「そろそろ時間じゃないか?」
「ほんとですね。行きましょう。千寿郎、残りも頑張るのですよ。」
「はい!ありがとうございます!」


ひまわりに落ちる 20


模擬授業って大人が見に行っても良いのかと聞いてみると槇寿郎さんが「入学希望者の保護者も自由見学できるらしい。」と教えてくれた。

3人とも何となくそわそわしながら教室に向かう。不死川くんの模擬授業のクラスと杏寿郎のクラスは一つ空けて授業していた。(隣同士だと賑やかになると言う配慮なのかな)

教室は私が卒業した時と変わってなかった。
とても懐かしい。
廊下の窓が開いており、保護者が教室の後ろ、廊下からと見学してる。

3人並んで教室に入ると、聴き覚えのある声が聞こえてきた。

「歴史は覚えることが多くて苦手という人が多いが、実はその時に生きた人の考えを読み解くと理解しやすくなる!今日はそのきっかけ作りをしてくれれば嬉しい!では始める!」

板書をし、プリントを配り、授業を進める。
授業を聞いてる生徒も、保護者も彼の授業にのめり込んでいく。そしてとても理解しやすい。説明も端的でわかりやすい。

こんなふうに教えているんだ。
こんなふうに話してるんだ。
こんなふうに文字を書くんだ。

これが杏寿郎の仕事なんだ。
夜遅くまで勉強して、生徒達と関わってるのだ。
杏寿郎が教師としての誇りを持って仕事をしているのを感じた。かっこいいなぁ。

授業をする杏寿郎を見てたらふと目が合って優しく微笑まれた気がした。

授業がおわり、瑠火さん達と別れ、蜜璃ちゃんと合流した。

学食のテーブルに座り、ガールズトークをして2人で盛り上がっていると、出入口付近が騒がしくなってたのでその場から2人で眺めていると、宇髄くん達いつものメンバーが食券を買って配膳を受けてるところだった。そこに女子生徒達が群がっているようだ。

「うわー、やっぱりあのメンバー揃うと生徒達も色めき立つんだね…」
「そうみたいね〜。だってここの学校の人気の先生達だものね」
「あ、不死川くんがキレた。」

不死川くんが「テメェら自分の持ち場に戻れェ。静かに飯を食わせろ」と睨んだせいか、蜘蛛の子を散らすように生徒達は逃げていった。さすがです。


その後、少し蜜璃ちゃんと話をしてから校門前で解散した。
今日はとても充実した土曜日だったなぁ、と思いながらスマホを確認すると杏寿郎からメッセージが来ていた。


『もう帰ってしまったか?少しだけ会えないか?』
『今校門近くにいるよ。どこで会えそう?』と返事をするとすぐ既読になり、電話がかかってきた。

「タケ、今校門近くにいるんだな?そしたら本館2階にある社会科準備室に来てくれ。」
「オッケー向かうね。」

周りを見ながら歩くと、完売御礼の出店が多かった。
階段を登り、社会科準備室のドアをノックする。するとすぐに「どうぞ」と声が聞こえたので「失礼しまーす」と入っていく。
資料が沢山並んだキャビネットと机、ロッカー。ここも昔と変わらないなと思いつつ杏寿郎に声をかけた。

「煉獄先生。授業たのしかったですよ。歴史って面白いんだね」
「そう言ってくれるとありがたい。これでこの学校に入学したいと言う生徒が増えてくれるだろうか…」
「絶対増えるよ。保護者の反応も見ててすごく良さそうだったよ。」

その言葉を聞いて安心したのか、杏寿郎はとてもホッとした表情をしていた。
杏寿郎が出してくれたパイプ椅子に座り、少し話をしているとノックと同時に「煉獄先生、いらっしゃいますか?」と言う声が聞こえてきた。

「ああ。いるぞ。入っておいで」
「失礼します…って来客中でしたか。すみません…」
「構わない。なにかあったか?」
「実は…仕入れたケーキの人気が偏って、余りそうなケーキがあるんです。先生方へお願いに回ってるんですけど煉獄先生も一つ、買っていただけませんか?」
「そう言うことか!では喜んで協力しよう。」

生徒が持ってきた箱にはショートケーキとフルーツタルトが4個づつ入っていた。

「うむ…ならばそれぞれ一つずつ頂こう。他の先生にも聞いて、それでも残りそうならそれをまた持ってくるといい。」
「ありがとうございます!フォークと紙皿も置いておくので、お客さんと食べてください!」
「ああ。ありがとう。」

失礼しました!と生徒は出ていった。

「残り全部私が買ってもよかったんだけど…」
「いや、あの子達のためにも残してたほうがいい。お金を稼ぐという大変さを知ってもらうのも学園祭の一つの目的だ。他の先生方も買ってくれるだろうしな。」
「さすが先生。」
「うーん…なんというかタケに先生と言われると変な感じするな!」
「そうかな?私今日の授業見て、煉獄先生の教え子になりたいと思ったくらいなのに。」
「……それはだめだ。教え子になんかなってはダメだ。」
「頑なだね。」
「もしタケが教え子だったらデートしたりできないからな。俺は耐え切れる自信がない!」


「ではそろそろクラスの様子見に行かなければ!タケ。校門まで見送るぞ」という杏寿郎の申告を丁寧にお断りし、私もキメ学を後にした。




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