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 船長も航海士もいない、というおかしな海賊船を無視しながらシーモンキーをやり過ごし、海も落ち着いたというところでルフィから一味の紹介を受けることになった。

「こいつはゾロだ!剣がすげェんだぞ。でも道がわからないからゾロに聞いちゃダメだ。で、こいつがナミ。航海士で金が好きでオレンジに触ったらすげェ怒られる!この鼻が長いのがウソップで、ヤソップの息子だから狙撃がうめェんだ。そっくりだよな〜。コックがサンジで、飯がうめェ!とにかくうめェからヨウも食おう!でな〜、チョッパーはタヌキっぽいけど医者だ!ケガしたらチョッパーに言うんだぞ。で、ロビンがコウカガクシャ?なんか歴史だ!よし、わかったな!」
「「「「「ってわかるかー!!」」」」」
「はは、うん、なんて言うかルフィらしい説明だった」
「ふふ」

 まあルフィのことだから、言いたいことだけ言っているんだろう。相変わらず自由な感じで、彼らしいと言えば彼らしい。
 ただ、これから一緒に居る中でわかっていけばいいこともあるが、ある程度のことは今話しておいてもお互い損はないだろう。

「わたしの自己紹介をする前に、皆さんの名前を確認させてください。その方が話もしやすいですし」
「そうね、オーケーよ。あ、その敬語とかいらないから。これから一緒に旅をするんだし、かしこまらなくていいわ」

 オレンジ髪の美人さんの言葉に、ルフィを除く全員が頷くのを確認した。それは有難い申し出で、断る理由はあるはずもなかった。

「ありがとう。じゃあまずは、あなたから。えっと、あなたがゾロかな?"海賊狩りのゾロ"は三刀流の剣士さんだって手配書で見たから。あ、ちなみにわたしも筋トレするから、よければ器具とか使わせて欲しいな。よろしく」
「…あァ」

 大きなダンペルを上げ下げしながら話を聞いているから、きっと彼も筋トレが趣味のようなものなのだろうと踏んでそう挨拶すると、少し意外そうな顔をしながら是の返事をくれた。
 ちなみに、方向音痴なのかな、というのはとりあえず触れないでおいた。

「次はあなた、ナミだよね?だから航海士さん。あとみんなの金庫番もかな?オレンジの木はナミの大切なものみたいだから、傷つけないようにするよ」
「ええ。まあ、あんたは心配しなくても平気そうだけどね。女同士、仲良くやりましょ」
「うん、よろしくね」

 にっと笑ってそう言ってくれたナミに笑顔を返した。性格もさっぱりしてそうで、とても付き合いやすそうだ。
 それと、初めて見た時から思っていたけど、ホント美人だよなあ。キュート美人。

「それから、あなたがウソップだよね。ホント、ヤソップさんにそっくりだ。きっと狙撃の腕も一流なんだろうな。よろしくね」
「え、お前も親父のこと知ってんのか?」
「わたしもシャンクスさんたちとはフーシャ村で会ってるんだ。ヤソップさんとお話しする時間はそう長くなかったんどけど、ほとんどあなたのことを話してたよ」

 そう言うと、照れくさそうな顔でそうかとつぶやいていから、まあよろしくな!と言ってくれた。ヤソップさんから聞いた話通りの、ステキな人のようだ。

「で、あなたがサンジ、コックさんだね。あなたの料理が本当に美味しいらしいってことはとにかく伝わったよ。今晩は楽しみにしてます」
「ありがたき幸せ。ヨウさんとお呼びしても?」
「ん〜、呼び捨ての方がいいんだけど。その方が慣れてるし、仲良さそうな感じしない?あ、わたしコーヒーが好きで自分で淹れるから、キッチン少し使わせてもらうこともあると思うけど、いいかな?」
「もちろんさ!呼び方の方は、う〜ん、善処させてもらう、ということで、今のところは勘弁してもらえるかい?」
「うん、わかった。とりあえずよろしくね」

 よろしくお願いします〜と言っているサンジから、なんとなくハートがほとばしる感じがするんだけど、気のせいかなあ。あんまりイケメンにちやほやされると照れるんだけど。
 まあとりあえず、今は次の食事を楽しみにしておこう。

「それから、君はチョッパーだね。角があるから、シカさんか、トナカイさんかなあ」
「おれはトナカイだ!」
「そっかそっか。いやいや、本当に可愛いなあ、…じゃなくて、あまりお願いすることにならない方がいいんだろうけど、ケガや病気の時は頼りにしてます、船医さん」
「た、頼りにしてるとか言われても、うれしくねェぞ!コノヤロ〜」

 ニコニコしながらうねうねしてる。たぶん嬉しいんだろうな。ホントに可愛い。
 にやにやしてしまいそうになる顔に、グッと力を込めて、最後のクルーの顔を見た。

「最後は、あなたがロビンだね。歴史、だから…考古学者かな。わたしも歴史とか本は好きだから話が合いそう」
「ええ。私もコーヒーは好きなの。さっきは飲み損ねてしまったから、次は本当に淹れてもらいたいわ」
「まかせて、と言えるほど味には自信がないんだけど、それでも良ければぜひ」

 ふふと笑う顔が美しい。手配書の写真は小さい頃のようだけど、なんとなく面影があるかな。ああもうホント、ナミもロビンも美しすぎて眼福眼福。
 いよいよ緩んできた表情を引き締めきれなくなってきて、結局そのまま表情を緩めてルフィの顔を見た。

「わたしがいない間に随分頼りになりそうな仲間を集めたね」
「あァ、そーだろ!」
「「「「いや〜、頼りになりそうだなんて」」」」

 ニシシと笑うルフィにわたしも笑う。ああ、心地良いなあ。
 そんな照れるメンバーを横目に見ながら、ゾロさんがおかしなものでも見るような表情で口を開いた。なんかひどい。

「てかおめェ、ルフィのあんな説明でよくそんだけわかるな…」
「だから、おれの説明が完ぺきだったってことだろ」
「いや、それはねェよ」

 騒ぐルフィにバシッと裏拳を決めたウソップ。これからはこんな楽しいのが日常なんだと思うと、本当に楽しみだ。

「はは。じゃ、みんなのことはわかったし、次はわたしの方かな。ルフィはわたしについて何か言ってた?」
「う〜ん、仲間がもう一人いる、っていうのは前々から聞いてたけど…」
「まァ、ほとんど聞いてねェんだと思って話してもらった方が良いかもな」

 あいつの説明は当てにならないと苦笑いしたサンジに、確かにルフィの説明だと言葉が足りなさそうだと、こちらも苦笑いで了解の意を示した。

「まず、名前はヨウです。好きなものはコーヒーで、自分でも淹れるから良ければみんなも言ってくれれば淹れるよ」
「それはもうわかったから、あの姿が変わったこととか、海の上を歩いたとか、そっちの方が聞きたいわ」
「よくわかんねェけど、悪魔の実の能力なんだろ?前にルフィが不思議の実の能力者とか意味わかんねェこと言ってたし」
「でも、悪魔の実の能力者はカナヅチだぞ?海の上なんか歩けるのか?」
「いいえ、能力によっては使い方次第でできないこともないとは思うわ。極端に数は少ないけれど」
「な〜そんなことより、ヨウ歓迎の宴やろうぜ!」
「ちょっとルフィ待ちなさいよ!それはまたあとで。あんたは知ってるからいいかもしれないけど、わたしたちはヨウのことほとんど知らないんだからね」

 とりあえず普通の自己紹介からと思ったけど、のんびりしているとルフィが待てないだろうということを悟る。まあそれがルフィの良いところでもあるんだけどね。

「それじゃ、ルフィが待てなくなる前に本題に入ろうかな」
「そうして」
「うん。じゃあ、まずわたしが能力者かっていうところ。それは本当だからカナヅチだし、海に沈めば動けなくなるよ」
「じゃあ、海の上を歩いたり姿を変えたりする能力って、一体どんな悪魔の実なんだ?」
「そこがちょっと説明がめんどくさいところなんだけど…」

 自分で言うのもなんだけど、わたしは随分とクセのある実を食べてるから、ちゃんと理解してもらうには、ひとつひとつ、順を追って言わないと混乱させてしまう。
 普段は説明が面倒で、聞かれてもあまり答えないことにしていたけど、仲間となると話は別だ。ある程度は伝えておきたい。
 きちんと、わかりやすいように、言葉を選ぼう。

「わたしが食べた悪魔の実は、図鑑にも載ってなかったから正式な名前やその効果はわからないんだ。だからわたしがわかる範囲で言うなら、その実は自分の前世の知識や経験を受け継ぎ、かつ前世が使えた力を同じ様に使えるようになる、っていう能力の実なんだ」
「ぜ、前世って…」
「輪廻転生の?」
「そう。自分の魂が、その前に命を持っていた時、というか。まあ、普通前世という言葉で思い浮かべる内容で大丈夫だよ」
「じゃあ、ヨウは自分の前世のことを知ったっていうの?」
「うん。幸運なことに人だったし、わたしとは全然違う感じの人だよ。まあ、前世について話し出したらいくら時間があっても足りないから、今回は割愛させてもらいたいんだけど」
「…そんな実、あるんだなァ」

 みんなは一様に、驚いたような、信じられないような顔をしていた。まあ、前世なんて存在するか否か、そんなもの確かめられることじゃないし、当たり前だろう。
 もう話終わったか?と言い出したルフィに、もうちょっと待ってと返す。

「じゃあ、その前世が使ってた能力の中に、海の上を歩いたり、姿を変えたりできる能力がある、ってことね」
「その能力を悪魔の実を食べて引き継いだヨウさ、ヨウも使えるようになったってことかな」

 うんうん。話の理解が早くて助かる。

「そう。わたしの前世は忍、忍者だったから」

 そう気を抜いて、軽々しく言ったのが、落ち着いて聞いてくれていたみんなには逆効果だった。
 わたしの言葉のあと、一瞬の静寂が船の上を包んで、

「「「「「に、にんじゃ〜?!」」」」」

 爆発してしまった。

「えー!ニンジャって、あのニンジャか?!ニンニンか?!」
「かっこいーなー!おれ、サイン欲しい!」
「ニンジャ!クノイチかっ?!」
「火遁の術をやってみろ」
「なんだお前ら、おれ言わなかったか?」
「まさか本当だなんて思わなかったわよ!」

 ゾロはちょっと違うけど、ぎゃーぎゃーと騒ぐクルーの中、ロビンだけが口もとに指を置き、頭を整理するように問いかけてくれた。

「つまり、姿を変えたのは、“変化の術”ということかしら」
「そういうこと。海の上を歩くのは、…簡単にいうと、体内にあるエネルギーを足の裏から放出して、そのエネルギーで海面を弾いて少し浮いている状態にしている、っていう感じ。ちょっと難しければ別に仕組みはわからなくてもいいんだけど、ただ、海の上はそれで歩けるけど、もし何か不測の事態で沈む様なことがあると、わたしはカナヅチだから泳げないよ、っていうことはわかっておいてもらえると助かるかな」

 ちなみに壁も歩けるよ、というと、見せろ見せろと湧いてしまったルフィ・ウソップ・チョッパーが、ナミの愛のゲンコツによって強制的に黙らされるという事態が発生してしまった。
 頭から煙を上げながら撃沈している彼らに口元を引きつらせながらも、わたしは話を進める。

「他にも使える術はあるけど、まあ話し出したらきりがないから、それは追い追いね」
「ニンジャということは、あなたの前世さんはワノ国の出身だったのね。あの国は鎖国という制度を敷いていると聞いたことがあるから、興味深いわ」

 さすがのロビン、博識だ。よく知っている。
 ただ、その仮定の斜め上の回答になってしまうのが、少し申し訳ないような気もする。

「いや、それが違うんだよ」
「違う?」
「ワノ国以外の国にもニンジャなんているのか?」
「えっと、それもちょっと違うんだ。うーん、まあわたしはワノ国については本と話で少し聞いてるだけだから、絶対とは言えないんだけど、わたしの前世はワノ国の人じゃないんだ。
 その人の生きた世界では、忍の暮らす大きな里がいくつかあって、力や個性の差こそあれ、多くの人が同じ様な力を使って戦陣に立ってた。戦争とか、依頼とかでね。まあ、こちらで言うところの悪魔の実の能力者に近い感じではあるのかな。あ、悪魔の実なんてものはなかったんだけどね」
「え?なにそれ、どういうこと?」
「なんだか、違う世界の話でもしているみたいに聞こえるわ」

 その通りだと、簡単に言うとまた混乱させてしまいそうで、どう伝えるべきか、言うのを少しためらっていると、

「ヨウの前世はワノ国なんかじゃねェぞ。違う世界のニンジャなんだ!おもしれェよな〜」

 ルフィに先を越された。
 今度は反応もなくポカンとする一行に、わたしは苦笑いを返すしかなくなった。

「うん。わたしにも、なんで前世が違う世界の人なのかとか、そういう経緯はさっぱりわからないから説明のしようがないんだけど…。えっと、簡単にまとめると、わたしは前世が違う世界で忍をしていて、その能力を使えるようになった能力者、って感じかな」

 一応話はまとめはしたけど、自分のせいで起こってしまった沈黙に徐々に耐えきれなくなり、口をついて出たのは苦笑いと謝罪の言葉だった。

「…なんか、ごめんね」
「なにあやまってんだ?」
「いや、すごい混乱する、っていうか簡単には飲み込めない内容だったかなあと思って。追い追い話すべきだったかな?」
「別にいつでもなんでもいいだろ。ヨウはヨウだ!別に前世がどーとか関係ねェし」

 ま、ニンジャも違う世界もおもしれェけどな!と笑顔で言い放ったルフィに、今度はわたしがポカンとすることになってしまった。

「…まあ、ルフィの言ってることには違いねェ」
「コイツ、ホント変な時に核心つくようなこと言うわね。なんか悔しいわ」
「とりあえず、ニンジャっぽい能力が使えるってことでいいか!あとはその内教えてくれよな」
「よし、そうと決まればおれはメシの準備始めっか。今日は宴だからな」
「おれ、飾り付けするぞ!」
「よーし野郎ども!宴の準備だ〜!」

 当事者のわたしを置いて、なんだか話が進んでしまったけれど、

「結局、ルフィにはかなわないなあ」

 それだけは、今もずっと変わらないみたいだ。

「ふふ。とりあえず、準備の間にコーヒー頂いてもいいかしら」
「あ、せっかくだから私のもお願い」
「もちろん、喜んで」

 とにかくわたしは、この一味に加わることができてとても幸せだ、ということだけは間違いない。

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