04

 話しても大丈夫だと思い、本当のことを二人に話したけれど、二人が食いついたのは"悪魔の実の能力者"でも"前世が異世界人"でもなく、"ニンジャ"という点だった。
 その"ニンジャ"へのハイテンション振りは、マキノさんが一度様子を見に来るほどで、二人を落ち着かせるのに労力と時間を費やすことになったわたしは、ちょっとだけ言わなければよかったかなと思ったりした。
 シャンクスさんは忍者と忍がちょっと違うということがわかっていてルフィに乗っかって楽しんでいるので、ちょっとタチが悪い、とも思わなくもない。

「忍が使う力の源は、簡単に言うと体力と気力なんです。うまく言えないんですが…、まあそれを混ぜ合わせて一つのエネルギーに変換している、みたいな感じです。その混ぜ合わせたエネルギーはチャクラと呼ばれているんですか、それを活用して体術や忍術を使います。だから体力か気力のどっちかが切れると使えなくなってしまいます。
さっき壁をのぼるのには、そのエネルギー源を足の裏に集中して、壁に吸着するようなイメージでやるとできます。その逆に、足の裏から放出するようなイメージで使ったのが、海の上を歩いた時の仕組みです」

 何とかニンジャ騒動をなだめ、今度はどうやって忍術を使うんだー、と騒ぎ出した彼らにその仕組みを説明した。
 はずだったのだけど…

「「なるほど。不思議能力ってことだな〜」」
「……」

 開けられた部屋の窓から二人は遠くを見つめているので、内容は伝わらなかったらしい。
 それに苦笑いをうかべていると、シャンクスさんがあっけらかんとした表情でわたしをふり返った。

「ま、詳しくはわかんねェが、とりあえずワノ国にいるニンジャとは違うってことはなんとなくだがわかった」
「なァシャンクス、ニンジャって、どこに行けば会えるんだ?」
「う?あァ、ここは"東の海イーストブルー"だが、"偉大なる航路グランドライン"後半の海でな、"新世界"って呼ばれてる海がある。そこにはサムライとニンジャの国、ワノ国がある」

 実を食べてからは、大人だった彼の記憶や経験を共有して随分と成長したような気がしていた。でもやはり、わたし自体はまだまだ子どもであって、わたしが今を生きているこの世界のことは全然知らないことだらけだということがあからさまになったような気がした。
 これからきちんと勉強しよう。それで、

「いつか、行ってみたいなあ」

 大きくなったら、いつか一緒にいろいろなところへ旅行しよう。そう言ってくれていたお父さんはもういないけれど、それでも、きっと楽しいぞと笑っていたお父さんとの約束は、わたし一人でもかなえたい。
 ぽつりと、小さく小さく、願いをこぼした。

「じゃあ、いっしょに行こう!」
「え?」

 まさか独り言に返事があると思っていなかったわたしを、あふれる笑顔で見ていたのは、ルフィくんだった。

「おれ、大きくなったら、今よりずっとずっと強くなって、そしたら海に出て海賊になるんだ!だからいっしょに冒険しよう!」
「ん?え、ちょっと待って。海賊?あ、いやそっか。海軍ね」
「ちがうぞヨウ、海賊だ!か・い・ぞ・くっ!おれのじいちゃんは海軍だから、おれにも海軍になれってうるせェんだけど、おれがなるのは海賊だ」

 そう楽しげに話すのは間違いなくルフィくんで。どうしたもんかと言葉につまる。
 ルフィくんと一緒に旅ができたら、冒険ができたら、それはきっと楽しいんだろう。
 でも、それが海賊という肩書きになってくると、話はちょっと変わってくる。だって他でもない、こんなことになった原因が海賊なのだ。目の前で、お父さんが…

「海賊…」
「ルフィ、その話は…」
「海賊はいいぞ!な、シャンクス!」
「…え?」
「シャンクスはな、すっげェ海賊の船長なんだ」

 目を見開いて、シャンクスさんの顔を見た。
 あ、ああ、そうだったんだ。

「そう、でしたか。てっきり、商船かなにかの、船長さんなのかと…」

 彼の身分を知り、いやその船を見て知ったのかもしれないけれど、きっと救難船のみんなもわたしと似たような顔をしたんだろう。…いや、海賊というだけで大半の人はそうなるのかもしれない。
 だからなんとなく、自分から言うのを避けてくれていたんだ、シャンクスさんは。

「海賊船の、船長さんだったんですね…」
「…あァ、そうだ」

 わたしたちは、海賊にやられ、海賊に助けられたんだね。
 少しだけ目をふせて、そっか、とつぶやく。

「だますつもりだったわけじゃねェんだ」
「はい、わかっています」

 そもそも、わたしがカン違いしていたのが悪いんだ。というか、そう思いたくなかっただけで、本当はなんとなく、わかっていた。やたら強そうな気配を、この人からも、一緒に来ている仲間の人からも感じていた。でも、それが事実だって確認するのがこわかった。そうでなければいいと、どこかで思っていた。
 全然大丈夫です、と言いながら笑おうとして、たぶん失敗した。きっと変な顔をしてしまっているだろう。
 海賊というだけで、全員が悪いことをしているわけではない。そんなこと、わかってる。
 ただ今は、もう少しだけ、時間が必要みたいだった。

「ん?なんだ〜ヨウ。どっかいてぇのか?」
「んーん、大丈夫。ありがとう心配してくれて」
「ルフィ、今日のところはもう行くぞ。まだ疲れてんだ、ヨウは」
「え〜」

 シャンクスさんは、とても優しい人だ。きっと、わたしの気持ちをくんで、出て行こうとしてくれている。助けてもらって、気までつかわせて、わたしは一体何さまなんだろう。

「シャンクスさん」
「ん?」
「助けていただいて、本当にありがとうございました。助けてもらえたのが、あなたの船で本当によかった」

 ルフィくんも。そう付け足せば、いいって、と言って笑ってくれた。

「お暇があったら、村を出る前に、シャンクスさんたちの冒険の話、聞かせてくれますか?」
「…ああ、いいぜ」

 にっと笑ってそう言ってくれたシャンクスさんに、今度こそ、わたしもきちんと笑って返した。

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