それは例えば、ミュージカルで始まる恋のような

私の人生は間違いなく私の独擅場だ。
千差万別、十人十色、ありとあらゆる美意識を否定するつもりはないけれど、ここは私の舞台だ。何を上演するか、どの役者を登用するか、どこで恋が始まるか、主役を照らすスポットライトから舞台袖の小道具に至るまで、総監督はこの私である。
総監督は楽じゃない。決断を迫られるのは決まって私の役だし、同じ舞台を維持するために費やされる努力は並々ならぬものである。
春の陽が柔らかく髪を照らす四月、その私の目の前でやや大きめな制服を身に包んだ女生徒は、新品のローファーを踏みつけて彼とぶつかった。
「大丈夫?」
陽光を透かす焦げ茶色の髪の毛、男の子とは思えぬ絹のような肌。朝焼けを溶かし込んだ瞳に、抱きとめられた女生徒は頬を桃色に染める。恋の季節に彼と彼女の視線が交わる。舞台の明かりは消され、代わりにあてられたスポットライトの後ろで桜が舞った。
これは喜劇だ。本来ならばここでヒロインが歌いだし、恋が始まるところである。けれどこれは私の舞台だ。私が私の世界を創りだすために泥水を啜って努力をし、選択をし、手に入れたものである。私の舞台は、そういうものが報われるように出来ている。
だから私は少しの罪悪感と残り九割の確信を持って、今しがた登場したばかりのヒロインからスポットライトを奪うのだ。
「不二」
私の声に彼が振り返る。光をなくしたヒロインは私と彼を交互に見て、この舞台のストーリーを察してしまう。
ごめんあそばせ。この舞台では、どうしても上演できない演目があるのよ。それは例えば、