妄語

「コナン君、蘭ちゃん?ホテルまで一緒だったの?」
「ホテルはここじゃないよ、小五郎おじさんを見送ってきたところ」
「ああ結婚式……二人は参加しないんだ?」
「私達はそれにかこつけて京都にくっついてきただけなんです」

そう言われてみると彼女達の服装は小綺麗にしているものの結婚式に出席するようなそれではない。旅行用に新しいお洋服をおろした、そんな雰囲気。
京都といえば日本でも指折りの観光名所だ。高校生の蘭が旅行したさについてきても頷ける。

「この後どうするの?」
「大阪の友達が美味しいご飯屋さんに連れてってくれるって──」
「蘭ちゃんお待たせー!」
「あ、和葉ちゃん!」

蘭の視線の先には同年代と思われるポニーテールの女の子と色黒の男の子がいた。女の子は大きな動作で手を振っていて元気の良さが窺える。男の子の方はポケットに手を突っ込んでいて、蘭ではなくコナンを見て笑った気がした。年齢からして蘭の友達だと思うのだけれども。

「衣理さん、こちら遠山和葉ちゃんと服部平次くんです。二人とも、こちら瀧衣理さん。ご近所さんでたまたま京都に来る日が被ったの」
「あー、あんたが瀧さんか。くど……やのーてコナンの君から聞いとったわ」
「聞いたって……平次、何を聞いてたん?」
「え?何って……そらあれや、あれ」
「衣理お姉さんが小説家って話だよ!ペンネーム教えてもらえないから平次兄ちゃんと誰かなって予想してたんだ!」

色黒の男の子が私とコナンを見てしどろもどろになっている所にコナンが割って入ったの見るに、恐らく私のことは彼に話しているのだろう。となると、コナンのこと自体彼に話していることになるが。眉を下げて笑う彼は高校生くらいにしか見えないけれど、コナンや哀という前例もある、実は組織と何らかの形で関わりがあるのだろうか。

「せ、せやせや。ここで会ったのも縁やし一緒に飯でも行くか?」
「でも衣理さん用事があるからホテル出ようとしてたんじゃないんですか?」

蘭の一言ではたと思い出す。そうだった、教えてもらったお店に行こうとしていたところだったのだ。誘いは断ったものの明日も会う相手だし、感想を求められでもしたら行ってないとは言い辛い。波風を立てないためにもどちらかに行っておこうかと思ったのだが。
「ご飯に行こうかと思ってたんだけど」仕事相手からもらったメモを取り出すと二軒のお店の名前が書いてある。だが蘭の友人はコナンと蘭を美味しいお店に連れて行く準備があるのだろう。どうすべきかと少し悩んでいるとポニーテールの女の子がメモを覗き込んできた。

「ここ行きたいんですか?」
「行きたいっていうか、さっき仕事の人からお勧めです、ってもらって」
「仕事の人って、京都の?」
「まあ、はい」
「えー?性格悪っ!」
「ど、どうしたの和葉ちゃん」

ポニーテールの女の子が私の持つメモの上部を持ち、顔を歪めた。確かにこれを書いてくれた人は距離感が近く、押しが強いなとは感じたけれどこんなメモ一枚でどうこう言われるほどだろうか。
蘭と女の子がメモを見ているその後ろで、ソファーに腰掛けたコナンと色黒の男の子が何やら話し始めている。男の子とも話をしておきたいが、こちらはこちらで気になる。

「これな、上のは一見さんお断りのお店やねん」
「え?あ、じゃあその人の紹介で入るってこと?」
「それやったらその人がお店に電話して紹介ですって一筆書かなあかん。せやからここ行ったって入られへんよ」
「ええ……?」
「でも二つあるんでしょ?もう一つは?」
「こっちは観光雑誌にでっかい広告出しとるようなとこや。予約無しで行ったら行列に並んで待たなあかんし、そもそも京都の人やったらわざわざ勧めへん」
「でも……じゃあなんでその人は衣理さんに勧めたの?」
「それはわかれへんけど……」

そういえばさっきお店の情報を検索した時やたら色んなグルメサイトが引っかかっていたような気がする。観光地に来て何の予約もなしに行動する私も私だが、勧めてくれたあの人も中々抜けているらしい。

「衣理さん、この人となんかあったんですか?」
「な、なんかって?」
「仕事の人やのにこんなんしよるの、よっぽど性格悪いか衣理さんにいっぱい食わしたろ思って……あ、すみません」
「んー……食事とか観光に誘ってくれたのを断ったから……?」

抜けているのではなくて、わざとか。こんな事で怒りを覚えたりはしないが馬鹿馬鹿しくて乾いた笑いしか出てこない。目の前にいる女の子が「心の狭いやっちゃな!」と私の分まで怒ってくれているからかもしれないけれど。

「こんなん捨ててアタシらとご飯行きましょ!関西の美味しいもん食べて帰ってもらわんと!」

感情表現の豊かな可愛らしい女の子に釣られて私も笑顔になってしまう。蘭も蘭で明るくて一緒にいると元気になれてしまう、そんな女の子だけどその友達も中々どうして同じ雰囲気を持っている。
不必要となったメモをバッグの中に適当に入れ、女の子二人に並んでホテルを後にした。




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