ーーーーーーーーようこそ大人のワンダーランド


ひまわりに落ちる 03  



周りを全く見てなかった。口論しながら半歩先を歩いてた杏寿郎の背中しか見てなかった。杏寿郎はこの場所にたどり着いていたことを知っていたのだろうか。
気まずい。非常に気まずい。あのオジサンが声かけてくれなければこの大人なホテルのあるエリアを抜けられたかもしれないのに。
そして何も言葉を発しなくなった杏寿郎。大丈夫だろうか。

「き…杏寿郎…?そろそろ帰ろうか。タクシーあそこにいるし」
「そ、そうだな!!!明日は休みといえど夜更かしは良くないからな。」

タクシー捕まえて家の住所を伝える。
後部座席で隣同士。無言に耐えきれず目を瞑り、寝たふりをする。

もしあそこで私がホテルに入りたいと言ったら。
はしたない女と思われるだろうか。
何かのミラクルで杏寿郎が了承したら…
私たちは兄妹のようなお隣さんの関係が一歩進んだものになったのだろうか。
それとも取り返しのつかないことになるのだろうか。

「眠ってしまったのか?タケ。」

悶々と考えていたら隣から声が聞こえた。
起きてます。寝たふりです。と心の中で返事してるとグイと引き寄せられ、杏寿郎の肩に頭を預けるような態勢になった。
車の揺れと隣から伝わる熱で本格的に眠くなり、そこからの記憶はもうない。



パッと目が覚めて周りを見渡す。
ここはどこだ。自分の部屋じゃない…
「杏寿郎の…家…?」
昨日タクシーに乗ったのまでは覚えている。そこから先の記憶がない。携帯をカバンから取り、時間を見ると10時になろうとしていた。部屋を飛び出て台所へ向かう。

「おはようございます…お布団貸していただいてしかも朝ごはんの用意もできずすみません…」
「おはようございます。昨日は杏寿郎もタケさんも遅かったみたいで。お茶漬けでもしましょうか?」
「あ…ありがとうございます。先にお布団畳んできます…」

布団をたたみ、お茶漬けを頂き、お礼を言って家に帰る。
シャワーを浴びて洗濯を干し、リビングのソファでひと息ついた時だった。インターホンが鳴った。出てみると杏寿郎だった。
彼を招き入れてリビングに通す。ソファに座らせ、コーヒーを出す。

「突然すまない。座ってくれ。少し、話をしないか?」
「うん。」

ここに座れ、とばかりに隣をポンポンとする杏寿郎。それに従い、隣に座る。

「昨日は結構飲んでいたようだが、体調変わりないか?起こしても起きなくて勝手にうちに連れて帰ってしまった。」
「うん。大丈夫。ごめんね。タクシーで寝ちゃってしかも起きずに迷惑かけてしまって…」
「迷惑なんて思っていない!!迷惑なんて思わないでくれ」
「あ…ありがとう……」
「今日は世間話をしにきたのではない。俺の、気持ちを話したくて来た。」
「え…どういうこと?」


「好きだ。この世界で一等タケのことを好いている。」



嗚呼、神様。これは夢ですか?




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