ひまわりに落ちる 29


目が覚めて携帯の電源を入れると着信やらメッセージがとんでもない数になっていた。

杏寿郎
杏寿郎
杏寿郎
宇髄くん
杏寿郎
杏寿郎
瑠火さん
杏寿郎
杏寿郎

なんとなく杏寿郎のメッセージは既読にしたくなくて瑠火さんから来ていた『今どちらですか?体調はどうですか?』と言うメッセージに『爆睡してて今、目が覚めました。家にいます』とだけ返信した。

返信して携帯をまた枕元にポイと置き、再び眠る体制にはいる。
どんだけでも眠れそうだとウトウトしていると、来客を告げるインターホンが鳴り響いた。

出るのも面倒だし、居留守をしようと決め込むが、何度も何度も鳴り響く音に嫌気がさし、モニターで確認もせずのそのそと玄関まで行ってドアを開けた。

そこには杏寿郎がいた。
反射的にドアを閉めようとしたが、閉められないように足を入れられたため、無理だった。


「タケ。」

杏寿郎が私の名前を呼ぶ。

「ちゃんとタケと話がしたい」
「…………」
「タケ」
「………どうぞ…」

杏寿郎を家に上げてリビングに通す。
ああ、これから私は振られるんだ。
別れ話をされるんだ。そう思うと涙が溢れて来た。

ソファに座らせ、私はローテーブルの向かい側の床に座る。すると杏寿郎が「床ではなくてこっちに座ってくれないか?」とソファに座るように言った。
座っている杏寿郎と少し距離を空けて座った。

「タケ。」

名前を呼ばれて肩が震える。続く言葉を待つ。

「さっき、宇髄の家での事だが…本当にすまない…申し訳ない…」

聞こえて来た言葉は謝罪。そして頭を下げる杏寿郎の姿。


「……杏寿郎はさ、なんであんなことしたの…?」

「タケと佐藤が、昨晩2人きりで二次会を催していたことを知った。2人で仲良く歩いて、こそこそ楽しそうに話している姿を見て、嫉妬してしまった。」

「…………」

「2人が何の話をしていたのか気になった。頬を染めて笑うタケをみていたら…タケは俺の恋人なのに、佐藤の方が良いと思い始めたのではないかと思った。」

「違う!!ちがうの…」

何が違うんだ…と言う杏寿郎に、堪えていた涙が零れ落ちた。

「あの日、佐藤さんには告白された…けど、杏寿郎と付き合ってるから、お断りをしたの…そして、そのあとはずっと…杏寿郎の話を…聞いてもらってたの…

なのに、杏寿郎が突然、怒って、無理矢理……」

「ああ…」

「無理矢理キスして来て、肩も痛くて、杏寿郎がいつもの杏寿郎じゃなくて、こわくて…こわくて…嫌われたと思った…もうずっと、会えないのかもって思った…」

「俺がタケを嫌いになるはずがないだろう。」

杏寿郎が距離を詰めてきた。
そして私の手を包み込むように握ってきた。

「俺は今まで嫉妬という感情を持ち合わせる事がなかったから、タケを深く傷つけてしまった。この事で俺の事を嫌いになったのであればしょうがないと思っている。自業自得だな。」


「…っ…わ、私が、杏寿郎を、きらいになるはずないじゃない…わたし…が、杏寿郎以外の…人を選ぶわけない…杏寿郎、の…こと、だ…大好き…なんだから…」

私の言葉、杏寿郎に届いただろうか。
涙と嗚咽で途切れ途切れの言葉…今の、気持ち。

「タケ…」

名前を呼ばれたと同時に私は杏寿郎の腕の中にいた。
抱きしめられる。さっきとは全く違う、優しく、優しく。
杏寿郎に私の言葉が伝わったんだ。
私もそれに応えるようにギュッと抱きしめ返す。


「タケ…本当にすまなかった…そして…世界で一等愛している。」


耳元で囁かれる。





「俺と、結婚してくれ。」









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