づいた桐島に斎藤は目を向けると
「今日は君に話があるんだ。できれば外でしたいけれどいいかい。」
見つめてくる視線になんとなく悪い予感を巡らせて桐島はコクリと頷き斎藤について行く。
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