全く甘くないです。ときめきも何もなし
ひまわりに落ちたあとのおはなし
お互い働いているからどっちか早く帰り着いたほうが夜の家事をしよう。結婚してからすぐ、俺からの提案だった。
最初は「杏寿郎のほうがいつも帰りは遅いし、私はいつもやっていて慣れているから平気」と言われたが、「俺が落ち着かない!一人で抱え込んでほしくない!」と無理やり押し切ったような形で家事を行うこととなった。
とある日のこと。
奇跡的にも俺が早く帰り着き、さあ、何を作ろうかと冷蔵庫のドアを開ければすでに料理の下準備が済んでいた。
ちょうどその時タケから『今夜のご飯は準備が済んでいるので、お風呂を洗っててくれると助かります!あ、お米を炊いてて!』というメッセージが届いた。
よし。任せろ。
風呂の掃除は完璧だ。ついでに掃除機もかけた。洗濯物も乾いていたので取り込んで畳んだ。米もいつも俺が6杯、タケが1杯くらい食べるから7合炊いた。
「ただいまー」
「おかえり!」
「今すぐご飯作るからね!少し待ってて!」
「うむ!他にすることはないか?」
「特にないよ。掃除機もかけててくれたみたいだし、とても助かったよ!ありがとう!」
ニコッと笑うタケの顔を見て胸がドキドキする。
思わず後ろから抱きしめてしまった。
「き…杏寿郎…?どうしたの?」
「んー…タケ…」
「え?え???」
「次俺が早く帰り着いた時には俺が夕飯を作るからな…楽しみにしていてくれ」
「あ…うん…ごめん杏寿郎。夕飯は私に作らせて…?」
「なぜだ?」
抱きしめていた力を緩め、タケの顔を見ると心なしか気まずそうな顔をしていた。
「あの、さ…杏寿郎、大学生の時自分でラーメンを作ったこと覚えてる?」
「ラーメン…?」
「うん…杏寿郎が私や千寿郎くん、瑠火さんや槇寿郎さんにふるまおうとしてくれた時のこと…」
「はて、そんなことがあっただろうか…?」
「うん…それがさ…」とタケが続けた。
「袋入りインスタントラーメンをみんなに振舞うって言って、台所に一人で籠ったのはいいけれど、その…色々と力が入りすぎたのか包丁もまな板も、鍋も、コンロもすべて黒焦げ、もしくは粉々になったんだよね…」
「よもや!」
「なので、杏寿郎は瑠火さんから料理はしてはいけない、台所ではじっとしてなさいときつく言われたんだよね…覚えてないの…?」
「まったく記憶にないな!!!よもや、そんなことがあったとは!生徒を指導する教師として不甲斐なし!穴があったら入りたい!」
「いや、アナタ歴史の先生でしょうが。家庭科じゃないでしょ!杏寿郎その時かなりのショックを受けてたから記憶が飛んだのかもしれないね。」
なので、食事は私に任せてください、と笑いながら言うタケに俺は折れた。
「わかった。ならば食事以外で俺はできることを全うしよう!いい夫になるために!」
「杏寿郎はもうすでにいい旦那様だよ!いつもありがとうね!」
ああ、好きだ。今日もタケと結婚出来てよかったと心の中で思った。
「ちょっと杏寿郎!ご飯どんだけ炊いたの?!」
「タケが1杯、俺が6杯で7合炊いた!」
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