「実弥さん!なんでここに?」
「話はあとだ」

いるはずもない実弥さんが目の前にいる。
少し息の上がった実弥さんに戸惑いながら、
強引に旅行鞄をとられて手をひかれる。


背中から伝わる、ピリピリとした感情。
これは、、怒ってる?
そのまま何も言えずについていくしかなかった。





 焦ったお巡りさん 30 






カツ、カツ、と鳴り響く2つの足音。
会話もないし、手も痛い。




「実弥さん、痛いです…」

「わりィ……」



空港の駐車場に着いた。
目の前にはいつも乗ってる実弥さんの車がある。
まさかここまで運転で来たの!?何時間もかかるのに。
私はすっかり帰りの飛行機のチケットがあることを忘れていた。




「あの」
「あいつ誰だ。」
「へ?」



あいつって…七海先輩のこと?
見てたの?



「地元の先輩で…」
「あいつと何してた。」



目が、あった。
じり、じりと迫ってくる実弥さんから目がそらせない。
数日ぶりに見た実弥さんの目はふつふつと、怒りを帯びている。
車の後ろまで後退りしたけど後ろは壁だ。
逃げられない。



「送ってもらったのかよ。ここまで」
「それは!早く家に帰りたかったから」
「電話にもでねェし。話に花が咲いたか?楽しかったかよ。付き合ってたのか?」



一息もつかずに喋る。
珍しい。実弥さんがこんなこと言うなんて。
上から見下ろしてくる表情に少し足がすくんだ。


「違います!なんで怒ってるんですか?私が勝手に実家に帰ったから?」
「ちげェ…あいつといるタケの方が楽しそうだったからよ…だったらあいつと付き合えばいいだろ」



なんだそれ。
あったまきた。
なんでそうなるの?
人の話も聞かないで。



「…そうですね。七海先輩は実弥さんみたいに酷い言わないですよ。私、飛行機で帰ります。」



するりと、壁と実弥さんから抜けて元の方向へ歩きだす。
旅行鞄はもういいや。
持って帰ってもらう。
とにかく今は実弥さんの顔をみたくない。


涙が出る。
実弥さんとずっと一緒にいたいから、親を説得しに帰ったのに。
早く帰りたくて、会いたくてしょうがない人に言われたくないこと言われて。



気づいたら走り出していた。



実弥さんなんて知らない。





「おい、待てよ!すまねェ。俺が悪かった」




すぐ追いかけられて手を掴まれる。
さっきとは違って酷く優しい。
酷いこと言ったのに優しくしないで。


「…ひどいです…。違う人と付き合え、とか」
「そんなこと微塵も思ってねェ。」




涙でぐしゃぐしゃな顔を実弥さんの服につける。



「悪かった。ごめんなァ…心配した。」





背中を擦りながらゆっくりと話しかけてくれる。
よかった、いつもの実弥さんだ。


ほのかに香る汗のにおいに、もしかして探してくれてたのかと思うと胸がきゅんとする。




「親に、地元に帰ってこいって言われて説得してきたんです。そしたら父の会社の知り合いとお見合いをと言われて、それが学生時代の先輩だっただけです。」


「おう…わかったから。」


「実弥さんに心配かけたくなくて。言わなかったのは謝ります。でも私は、実弥さん以外なんて…」




思ったことなんてないよ。



困ったような顔の実弥さんにキスを何度もされる。
ちょっとしつこいくらいに。
少しコーヒーの味がした。苦い。


「ちょ、、っと…んぅ…ここ、駐車場…」


ちゅ、ちゅ、と小さなリップ音が、コンクリートの駐車場に少し響く。

しばらく続いてやっと離してくれた。
頭をポンポンしてぎゅっと抱き寄せられる。



「タケに伝えたいことがあってよォ…いてもたってもいられなくて探しに来た。」



「こんなに遠くまで」



「運転は苦じゃねェしな。まぁ・・・・なんだ。タケ…」



急に渋る実弥さんを見て不思議に思う。
さっきまであんなに顔がこわばっていたのに急に焦りだした。
頭を掻いている。




「トイレならそこですよ?」
「バーーカ、違ェよ。」




すると、ポッケから何かを出した。
ぶっきらぼうに差し出した、それ。





目の前の小さな可愛らしい箱に








声が、でない。






「俺と結婚してくれ。」





End








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