ふと溢れだしてくる感じの涙について

ふと、泣き出してしまいそうになる時がある。きっかけはまちまちだ。それは例えば、休日寝坊して部屋へ差す日差しがもう午後のそれになっているのを見た時とか、平日の昼間に誰もいない遊歩道を歩いている時とか、授業中の小学校の校庭の横を通り過ぎる時だったりする。そういう時、ただ一つ分かるのは、誰かを待っている感覚がいつまでも消えないということだけだ。
「どうしたの」
いち早く、不二は泣き出しそうな私を見つけて指を伸ばす。だから私は、少しだけ下がった彼の眉尻を丁寧に掬い取るように、言葉を選んでゆっくりとわけを説明してやる。
「ふうん、そういうことも、きみにはあるんだね」
賢い人は、涙を拭ってやらないことの優しさを知っている。
暫く私を眺めた不二は、さっきまでの私など何も見ていないように、いつもの息遣いで私の隣に腰を下ろした。先週変えたばかりの真っ白なカーテンが部屋の隅で揺れている。私はソファの上で脚をぷらぷらと揺らして、窓から差し込むたおやかな日差しの中にそっと入れてみる。涙が溢れるか、溢れないか、その間をゆらゆらと行き来する私の瞳を眺めながら、不二が祈るように呟いた。
「探している誰かは、もう見つかったのかな」