ーーーー金曜日になると次の日が休みだからか、浮き足立つ気がする。


ひまわりに落ちる 02  


「はーい!じゃあメンズから自己紹介お願いしまーす!!」

「営業一課の田中です!」
「同じく山本です。」
「二課の佐藤です。今回の幹事で田中・山本とは同期です。」

今日は同じ会社の他部署交流会という名の合コン。昼に隣の席の先輩に「好きな人いるって言ってたのに本当にごめん!!人数どうしても集まらなくて…!!」と言われ、断れるわけもなく今居酒屋にいる。先輩にはとてもお世話になってるし、向こうの参加者とも今後仕事で顔を合わすことになるかもしれないし知ってて損はないな。

花の金曜日。全席個室なこのお店はほぼ満席で賑わっている。
女性側の自己紹介も終わり、歓談が始まる。

「マツさんってさ、いつもニコニコしてて見てるこっちもホワホワしてくるよ」
正面に座ってる佐藤さんが話しかけてきた。この人はたまに私たちの部署に決済書類を持ってきたりするから顔は見たことある。まあよくいう爽やかイケメン。
「え?私そんなニコニコしてます?」
「結構俺、そっちの部署に行くたびに見てるよ。マツさんのこと。密かに癒されてるんだよね」
「そう言ってくださると嬉しいです。ありがとうございます。あ、ちょっとお手洗いに行ってきますね」

席を立ち、トイレに行く。使用中だった。近くの壁側で邪魔にならないように待っていると聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「タケじゃねぇか。久しぶりだな。」
「うわっ!びっくりした!!宇髄君。久しぶりだね。」
「今日派手に可愛い格好してるじゃん。」
「派手に可愛いって…オフィスカジュアルのいつも通りの格好ですけど…」

宇髄君は杏寿郎の悪友だ。私も高校までは一緒だったが、杏寿郎は大学も、更には勤務先まで一緒だ。たまに煉獄家に夕飯食べにきたり泊まったりしてるから今でもたまに会うことがある。冨岡君や不死川君、伊黒君も似たような関係だ。

「今日俺らはいつものメンバーで飲んでるんだけどよ。なんだ?タケは接待か?」
「まあ…異職場交流会なの…職場の先輩に頼まれて。人数合わせのための要員なんだけどね。」
「まじか。それって言い方違うただの合コンじゃねーか。帰る頃になったら煉獄呼んで一緒に帰ればいいかって思ってたが…やめてた方がいいな…ってかこの事アイツ知ってんの?」
「知らないよ。教えてないから…」

知られたくない。彼氏彼女の関係じゃないから別に合コン行ったって構わないんだろうけど。

「まあ、なんだ。頑張れよ。」

そういうと宇髄君は個室に戻っていった。

トイレから席に戻ると先輩が田中さんといい雰囲気になってた。
いつのまにか席替えがあったらしく、私の隣に佐藤さんが座ってた。

「マツさんさ、彼氏本当にいないの?実はいるんじゃないの?」
「そんなー。彼氏いたら合コンなんか参加しませんよ。」

好きな人はいるけど。

「ならさ、俺、どうかな?」

爽やかな顔がこっちに近づいてくる。

「連絡先交換しない?タケちゃん可愛いしずっと気になってなんだよね。そうだ。これ終わったら2人で抜けようか。」

ゾワっとした。耳元で囁くように言われ悪寒が背中を走る。
名前で呼ばれたくないし終わってから2人きりで二次会も勘弁して!誰か助けて…!!

心の中で泣いていたらすぐ横にいた佐藤さんが突然目の前から消えた。
いや。正確には私の背中と壁の隙間に挟まるようにして寝ていた。

「あー、佐藤結構飲んでたもんな。」
「もうこれ今夜の記憶無いわ。こいつ連れて帰らんと」
男性陣がそう話してるのを聞いて心の底からホッとした。
今回のメンバーでグループLINEが作られ、いい時間になったので合コンはお開きになった。お会計が終わり、先輩は田中さんと二軒目行くことに。山本さんは酔い潰れて寝落ちした佐藤さんを連れて帰るらしい。店の前で解散となった。

私もさっさと家帰ろうとしたとき店から賑やかな団体が出てきた。

「派手に二軒目行くぞ!」
「俺は帰る。甘露寺と約束している」
「俺は別に二軒目行ってもいい。」
「俺は行かねェ。煉獄と宇髄と冨岡3人で行け」
「うむ。俺は二軒目付き合うぞ…って…タケ?どうしてここに?」

賑やかな団体って…この人たちだったか…
タイミング悪い…

「うわ、みんなお揃いで!偶然だね!私も飲み会がここあってさ。二軒目楽しんでらっしゃい!では私はここで失礼しますね。」

にっこりと笑って踵を返して歩き始める。遠目に先輩達の後ろ姿が見える。ここで杏寿郎たちから離れないといろいろ聞かれる…数歩進んだところで腕を掴まれ、振り返ると鮮やかな焔色がすぐそばにあった。

「宇髄。悪いが二軒目は冨岡と2人で行ってくれ。俺はタケと帰る。」
「おーおー、煉獄はタケとどっか行きやがれ!さっき合コンだったらしいからな!」
「宇髄君?!何言っちゃってんの?!酔っ払い!!」
「よもや!!ではまた週明けに。」

掴まれてる腕がギュッと力が込められ、腕を引っ張られてみんなから遠ざかる。
繁華街の中を歩く。掴まれた腕は離され、少し早歩きな杏寿郎の半歩後を歩く。遠目に見えてた先輩はもういなかった。

「合コン?そんな事今朝言ってたか?」
「え?言ってない…けど…先輩に頼まれて今日突然参加することになったし…」
「なぜ参加することを俺に言わない!相手からなにもされなかったか?嫁入り前の娘が…」
「は?なにそれ?彼氏でもないのに!杏寿郎に合コンに参加するとか教えないといけないの?保護者なの?」
「俺はただ…タケが心配なだけで…」
「私はもう大人なの。子供扱いしないで!」
「違う!俺は…「どうせ私は杏寿郎にとって妹みたいなものなんでしょ。もういいよ。妹は電車に乗って帰るのでオニーチャンは宇髄君たちと二次会行ってくれば!!」
「タケ!!!!!」

周りを歩いてる酔っ払いのオジサン・オニイサン・オネエサンたちの視線を感じる。

「なーなー、お二人さんよぉ。こんなところで痴話喧嘩しなくてもいいじゃねえか。その建物にでも入ればすぐ仲直りできるぜぇ」
私たちのやりとりを見てたオジサンがニヤニヤしながら声をかけて消えていった。その建物に見えるのは[空室あり]のネオンと[休憩90分2,800円〜]の看板。

「よもや!!」
「ちょ!!!」

口論しながら歩いてた私たちは繁華街から夜の街に移ってたらしい。周りはピンクや紫のネオン街になっていた。




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