| 「大丈夫?切り傷はたくさんあるみたいだけど、大きなケガはない?」 「あ……あの、はい、大丈夫、です。助けていただいて、ありがとうございました。あ、おれ、きり丸っていいます」 なにが起こったのかわからず呆然としていた彼、きり丸くんは、思い出したようにそう言った。 とりあえず、大きなケガがないようで良かった。 「昼間のお礼ということで、お互い様かな。あ、わたしはヨウです」 「…ヨウさんは、なんでこんなところに?」 本当に、ただただ不思議に思っているという感じだ。まあ、普通はこんなところに人がいるわけないし、その疑問は普通だろう。 ただ、わたしの事情を話してどうなるわけでもない。むしろ頭がおかしいと思われるだけだろう。ごまかすしかない。 「…近くにちよっと用事があって。それでなんか物騒な声が聞こえたから、何事かなと思って来てみたんだよ。ところできり丸くん、立てそう?」 深く聞かれないよう、話題を変えるために質問をしながら手を差し伸べる。 「あ、はい、大丈夫…」 「ではなさそうだね」 「…腰、ぬけちゃったみたいっス」 ペタリと再び座り込んでしまった。 まあ、状況的には仕方のないことだろう。 「きり丸くんは、お家に帰るのかな?それとも昼間のとこ?」 「昼間の学園っス。全寮制なんで」 「そっか。じゃあ、はい、どうぞ」 「え?」 「送るよ」 背中を向けてしゃがんだ。このまま彼をここに残していくわけにはいかない。 「え、いや、」 「だってこのままここに残るわけにはいかないでしょう?いつ歩けるようになるかもわからないし、危ないよ。さ、早く」 「…すいません」 「いいえ」 木の上を移動した方が早いけど、きり丸くんを連れてだと少し危ないし、たぶん怖がらせてしまう。少し遅くなってしまうけど、そのまま下道を歩いた方が無難だろう。 「大丈夫ですか?重いですよね」 「ん?ああ、大丈夫大丈夫。わたし案外力持ちなんだよ。というか、どうしてあんなことになっちゃったのか、聞いてもいい?」 「…おれ、アルバイトで造花作りをやってるんスけど、それの納品が今日だったこと忘れてて…。夕方急いで町まで行って納品すませて、その帰り道、 銭袋のぞきながら歩いてたら、あいつらに見つかっちゃって」 「きり丸くん、アルバイトしてるの?」 「学費とか自分で稼がなくちゃいけないで」 なるほど、それは偉い。でも、ちょっと迂闊かなあ。 「そっか。でもきり丸くん、人に見られる可能性のあるところでは、買い物するんじゃない限りはお財布出さない方がいいね。お給料が入って嬉しかったんだろうけどさ」 「はい、これからは気をつけます」 「うん、その方がいい。あんなやつらに、自分で一生懸命働いて稼いだお金渡さなきゃならないなんて馬鹿げてる。でも、」 それが命と引きかえなら、話は変わる。 「命をそれで救える可能性があるなら、渡してしまいなさい。どんなに稼いだって、お金では命は買えない。君が死んでしまったら、お金だけ残ったところで元も子もない」 「…それは、わかってるんですけど」 「きり丸くんの気持ちはわからなくはないんだけどね。だから、守りたいものがあるなら、強くなるしかない」 強さだけあればいいというわけではないけど、それでも、自分の手で守れるものは、強さの分だけ増えるだろう。 「きり丸くんなら、きっと大丈夫だよ。それから、」 「?」 「がんばったね。よくがんばった」 「え?」 「こわかったでしょう?あんなのに追い回されて、暗くなってしまって。でも泣かないで、そんなに傷だらけになるまで随分長い間逃げていたんでしょ?」 背中で少し身体が強張るのがわかった。ここで声をかけるのは野暮だろうと、わたしは黙った。貸せるハンカチもない女でごめん。 しばらく黙っていると、背中にかかる重さが気持ち増えたように感じた。いろいろあって疲れたんだろう、寝てしまったらしい。 「お疲れ様でした」 小さく声をかけて、再び黙って歩き始めた。 が、すぐに足を止める。山賊が逃げた方向から気配が迫っている。人数は二人。ただ、さっきの山賊ではなさそうだ。 素早く後ろに数歩分下がると、足元にクナイが刺さった。 「どちら様ですか?この子に刺さったら危ないでしょう」 「おいオマエ、きり丸をどうするつもりだ」 木の上からスッと降りてきたのは、深緑色の服の二人組だった。昼間見たきり丸くんたちが着ていた服に似てるということは、学園の関係者か。名前も知っているようだし。 「彼を忍術学園までお連れしてますが」 「嘘をつけ!オマエ、変な着物を着てるし、南蛮人の人攫いだろう」 「…違います」 でも、違うという証拠もない。確かにわたしは、彼らにとって相当怪しい人物であることには違いないし、何を言っても言い訳にしかならないだろう。 「はあ」 「なんだ?!」 「いえ、あなた方は彼の関係者ですね?では、彼はお任せします。今少し寝てしまっているので…って、なんですか。危ないな」 飛んできたクナイを再び少し身体をそらして避ける。正確に飛んでくるし、あの山賊なんかよりはかなり強そうだ。 「きり丸はなんで寝てるんだ。傷だらけだし、オマエきり丸に何をした」 「わたしは何もしてません。彼は疲れて眠っているだけです」 気性が荒そうな方にはもう何も通じなさそうだ。今まで一言も発していない方は、まだ様子を見ているのか。 とにかく、わたしはもうこの場を離れた方が良さそうだ。彼らもきり丸くんを心配して怒っているんだろうし、わたしに戦う理由はない。 きり丸くんを降ろして立ち去ってしまおうと下にしゃがみ込むと、きり丸くんは目を覚ました。まあ、これだけバタバタしていたらさすがに起きるか。 「ヨウさん?」 「きり丸くん、君の知り合いかな?あの人たち」 「え?あ、中在家先輩と七松先輩!」 「きり丸!オマエ、この女に何されたんだ!」 「え?え?」 きり丸くんは混乱しているらしい。まあ、寝起きだし仕方ないね。 とにかく、彼らがきり丸くんの先輩たちなら、もう何も問題はない。足ももう大丈夫なようだし。 「きり丸くん、もう大丈夫そうだね。あとは頼りになりそうな先輩もいるし。じゃあ、わたしは行くよ」 そう言って一気に木の上に跳んだ。 「え、ヨウさん?!ちょっと待って!」 「おい!」 「あ、七松先輩違うんです!ヨウさん!」 「素敵な先輩たちだね。じゃあ、バイバイ」 あれだけ心配してくれる先輩なんて、素敵だな。きり丸くんがいるのに攻撃したのはちょっと雑な感じするけど。 笑ってきり丸くんにだけ軽く手を振って、一気に学園とは反対、わたしがいたところまで瞬身の術で移動した。幸い追ってくる感じもないし、ここにいても問題はなさそうだ。 「疲れた」 さすがにもう休もうと、木の上に葉っぱでこさえたベッドに移動した。 なんというか、こういうのを厄日というのかもしれない。 |