| まず、大前提としてわたしが違う世界から来たこと。世界政府が世界の統治者として君臨し、その下に世界各国があり、世界の海は海軍によって統治されていること。海賊や悪魔の実の能力は、話をややこしくするため避けたが、自身は忍ではなく、今は仕事として何でも屋をしており、ある程度の戦闘能力はあること。その何でも屋の仕事で街の近くの山に入り、経緯はわからないが、気づけばこの世界の山に倒れていたこと。 その足で山を降りる最中に忍術学園で道を聞き、町へ降りて情報収集して山に戻ると、たまたまきり丸を見つけたこと。 今日は海まで様子を伺いに行って、その帰り道で食堂のおばちゃんに海でもらった魚を譲ったら、忍術学園に食事に誘われたこと。 詳しくは話せないこともあるが、嘘だけはつかないよう、重要なことは逃さないように注意しながら、自分のこと、世界のこと、この世界でのことを簡潔に話した。 「成る程…」 何度かざわついた教師陣を落ち着かせ、最後まで静かに話を聞いてくれた学園長先生は、そう言ってから再び口を閉ざした。 まあ、とんでもなくおかしな話をした自覚はある。それなりに思うことはあるだろう。 「信じがたい話でしたでしょう。…嘘はついておりませんが、信じて下さいと申し上げることもはばかられるような内容であることは理解しております」 思わず苦笑いがこぼれた。他でもない、わたしが一番、これが嘘であれば、夢であればと願っている。 ただ、これはどうしようもなく現実だ。頬を引っ張っても痛いだけだし、怪我をすれば血も流れる。お腹も空くし、眠くもなる。どこまで行っても、この世界にルフィはいない。 だから、だから帰らなくてはいけない。何をしてでも、必ず。 「ですから、信じてくださいなどとは申しません。どうか、あの山に居ることだけはお許しください。今はあの山にしか、戻る手がかりがないのです」 これだけは、どうにか許していただかなくてはならい。帰る手がかりは、あの山の、あの場所にある。そこにしか、ない。 だからそれだけは譲れない。譲らない。 わたしは帰るんだ、必ず。そしてルフィと冒険するんだ。 「わたしは帰ります、必ず、わたしの世界へ」 「…ヨウさん」 「町に出れば仕事もあるし、何か手がかりになる本も手に入るかもしれません。…もし何も見つからなくとも、きっとあの山のあの場所にいれば。ですから、お願いです。お許しいただければ、学園に仇なすようなことはしないとお約束しますし、できる限り学園に近づかないよう」 「えっ、それってヨウさんともう会えないってこと?」 「きり丸くん…」 「おれそんなのヤダ!…ねえ学園長先生!ヨウさんは嘘なんかついてないって!ヨウさんは何も知らないぼくの事助けてくれるとっても優しい人で、命の恩人なんです。だから、だからヨウさんに学園に近づくなとか言わないで!」 立ち上がり、必死な様子で訴えてくれるきり丸くんに小さくお礼の言葉を告げる。優しい子だ、本当に。 そんなきり丸くんの様子を見てなのかはわからないけれど、じっと考えている様子だった学園長が口を開いた。 「きり丸、落ち着きなさい。ヨウ殿、事情は相わかった。ならば帰れるまで、この学園に滞在すれば良い」 「……え?」 「え?ホントに?学園長先生!やったね、ヨウさん!」 喜んでくれているきり丸くんに手を取られても上手く反応を返せず、ただただ呆気にとられてしまった。 学園に滞在って、なんで?というか先生方、やっぱり、とか、こうなると思っていたとか言ってため息ついてないで異議を唱えるべきでは?ってなんでわたしがそんなこと考えなきゃならんのだ。 「いや、あの、学園長先生?わたしはあの山にいる許可をいただければそれで…」 「じゃから、この学園におれば良いではないか」 おおっと、言葉が通じない?! 学園長の提案がどういうことなのかわからず二の句も告げられずにいると、どなたかは知らないが、先生の中の一人から控えめに質問がとんだ。 「学園長はこの方の話を信じるということですね?」 「そうじゃ。今までの言動からも、聡明で現実的な方だとわかる。そんな彼女が、異なる世界から来たなどという虚言としか思えぬ話をしてきたからこそ、むしろ信じるに値する。もしも彼女が間者なら恐れ入る!討たれて本望じゃよ」 そんなことを言って笑い出した学園長先生に、再度呆気にとられる。 学園長先生がわたしの話を信じてくれた。それはとても嬉しいことだし、幸運なことだ。それはそうなのだけど、わたしの願いはそれではない。 「うんうん、ヨウさんは良い人だもん!」 「いえ、あの、」 「衣食住は保証しよう。この学園には図書室もあるからな、調べ物もはかどるじゃろう。そうじゃな、その代わりに何か学園のことを手伝ってもらおう。仕事ならたくさんあるからのう。簡単な仕事もあるし、ヨウ殿になら、何か教える役目もこなせるかもしれんな」 いや、いやいやいや。トントン話が進んでしまっているけど、やっぱりダメだ。 「待ってください!お言葉はとてもありがたいのですが、やはりわたしはこの学園に滞在することはできません。わたしがこちらへ来た時間帯は夜なので、夜間はあの山におりたいのです。ですが夜間に外で何をするのかわからない人間が外出するのは危険なはずです」 城に仕える人間がこの学園に入ることすら歓迎されることではないのはわかった。その疑いが少しでも晴れないまま、単独で外出されるのは良くないだろう。 ならば最初から中に入れない方が、どう考えたって都合が良い。 「あの山には綺麗な川があります。動植物も豊富ですし、しばらく暮らすには困らないと思いますので、」 「そうじゃなあ…。確かに裏山までこの辺りに詳しくない者が一人で外出はちと危険かもしれん。よし、こうしよう!ヨウ殿の夜間外出時、上級生に夜間訓練も兼ねて同行させよう」 「いや、あの、そういうことでは…」 「まあ今晩はそうじゃな、生徒では急過ぎるからのう。よし土井先生、着いて行きなさい」 「え、私ですか?」 「ちょ、」 「我ながら良い思い付きじゃ!はっはっは!」 聞いて! 先生方も!同情の目でこちらを見てないで!止めて! 「ヨウさん、無駄っすよ。ああなったら学園長は聞きません。それに、ヨウさんとしばらく一緒にいれるなんてうれしいな〜」 「えっと、」 「それともヨウさんは、おれのこと、」 「いやいやいや、きり丸くんのことは大好きだよ」 「わーい!じゃあ良いよね」 …あれ?何か違うぞ? 「生徒への紹介や仕事の手伝い等は明日からということで、今日は学園の最低限の案内だけ受けておきなさい」 「あ、じゃあそれぼくがやっても良いっすか?」 「良かろう」 「わーい!」 「部屋は、そうじゃな。シナ先生、お願いできますかな?」 「はい、かしこまりました。着物等も用意しておきましょう」 呆然としている間に、あれよあれよと話が進んでしまい、何となく、後には引けない展開になりつつあることを察した。最初は警戒した雰囲気だった先生方も、今はもうすっかり仕方がないというような顔をしている。 …これは素直に、こんな得体の知れないわたしを受け入れようとしてくださることを喜ぶべきなのかもしれない。 「…ありがとうございます。では、しばらくの間お世話になります」 「うむ」 「ただし、もし学園側でわたしのことが信用ならないというお話になれば、すぐに出て行きますので、仰ってください。…まあ、もうそういうことに敏感な、生徒さんかな?はずっと話を聞いているようですし、心配のある内は監視をつけていただいても構いませんので」 おや、バレていないと思っていたのかな?指摘するとぴくりと動く気配がした。そう、この部屋に入る時から気づいてた。床下に五人、それから天井裏に一人。 上手く気配は消せているけど、さすがに情報収集に五人は多すぎるかなあ。まあ気になるんだろうけど。それから天井裏の気配はかなり優秀な感じ。上級生かな。 「いや、必要ない。そもそも、気配に敏感なそなたの監視などあってないようなものじゃ」 「いえ。もちろん、出て行く時はこの学園でのことを他言しないこと、今からお約束いたします」 そこまで言って、正座のまま佇まいを正した。 「学園長先生、ありがとうございます。わたしのような者の話を信じ、ここに置いていただけること」 この世界には、わたししかいなかった。 わたしのことをいつまでも待つと言ってくれた仲間がいる世界のことを知っているのは、わたししかいない。この世界でしばらく暮らせば、おそらくある程度の知り合いならできただろう。だとしても、それでは、わたしはひとり。孤独だ。 でもこうして、本当のことを話し、その話が嘘ではないと、本来の世界にあるべきわたしの存在を信じてくれる人がいる。 それはわたしにとって、とても大きな変化だった。 「わたしという存在を認めて下さったこと、心から感謝いたします。 改めまして、わたしの名前はヨウ、ヨウとお呼びください。働かざる者食うべからずと心得ておりますので、わたしにできることは何でもやります。戻るまでの間、よろしくお願い申し上げます」 大きな感謝の意を込めて、ゆっくりと頭を下げた。 |