実弥さんが帰ってからというものの、私はすぐ休めず、顔が火照ってる。
熱も微熱と平熱を行ったり来たり。
動けなくもないけど、動きたくない、そんな状態。
持ってきてくれた袋を覗くとリンゴが入ってた。
りんご…普段から食べるのかな?
剥いてる姿を想像するとクスっとしてしまう。
「おいしい」
しゃくしゃくとりんごを食べた。
隣のお巡りさん 20
【変わりないか】
珍しくメールが来る。それはもう、1時間置きとかに。
いつもなら、大丈夫です。と返信するのに、連絡を取りたくて。
というか、少し寂しくて。
体調が悪いとちょっと甘えたくなる。人に、
実弥さんだから、じゃないと思うんだけど…
ついつい、まだ喉が痛いですだの、送ってしまう。
でも不思議なことに、実弥さんもいつもと違う。
いつもなら、そうか。了解。くらいしか来ないのに今日は色々聞いてくる。
やり取りが成立している。
【熱はどうだ】
【今は落ち着いてますよ】
【飯食えてんのか】
【昨日の残りがあるので、それを】
【ちゃんと食えよ】
【リンゴいただきました】
「ふふふ」
携帯をみながらにやけてしまう。だって新鮮なんだもん。
今日は休みなのかな?割と返事がくるので妙だな、と思いながらも。
隣にいるのにメールしてるっておもしろい。
【何か欲しいものねェか】
欲しいもの?買い物でも行くのかな。
それといってないかもしれないけど、、しいていえば甘いものが欲しい。
【甘いものが欲しいですが、明日は仕事なので帰りに買えるのでいいですよ】
そう打って携帯を閉じた。
しばらくして部屋のチャイムが鳴った。
「え??また?まさかね…」
開けようとドアノブに手をかけたけど、ドア越しに声が聞こえた。
「適当に買ってきたから食えよなァ」
そういって足が遠のいた、と同時に咄嗟にドアを開けていた。
「あの!!実弥さん、、」
「…」
「あがりませんか?調子がいいので、」
「病人の家にあがれっかよ」
「熱下がりました」
嘘。下がってない。けど、なんとなく、一緒に居たいというか。
「明日は仕事なんです、お話できないかもしれないので」
実弥さんとお話したくて、なんて言えない。
素直じゃない。
「待ってろ」
一旦部屋に戻って何か書類とパソコンを持ってきた。
「すぐ終わらすからな」
*****
「わりィ…思い出させちまったな」
この前の事件の詳細を事細かくまとめていく。
私はというと、くらくらしてる。
何がって眼鏡。
眼鏡かけてパソコンをスマートに使いこなしている。
かっこいい。
かっこよすぎて。ギャップがありすぎて。
勝手に体育会系だと思ってたから。
「なんだよ」
チラと横目で見てくる実弥さん、私近かったですね。
「眼鏡かけるんですね」
「デスクワークの時だけなァ」
カタカタと部屋にはキーボードを打つ音だけ響いてる。
頭朦朧としてきた。いろんな意味で。もう頭いっぱいいっぱい。
「おい、大丈夫か?」
は、と我に返る。実弥さん見過ぎてた。
咄嗟にうわっと離れた。
「お前熱あんじゃねェか?」
「…実弥さんのせいです…」
「なんでそうなるんだよ」
そっとパソコンを閉じる彼を眺めていながら突然の眠気。
ああ、薬のせいだ。薬飲まなければよかった。
そしたらずっと見てられるのに。
「やっぱりな」
ピピと体温計が鳴った。
「だから実弥さんのせいだって…」
「歩けるか?」
大丈夫。大丈夫。そこだから。
ふらっと足元がおぼつかない私の腕を掴んだ。
「悪く思うなよ」
「へ?」
一気にふわっとなったと思った。
いわゆる、抱っこである。子供にするような。
「ぎゃー!重いですから!」
「あーもう、うるせェ。」
恥ずかしさもあるし、もう何が何やら。
ぎゅううっと抱きつく。落ちそう。
ゆっくりとベッドにおろしてくれた。
最上級に優しく。
「ありがとうごさいます」
「おー。鍵かけろよ」
ありがとなァ、そう手をひらひらとふる実弥さんの背中を見て唐突に寂しくなった。
「あの!もう少しだけ、、」
しばらく間があいて。ああ、迷惑だったかなと思ったけど。
振り向く彼はすさまじく困ったような優しい顔をしていた。
それからの記憶はほとんどなく、深い眠りについた。
「…あの時なんで俺の名前呼んでんだァ…?」
タケ…。
そう問いかける彼に気づくこともなく。
End
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