タイプな子と好きな子

(※不二周助の彼女を見て失恋するモブの話です)


不二くんが好きだった。
誰にでも丁寧に接する優しいところと、テニスが上手なところと、他の男の子に比べて落ち着いたところと、かっこいいところが。
ずっと不二くんを見てきたから、きっと不二くんは落ち着いた、お淑やかで守りたくなるような、そんな可愛い女の子が好きなんだと勝手に思っていた。
だから私は不二くんに見合うようにスカートはちゃんと膝丈に戻したし、授業の予習もするようになったし、大きな声で男の子みたいに笑うこともしなくなった。恋って魔法みたいにこんなに人を変えてしまうのね、とこっそり感動したことだってあるのだ。
それなのに、不二くんが選んだあの子は私とは正反対の女の子だった。

「ね〜、不二見てない?」
次の授業をいかに居眠りせずにやり過ごすか、ぼうっと考えながら廊下の窓に寄り掛かっていれば、隣から呼びかけられた声で我に戻る。声の主は不二くんの親友の菊丸くんだ。
「えっと、見てないかな…」
多分これといった意図はないのだろう。次の授業は移動教室だ、不二くんを探していた菊丸くんがクラスの前の廊下にいた私をたまたま見つけただけで、廊下にいるならクラスから出入りする人を見ている可能性が高い。
「ふ〜ん、じゃあ彼女のところかにゃ〜」
彼女。
その言葉に私は過剰に反応する。今だって不二くんがなんであんな子を好きになったのか、納得していないのだ。
不二くんの彼女ははっきり言って可愛くない。可愛くないというのは外見的な問題じゃなくて、中身の問題である。
不二くんが彼女に選んだあの子は、平気で宿題を忘れる子だったし、平気で遅刻をするような子だった。そのくせ、それを悪いとも思っていないように笑っている。彼女のスカートの丈だって堂々とした校則違反なのを、不二くんは知っているんだろうか。
「…ねえ、菊丸くん、不二くんってなんであの子と付き合ってるのかな」
私がずっと知りたかったことを、彼ならばもしかすると知っているかもしれない。
「なんでって?」
「なんか…その、あんまり不二くんのタイプじゃない気がして」
もし不二くんがあの子に騙されていたとしたら、本当のことを教えてあげよう。その子はあなたが思っているような女の子ではないんだよって。

そう思って菊丸くんの口が開くのを待っていれば、菊丸くんが何かを言いかけた直前、その声は後ろから飛んできた先生の大きな声によってかき消された。
「こら〜〜!!中庭で何をしている!!!!」
驚いて菊丸くんと二人揃って後ろを振り返ってみると、そこには窓から身を乗り出して叫ぶ生活指導の先生がいるではないか。その目線の先を辿ればあろうことか、今しがた話題に上がっていた不二くんとその彼女がいた。
「シャボン玉です!!」
学校の中庭、二人しかいないその場所には無数の気泡が漂っている。
見ればわかるだろう、とでも言いたげな彼女の元気な声。そういうことじゃない、と先生は目を覆った。
「すみません先生、僕からもちゃんと言い聞かせますので!」
隣にいた不二くんが彼女の手からシャボン玉の液を取り上げて、声を張り上げる。
どうやら不二くんの先生からの信頼は絶大なようで、それを聞いた先生は苦い顔をしながらも渋々と引き下がるしかない。けれど先生の目から逃れた中庭で、不二が誘ったんじゃん、と彼女が溢したのを私は聞き逃さなかった。

「不二〜!後で俺もまぜるにゃ〜〜!!」
先生が去った廊下で、窓から身を乗り出した菊丸くんがそうやって手を振るのを、何がおかしいのか不二くんはただ大きく笑って見ている。それはとても大きな笑い声で、私の耳にまでしっかりと届いてきた。
私はそのとき初めて彼がこんなに大きな声で笑う人間だと知ったのだ。
ああ悔しいな、彼がどうしてあの子と付き合っているのか、分かった気がする。