試験勉強

やらなければいけないことほど、後回しにするタイプだ。
華の大学一年生、夏休みも気が付けば終わりを迎えて、まるで早く夢から覚めろと言わんばかりに秋の気配が足元までやってきている。かくいう私は卓上カレンダーを眺めて頭を抱えていた。
来週に迫る大学の模試へ向けた勉強を、一切していないからだ。
これでは駄目だと思って彼氏である不二を家に呼んだのが数時間前。軽やかに参考書を捲っていく不二とは対極に、私の手の動きは鈍かった。

「本当に進んでないね」
気だるさのあまり飛びかけていた私の意識が、不二の一言で現実へ引き戻される。誰かに見てもらえば課題も進むだろうと思っていた私の考えは甘かったようだ。
「不二〜…どうしよう…、このままじゃ単位落とすんだけど…」
頭を抱えながらそう言う私に不二は困ったような顔をする。まあ不二がそうしてしまうのも仕方がない、だってこの場合、非は私にしかないのだから。
「もう少し頑張れそう?とりあえず三ページを目標にしてやるとか」
「ああ…うん…」
それはもう試してみたんだよね。
なんてことを言えるはずもなく私は曖昧に頷いた。不二みたいな人間にとって、私のようなだらしがない人間は一体どう映っているんだろうか。
やらないといけないと分かっていながらそれが出来ない自分も、思うだけで結局なにも出来ない自分にも段々と嫌気がさしてくる。
「本当に気分が乗らなさそう?」
「ごめん…」
「僕に謝ることないのに」
何を言っても手の進まない私に気が付いたのか、不二はこちらをじっと見たかと思うとおもむろに自分の勉強道具を片付け始めた。
「ねえ、どこか行きたいはところある?」
「別にないけど…」
何をするつもりなんだろうか。自分の参考書を鞄にしまい終えた不二は、ごく自然な手つきで私が開いていた教科書を閉じる。
不二が何をしているのか分からないまま、私はただ黙って固まるばかりだ。
「よし、今日はもうお家デートってことにしちゃおう」
「え?!べ、勉強は?」
さっきまで乗り気じゃなかったのは私の方なのに。不二を慌てて制すればやんわりと首を傾げられた。
「やる気出ないんでしょ?」
「そうだけど、そういうわけには…単位落としちゃうし…」
「まあそれは君のせいだろうね。でも、いま落としても来年があるよ」
「それはそうだけど…」

今日の不二はとことん私を駄目にする。不二の言うことは間違っていないけど、その甘さに浸かるには、私にはあともう一押し足りなかった。
それを察したのか、眉間に皺を寄せる私に不二は軽く笑いながら言ってのけるのだ。
「やるべきことをやらない君は確かに悪い子だけど、どうしてもやりたくないなら、やらなくたっていいと思うよ。だって僕らはまだそれが許される年頃なんだし」
だから一回くらい駄目になってもいいんじゃないかな。
それは甘やかしでもなく怠惰でもなく。ただ単純に、少し悪い遊びを見つけてしまった子供のような声で、不二は私にそう言った。