これから目覚める君のために

フローリングよりは僅かに暖かいが体温より遥かに冷たい空気に頬を突かれて、不二は目を覚ました。
きちんと閉められたカーテンの布越しに青白い光が差し込んでいる。時計を確認しようとベッドの上で身体を捩れば、スプリングが大きな音を立ててしまうものだから、不二はそっと動きを止めて、隣に眠る彼女を起こしてしまってはいないか確かめた。
東京の一角に建つマンションともなれば雀の声もそこまでは届かない。

はだけた彼女の布団を掛けなおして、不二はスッと布団から脚を出して伸ばす。今日は特に冷え込むようだ。
寒がりの彼女のために今からリビングの暖房を付けておこうか。けれど、どうしたってこの快適な温度の布団には勝てそうにない。寝室からリビングまではそれなりの距離があるのだ。
今度は音を立てないように、ゆっくりと寝返りを打って彼女の方へ振り向くと規則正しい寝息が聞こえてくる。変な時間に起きてしまったと思ったのだけど、案外、これは役得だったのかもしれない。
そんなことを考えながら彼女の頬にかかっていた髪をそっと退かせば、冷たい部屋の中ほんのりと桃色に色付く彼女の肌が見えた。
「ふふ」
まるで何も知らないような彼女の寝顔がどうにも可愛らしくて声を漏らすとそれにつられたのか、彼女はもぞもぞと身体を動かした。
「君はもう少し眠っていていいよ」

触れるだけのキスを彼女の鼻先に降らせてやる。やはり今日は特別に早起きをしよう。
彼女のための温かいスープを作るのだ。昨日の残りの野菜も一緒に煮込めばもっと美味しくなるに違いない。
起きてすぐ、彼女が美味しいスープの匂いを嗅いだ時の反応を想像しながら不二はもう一度小さく笑う。
好きな人と眠る特権の半分は、相手の寝顔を一番に見られる事にあるかもしれない。
そんなことを考えながら不二は、凍ったような冷たさのフローリングに小さく身震いしながらも、そっとベッドを抜け出したのだ。