身内贔屓

柳蓮二は人付き合いが悪いらしい。
これは風の噂で聞いたことだけど多分ほんとうのことなんだろう。
私も彼とはある程度の付き合いがあるからそういうことはなんとなく分かる、と思っていたのだけど。

「どうした」
「…別に」
暑さもすっかり和らいだ九月下旬の帰り道、夕暮れを背にしてアイスを齧る柳を私はぼんやりと眺めていた。柳は一口一口小さくアイスを齧るだけでさして急ぐ様子もない。
「柳ってコンビニとか寄るイメージなかったからさ」
私がそう言うと柳は少しだけ顔を顰める。
「お前が行きたいと言ったんだろ」
「あ〜そうだね…」
そうは言っても君、この前クラスの人にカラオケに誘われていた時、寄り道はあまり好きじゃないと言って断っていたのを私は知っているのだよ。
そんなことを実際に口には出さないけれど疑うような顔をして柳を見ていれば、なんだ食い足りないのか、なんて見当違いのことを言われる。
「別にそういうわけじゃないけど」
むしろ寒くてこれ以上食べられないのだけど。
つい先日まで夏だとばかり思っていたからすっかりそのつもりでアイスを買ったのだが、どうやら季節の移り変わりは私の想像以上に早いらしい。私は少しだけ鳥肌の立った腕をこっそりと擦った。
そうしてキーンとする頭をなんとか宥めようとすればそれに気が付いたのか、柳はひょいと手を差し出す。
「なに?」
「冷たくて食べられないんだろ」
「まあ…」
だから俺に渡せ、とでも言わんばかりの声で言われるのでおずおずとアイスを渡すと、柳はなんの躊躇もなくそれを齧った。
「えっ食べるの?!」
「なんだ、捨てるのか?」
もったいないだろ、だか何だか、そんなことを柳は呟いている。
「なんかごめん…」
「何がだ?」
「いや、ほら、私が食べきれなかったからさ」
「それの何に謝ることがあるんだ」
そう言えば柳は不思議そうな顔をして首を傾げた。
確かに謝ることはないかもしれない、それでも、それでも私は知っているのだ。
つい先日、夏も過ぎたこの時期にアイスを買って食べきれなかった部員を、食べ物を粗末にするなと君は叱っていたじゃないか!

「食べきれないなら俺が食べてやる」
矛盾を孕んだ言葉で柳が仕方がなさそうに軽く笑うものだから私はその時やっと、彼がとんでもなく私に甘いということに気が付いてしまったのだ。