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「そんじゃ、ヨウの一味合流を祝してっ!」
「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」

 全員分のジョッキが真ん中でぶつかって盛大な音を立てたけど、それすら打ち消す程の大きな声がラウンジに響いた。
 こういう雰囲気はとても久しぶりな気がして少し照れ臭く、それを隠すようにジョッキの中身を一気に喉に流し込んだ。

「ぷは〜」
「あら、ヨウったら結構イケる口ね」
「いやいや、人並み程度だよ」
「人並みが初めっからそんな空けるかよ」

 そういうナミとゾロこそそろってジョッキを空けているから、この船の酒豪は彼らなんだろう。

「そういう二人も空いてるよ、どうぞ」
「主役が気を使わなくっていいから!さ、どんどん飲みましょ。この前いっぱいもらってきたとこだから、まだまだあるわよ」
「そうなんだ、ありがとう」

 ただ、空きっ腹は悪酔いしやすいと聞く。そろそろ空腹も最高潮に達していたわたしは、並んだ料理の数々に手を伸ばすことにした。
 ルフィが言ってたのもあるけど、わたしたちの目の前に並んだ料理は本当に美味しそうだった。
 サンジはわたしを含め女性陣にはわざわざ別の皿に盛って用意してくれていたからある程度気をつければ取られる心配はないだろうけど、目をつけられる前にいただくことにしよう。

「いただきます」
「今日はあなたのために作った料理です。どうぞ召し上がれ、プリンセス」

 サンジのセリフに少しだけ動きが止まった。…これで通常運転だと、大変そうだ。
 ただ、照れていると気づかれるのもまた少し恥ずかしいので、あまりそれを顔に出さないように気をつけながら口に料理を運び、今度はそのままピシリと固まった。

「あれ?ヨウさん?なにか、あ、もしかして口に合わなか」
「…おいしい」
「え?」
「おいしい、すごくおいしいよサンジ!うわ〜こんなにおいしいの、今まで食べたことないかも」

 本当に驚いた。本当に。
 まさかこんなにおいしい料理を船の上で食べられるとは思ってもみなかった。こんな料理をこれからは毎日食べられるのかと思ったら、…食べ過ぎてちょっと太りそうだ。
 その感動をそのまま言葉にすると、わたしより驚いたような表情でサンジも目を丸くしていた。

「サンジ?」
「…いや、そんなに喜んでもらえると作った甲斐があるってもんだよ」

 そう言ったサンジは少し照れたように、ただ、とても嬉しそうに笑っていて、わたしも笑顔を返した。きっと彼のような人を、本当のコックさんというのかもしれない。
 そんな彼の愛情がたくさんこもった料理だからこそ、こんなにも感動する味がするのかもしれない。

「まァ、どんどん食べてね」
「うん、ありがとう」

 タバコ片手にサンジがキッチンに戻るのを見届けてから再び料理に手を伸ばすと、目の前の大皿から吸い込むように料理を食べているルフィと目があった。

「ば!ばんびぼべびばぶべーばぼっ!」
「ね、ホント。すっごいおいしい」
「ぼんぼんぶべぼ!」
「うん。でもルフィ、口にご飯入れたまま話さないで。飛んでるよ」
「ってなんで話し通じてんだよ!」
「ヨウすっげ〜!おれルフィがなに言ってんのか全然わかんなかったぞ」
「謎の特技ね」

 今のは口唇術が使えればそんなに難しくはないんだけど。
 とりあえず笑ってそう?と言っておいた。

 そんなこんなで、各々酒や料理に舌鼓をうち、ルフィとウソップ、チョッパーが変な顔の踊りを披露して大笑いしたりと盛り上がっていると、ロビンと目が合う。何か言いたそうに感じて、少し頭を傾けた。

「ん?」
「少し気になることがあるのだけど、聞いてもいいかしら」
「うん、何?」
「あなた、“何でも屋”さんを知っている?」

 その言葉に、ジョッキに伸ばしかけた手を止めた。

「“何でも屋”?なんだそれ」
「あ、私は聞いたことあるわ。確か、名前は…月影、だっけ?極秘情報の収集からペット探しまで、受けた仕事はなんでもこなすっていう」
「ええ。ただし、月影は気に入らない相手の仕事は、どんなにお金をつまれても断ると言われているの。例えば、海賊、とか」
「海賊?海賊がキライってことか?」
「そういう噂よ。でも、海賊でも受けた仕事もあるという話で、それが本当なのかは私にはわからないけれど」

 ロビンはワインの注がれたグラスに少し口を付け、さらに言葉を続けた。

「腕が立つのに強さを鼻に掛けることもなく、気さくで優しい。でも何かと秘密が多く、その素性は誰も知らない。それも彼の魅力の一つではあったようだけれど。とても人気のある人だったのに、最近になって急に仕事を辞めたと騒ぎになっていたわ」
「へ〜。で、なんでヨウに知ってるか聞いたんだ?」
「ええ。その何でも屋さん、素性はほとんど知られていないけど、外見を知っている人は少なくはないのよ。その人は短い金色の髪に蒼い瞳の男性で、いつも黒の外套を羽織っている」

 ロビンのその言葉に、何人かが顔色を少し変えた。

「金髪で蒼い眼って…」
「ガイトウってなんだ?」
「上着、みたいなもんだろ」
「例えば、ヨウがこの船に着いた時に着てたやつみたいな?」
「上着だけじゃなくって、姿もそうだろ」
「あなたの能力なら、素性を隠すことは難しいことではないし、もし船長さんを追うために仕事を辞めたのだとしたら時期も合うわ。それにあの時、確かあなたは仕事の姿のまま来てしまった、というようなことを言っていたと思うのだけれど」
「え、じゃあ…」

 みんなの眼がわたしを見ていた。ルフィは相変わらずご飯を食べながらだけど。
 別に隠してたわけじゃないけど、なんとなく秘密がバレたかのような感じになってしまったので、浮かんだ表情は苦笑いだった。

「うん、まあお察しの通り、何でも屋月影はわたしだよ」
「え〜?!」
「ヨウはニンジャで海賊で秘密の何でも屋なのか!」
「うっわ〜!なんかかっけェ!」
「もう廃業してきたから、もう何でも屋ではないけどね」
「え〜もったいない!一味の財政難の救世主になると思ったのに…」
「だって、仕事してたらいつまで経っても合流できないよ」

 それはそうだけど、と少し落ち込んだ様子のナミに、苦笑いでごめんねと返した。

「でもなんで、素性隠す必要があったんだい?別に悪い仕事してたわけでもねェだろうし、隠さなくてもいいんじゃねェのか?」
「はっ!もしかして、おれらには言えないような、ものすごい理由が?!」
「そ、そうなのかっ?!ますますカッコいいな〜」

 盛り上がっているところ申し訳ない気もするけど、そういうカッコいい感じではないので少し気まずい。

「いやいや、そんなことないよ。たまたま、そうなっちゃったってだけで…」
「たまたま?」
「うん。…まだ今より全然小さかった頃、どうしても行きたい島があってさ。でも、その頃はそんなにお金もあるわけじゃなかったから節約したくて、商船に荷物運びとか掃除とか、できることをやる条件で乗せてもらえないかって頼んだんだけど、女で子供の姿じゃオーケーもらえないでしょ?」

 実は一度、そのままの姿で頼んでみたのだ。もちろん断られてしまったけど。

「まあ、普通はそうでしょうね」
「だから男の人の姿になって、何でもやります、っていう条件で乗せてもらったんだよ。で、その航海の最中に運悪く海賊に会っちゃって、しかも乗り合わせてた護衛が全然役に立たなかったから、仕方なくわたしが対応することになったんだ」

 わたしはすこぶる運が悪いのかと、少し落ち込んだ覚えがある。
 まあ、運が良いのか悪いのか、襲ってきたのは弱小海賊団で、特に追い返すのは難しいことではなかったけど。

「役に立たない護衛って、それ護衛じゃねェだろ」
「ホントにね。口だけは達者な男だったけど。で、その後、その時のわたしのことが、何でもやるっていう言葉と一緒に口コミで広まっちゃって、仕事を頼めないかって依頼が来るようになったんだ。でもそれって、その時の男の人への依頼でしょ?」
「まあ、そうなるわな」
「それで姿を変えたまま、できる範囲で仕事引き受けるようになって、そのまま今まできちゃったって感じなんだよね」

 まあ、仕事があれば稼げるし、実戦で訓練もできて、結果的には良かったのかもしれない。でも、この仕事が思ったより忙しくなったせいで合流が遅れてしまったのもあるし、なんとも言えない。

「本当に、流れでそうなったって感じね」
「そうなの。仕事を選んでたのだって、個人事業だから別にそう特別なことでもないでしょ?気が合わない人から頼まれた仕事しなきゃダメなほど切羽詰ってなかったし。海賊が嫌いっていうのもただの噂で、たまたま気が合わない人に海賊が多かったってだけの話で」
「だから気の合う人の依頼だけ、その時の男の姿で受けた。仕事が終わればその姿でいる意味もないから元に戻る。そうすると忽然と姿を消す、秘密主義の何でも屋の出来上がり、ってことか」

 まったくもってその通りで、カッコいい理由もなにもあったもんじゃないのだ。何か聞かれることも多かったけど、答えるのが面倒だからのらりくらりとごまかしただけ。
 結局、人から見た印象なんて、それだけ適当なものなんだろう。

「じゃあ、海賊嫌いっていうのはウソってことか。ん?でも前、ルフィがヨウは海賊嫌いだって言ってなかったか?」
「うん、まあ、もともとはね。だけどルフィの仲間になるって決めた時、海賊だからって嫌うのは、差別と同じことだなって気づいたんだ。だから海賊だってだけで嫌うのはその時やめたの。噂を撤回しなかったのは、そういう噂を聞いて依頼を止めるような人に、ろくなやつはいないから、仕事を選ぶのに都合が良かった、ってだけなんだよ」

 まあ別に、ビジネスライクな関係の人にどう思われようと、わたしは何とも思わないけど。
 わたしの本当の姿は、知ってほしい人だけ知ってくれれば良い。それは例えば、彼らのように。

「へ〜、なるほどなァ」
「まあ、もう関係ない話だけどね」
「そうね。でも気になってしまったものだから。ごめんなさい」
「いやいや、気にしないで。別に隠してたわけじゃないしね。さ、わたしの話はこれくらいにしてさ、今度はみんなのことも聞かせて」

 話を変えるようにそう言うと、ウソップがエルバフの巨人について話してくれたり、チョッパーの医学についての想いを聞いたり、サンジとナミとロビンの美しさについて論議したり、ナミに貯金額を問い詰められたり、ゾロと新しい筋トレ方法を話したり、ロビンと美味しいコーヒー豆について話したりして、あっという間に時間が過ぎていった。


 宴がお開きになると、片付けのサンジ以外はみんなキッチンを出た。手伝いを申し出たのだが丁重に断られてしまったので、それは次の機会を狙うことにしようと思う。
 それなら、わたしが今からしたいことは一つ。

「ルフィ」

 彼はメリーの頭に乗り、夜風に吹かれながら帽子を眺めていた。

「ヨウ」

 振り返ったルフィはなにを思ったのか手をぐーんと伸ばし、それはわたしに巻きついた。
 その伸びた腕に巻き取られて、わたしもメリーの頭に乗り込むことになった。
 それでもバランスを崩さなかったわたしには、ぜひ花マルをいただきたいものだ。

「気持ちいいだろ?」
「うん。やっぱりここ、ルフィの特等席だった?」
「ああ。でも今日は特別にヨウもいいぞ!」
「ありがと」

 にっと笑ったルフィに、わたしも笑顔を返した。ルフィの後ろに立って海の向こうを眺めると、月や星の光が海面に反射して、キラキラと輝いて見える。やっと、ルフィと同じ景色を見られるようになった。それが本当に嬉しい。
 ルフィの見ていた手元の帽子に目を向けると、わたしがかつて、別れ際に渡したピアスが付いていた。

「これ、ヨウに返さねェとな」

 そう言ってルフィはピアスを外し、わたしに渡してくれた。
 受け取ったわたしは、久しぶりに自分の手元に戻ったピアスを少しの間だけ眺め、再び耳に戻した。
 戻ったピアスをつけた耳たぶに触れ、おかえり、そう心の中で呟いた。

「なんか、ずっとつけてたやつがなくなると、ちょっとさみしい感じだな」
「でもその代わり、すぐ後ろにわたしがいるよ」
「そうだな。じゃあさみしくねェ!」
「うん」

 帽子をかぶり直したルフィは、落としていた視線を海の向こうに向けた。

「ここでおれ、ヨウの石見ながら、いつ来るんだろうな〜ってよく考えてたんだ」
「遅くなって、ごめんね」
「でもヨウはちゃんと来た。だからいいよ」
「うん、ありがとう」
「ずっと、あの時からずーっと、待ってた」

 ルフィと別れた時の言葉。それを支えに、今までがんばってこれたのだ。
 今ルフィがかけてくれた言葉も、彼と再びこうして話しができていることも、そしてこれから一緒に旅ができるということも、何もかもが嬉しい。

「いっぱい、一緒に冒険しよう」
「あァ」

 会わなかった時間は長かったかもしれないけれど、そんなこと、これっぽっちも関係なかった。
 握った拳を軽くぶつけながら笑い合ったルフィの顔は、間違いなく、あの時のルフィと同じものだった。やっと、やっと届いた。

「ねえルフィ、ルフィも海でエースさんに会ったの?昼間に言ってたでしょ?」
「あ、そうなんだよ!エースがヨウに会ったって言うからビックリしたぞ」
「ルフィのお兄さんが、まさか白ひげの隊長さんだとは思いもしなかったよ。とっても素敵なお兄さんだね」
「ああ、おれの自慢の兄ちゃんだ!」
「ふふ。あ、これまでのこと、いっぱい聞かせてよ。ルフィってば、サンジの料理ばっかり食べててあんまり話してくれないから」
「ヨウだってあいつらとばっか話してただろ〜」
「だってみんなおもしろいから」
「だろ?」
「うん、最高」
「にっしっし!よーし、まずは空島の冒険の話からな!」
「うん、お願い」

 それから話は空が白むまで絶えず、そのままメリーの後ろで力尽きたのを日が昇ってから見つけた仲間たちに、ため息混じりの苦笑いと毛布をもらうことになった。

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