1人湯に浸かり、まだ明るい外を見る。
乳白色でとろみのある湯。保湿効果が高いらしい。

ひまわりに落ちる 14



宇髄のおすすめする旅館はグレードで言うとハイクラス。部屋の設備、温泉の質ともに口コミでも良かった。実際案内をしてくれた係の対応や雰囲気などもとても良し!
初めてのデートでやりすぎじゃないか、とも考えたが、たまの贅沢、非日常も大切だ。今日と明日の二日間位いいじゃないかと自身を納得させた。


そして今日行った城でのやりとり。
俺は展示物や歴史的建造物を自分なりに事前に作成しておいた資料をもとにじっくりとみて回りたかったがタケはつまらないかもしれない。手を繋いで流し見しながら進もうと思って、言った「手を繋ごう」だった。

だけどそれを「繋がなくて大丈夫」といわれた。なぜだ?と問うと

「杏寿郎はここに何しにきたの?生徒にわかりやすく授業するために、お城のことをもっと知るために来たんじゃないの?」

ああ。そうだ。だけど、第一の目的はタケとの初デート。

「なら、私の手を繋ぐんじゃなくて、調べてきた資料と照らし合わせたり、メモを取ったりしてよ。杏寿郎の納得いくまで。ちゃんと着いてくるからさ。」

もしこれが学生同士だったりすればただその場所に「来た」ことに対して満足し、手を繋いでこの場をさっさと後にしていたかもしれない。
車の中で俺はタケにこの城のことを授業で取り上げることを伝えた。それで気を遣わせただろうか。
しかも俺がこの日のための資料を作ってたことも知ってたのか。
なにはともあれ、ありがたい。

そしてこう彼女は続けて言った。

「でも…明日のアウトレットは…私に付き合って手も繋いでよね…」

顔を少し赤らめて言うタケに「好きだ」という感情が止まらなかった。

手を伸ばし、抱き寄せようとするのをグッとこらえ、タケの申し出に甘え、じっくりと回り、目当ての資料も購入ができた。

明日は今まで忙しくて構ってられなかった分、タケを存分に甘やかそう。


色々考えたが…このまま入り続けると、のぼせそうだ。

夕飯後にも風呂に入るからと、身体を軽く洗い、風呂から上がり、用意されてた浴衣を着る。

「タケ。上がったぞ。次入ったらどうだ?」

引き戸を開けながら声をかけるが返事がない。そこにタケの姿すらなかった。
あたりを見回すと、テーブルの上に1枚のメモが置いてあった。

【大浴場に行ってくるね。ご飯の時間までには戻ります。】

意外と長湯をしていたらしい。
縁側のチェアに座って火照りを冷ましていると「ただいまー」とタケが帰ってきた。

「杏寿郎聞いてーそして見て!旅館の女将さんが色浴衣貸してくれてさ、着付けまでしてもらった!」

パタパタと部屋に入って近づいてくるタケをみてヒュッと息を呑んだ。紺に白の縦ラインが入った生地に赤い椿の花。タケにとても似合っていた。

「いろんな種類の浴衣あったんだけどね、女将さんが私たちの部屋は椿だし、白っぽい生地よりも紺色の方が大人っぽく見えるって女将さんが選んでくれたの!」

嗚呼、もう駄目だ。

「タケ。」

楽しそうに話すタケに近づいて名前を呼ぶ。
そして思い切り抱き寄せた。「ひゃっ」と変な声が聞こえてきたのが面白くて笑いそうになる。そして、タケの耳元に囁く。


「とても似合っている。もう、誰にも見せたくないくらいに。」


俯いて茹で蛸のように赤くなったタケの頬に手を添えて、よく見えるように顔をあげる。

俺の名前を小さく呟いたその唇に、己の唇を重ねた。




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