何よりも優しい選択
11月初めの週末、クィディッチのスリザリン対グリフィンドール戦の日である。
結局、ウィーズリーを出場停止にはできなかった。しかし、一ヶ月にも渡ってトロフィー室の掃除の罰則を言い渡され、家に悪事を報告する手紙が送られたそうだ。翌日のランチに吠えメールが届いて、大広間に彼らの母親の怒声が響き渡って、ご丁寧に教えてくれた。
あの大事件以来、スリザリンの団結力はさらに高まった。あの日からバスルームから戻ったシンシアをエリザベスが強く抱きしめ、モンタギューとワリントンが謝罪と感謝と、勝利を約束してくれた。エヴァンジェリンに借りたローブは穴が空いてしまったので謝ったのだが、気にしなくて良いと優しく微笑まれ、なんならハニーデュークスの高級チョコレートまでもらってしまった。アデレードもそれにうんうん、と頷き、廊下ですれ違った時必ず挨拶をしてくれる。きっと、他寮への牽制の意味もあるんだと思う。アデレードはキリッとした顔立ちの才女として知られるので、彼女に喧嘩を売るのはトロール並のお馬鹿さんくらいなのだ。
お祭り騒ぎの談話室の隅っこで、ユーフェミアが佇んでいた。シンシアが輪を抜け出して、反撃のお礼を言うと照れくさそうにしていた。ユーフェミアは儚げな美少女なのだ。はにかんだ顔がとても可愛らしくて、シンシアは同性ながらキュンとした。ちなみに、
当然のごとくユーフェミアは減点も罰則も回避している。やったね。
「シンシア、必ず勝って仇を取ってやる」
「あー、お願いね?」
いや、死んでませんけど。と言おうとして、エリザベスが肘打ちを喰らわせてきた。地味にめっちゃ痛かった。下手に突っ込んで士気を下げるなと言う忠告だろう。上手い返しが思いつかなくてなんとか絞り出すと、スリザリンチームは力強く頷いて闘志を高めたようだった。男の子ってよく分からない。
クィディッチ競技場に移動して、スリザリンの横断幕や旗を掲げて応援する。この時ばかりはエリザベスも大声を出してはしたない、なんて言わなかった。
スリザリンチームは大半を大柄でガタイの良いメンバーで揃えている。魔法使いで体を鍛えている人は少ないので、一回りも二回りも大きく見える。箒に乗る時は体感が必要だし、上半身を鍛えればパスのスピードも早くなる。
それだけでないと気づいたのは、試合が始まってからだ。スリザリンらしく、頭も使ったプレーだ。フェイントや押し合いなど、悪質だと判断されないギリギリのラインを攻めるプレー。ラフプレーともいい、心象は良くないがクレバーな戦法だと思う。
少なくとも勝てなくてヤケクソでやっているのではなく、勝率を高めるためにそれ相応の努力とテクニックをした上でのプレーなのが分かる。体を鍛えるなんて、一日やそこらで実るものではない。それだけ彼らが日々の生活からクィディッチ戦を意識しているのかが伝わってくる。
「ピュシーのプレーって凄くない?」
「そうね!とてもテクニカルだわ!」
スリザリンのチェイサーはあの日庇ったモンタギューとワリントン、そしてピュシーだ。モンタギューとワリントンは、その持ち前のフィジカルでラフプレーでグリフィンドールを撹乱しつつ、パワーでねじ伏せるタイプだ。対してピュシーはフィジカルはグリフィンドールと然程変わらず、他二人とは毛色が違う。力強く猪突猛進な二人を上手くコントロールしながらテクニカルな小技で、さらにグリフィンドールを撹乱している。チェイサー三人で、緩急の釣り合いをとっているらしかった。
「チャーリー・ウィーズリーが動いたわ!」
シーカーのテレンス・ヒッグスがチャーリー・ウィーズリーを追いかける。しかし、初動の遅れは致命的だった。その間もスニッチをキャッチされる前にできるだけ得点をしようと、チェイサーたちが猛攻をけしかける。ビーターたちはチャーリー・ウィーズリーを集中して狙って妨害しようとするが、双子のウィーズリーは中々曲者のようで、思うように邪魔できないようだった。
お願い、スニッチを見失って…!そんなスリザリン生たちの願いは打ち砕かれ、ヒッグスが追いつく前にチャーリー・ウィーズリーがスニッチをつかんだ拳を高く上げた。
「あぁ…残念だったわ……」
「仕方がない、正直相手が悪かったんだ。チャーリー・ウィーズリーはプロリーグからお声が掛かったそうだし、チェイサーもそれを覆すだけの点差をまだ作れてなかったんだから」
スリザリンはチェイサー陣が堅いので、試合を長引かせて点差を稼ぐ予定だったようだ。しかし、チャーリー・ウィーズリーが想定以上に早くスニッチを見つけてしまったので、作戦は狂ってしまったようだった。
沈痛な顔で戻ってきたチームメンバーを、シンシアたちは総出で出迎えて激励する。モンタギューとワリントンが、シンシアの前で号泣し出した時はどうしようかと思ったが、それだけ強い気持ちを持って戦ってくれていたのは嬉しかった。
「リーグ戦はまだ始まったばかりなんだから、残りの試合の活躍を祈ってるわ」
これ以上のプレッシャーをかけたくなくて、勝利は祈らないでおいた。そしたら二人とも涙でぐちゃぐちゃな顔で、絶対勝つ!なんて言うので、ちょっとおかしかった。
そんな白熱したクィディッチ戦が終わると、年内のイベントはクリスマスくらいだった。エリザベスの家にお邪魔する前に、レディ・レッスンの詰め込みが行われ、当然クリスマス休暇の宿題もちらほら出る。できるだけクリスマスはレディ・レッスンに集中したかったので、エリザベスと二人で終わらせられるものは終わらせた。フレデリカもローズマリーも事情を知っているので協力的で、普通の宿題は彼女たちのものを参考にしたり、使った本をシェアしてもらったり、上手にやりくりした。
「スリザリンでクリスマスに残るのは、ユーフェミアだけなのね…」
「きっと図書館にこもって勉強するのよ。他と差をつける良い機会だもの」
「ユーフェミアが7年生になったら、絶対首席ね」
そうやって二人で図書室に向かっていた時だ。クリスマス休暇の宿題を終わらせたくて、勉強の時間に充てるため早めに夕食を取った後のことだ。まだディナータイムなので、人通りは少なく、静かだった。
バーン、と大きな音が遠くで反響しているようだった。誰かが扉を乱暴に開閉したのか、と思ったが、この音にシンシアは聞き覚えがあった。割と最近のことだったような、と記憶を遡っていき、双子のウィーズリーの大事件にあった時、ユーフェミアが放った呪いの音に似ているのだ。
「ねえ、この音呪いの音に似てない?」
「ウィーズリーはまだ罰則中のはずよ」
「それにあの時呪いを放ったのはユーフェミアだったわ」
シンシアとエリザベスは顔を見合わせた後、音のした方へと進路を変えた。近付くと女子の言い争う声で、双子のウィーズリーの仕業でないことを確信する。図書館の近くの、あえて誰も開けないような小部屋から、音が漏れているようだった。
「私の視界に入らないでと何度言ったら聞いてくれるのかしら、ねぇ、ユーフェミア」
シンシアとエリザベスは雷に打たれたような衝撃が走った。音を立てないように中を覗き込むと、ユーフェミアが足縛りの呪いをかけられて倒れており、その前にサラサラしたブロンドのレイブンクロー生が、二人の子分を連れて仁王立ちしている。その二人の子分というのが、非常に見覚えがあった。ディアドラ・ハームズワースとロレッタ・セシルだ。因縁深い相手に、隣にいるエリザベスの纏う空気が10度くらい下がった。
ここにエリザベスを残しておくと乱闘になりかねないので、エヴァンジェリンとアデレードを呼んできて欲しいと頼んだ。二人なら仮に乱闘になっても強そうだし、監督生との繋がりもあるので三対一でユーフェミアをいじめているのも、咎めてくれそうだ。それに、ユーフェミアの名誉のために、いじめられている事情は内密に処理したほうがいいと思ったのだ。
エリザベスは今すぐ卑怯だ!と飛び込みたいのを、ユーフェミアの名誉のためにグッと堪えたようで、足音を立てないように、なおかつ可能な限り速足で大広間へ戻っていった。
「どうしてそんな簡単なことも出来ないのかしら。きっとそれを理解する頭もないのよ、お可哀想に。そう思いませんこと?エスメラルダ」
流石のシンシアもお世話になっていて、ついさっき首席になるだろうなんて話していた先輩をバカ呼ばわりされて、カチンとくる。前から気に食わないとは思っていたが、エリザベスが感情的になっていた分、シンシアは冷静でいられた。でも尊敬している先輩を貶されては、それも難しくなる。
とりあえず、ディアドラ・ハームズワースは敵とみなした。それから、名前の分からなかったストレートのブロンドヘアーは、エスメラルダと言うらしい。覚えた、絶対に忘れない。ローブの中に手を突っ込んで、杖を握る。
「仕方ありませんわ。だって、生まれから卑しいんですもの」
シンシアの喉の奥がひゅっと鳴った。どう言うことだ。ユーフェミアはヘイスティングズ家の令嬢だ。頭も良くて、貴族令嬢としてふさわしいマナーを身につけていることを、寮生活で間近に見ているシンシアは知っている。
「ニレの杖なんか持っちゃって。貴方はこの杖にふさわしくないわ」
エスメラルダが動けないユーフェミアの手を踏み付けて、彼女の手から杖がこぼれ落ちた。黒に近い茶の高級感のある飴色で、彼女らしいとてもシンプルで洗練された杖。それがカラカラ転がって、それをロレッタ・セシルが拾い上げた。ロレッタ・セシルは杖をエスメラルダに渡した。エスメラルダは杖を杖腕と逆の手で弄びながら、ユーフェミアをいたぶる。
そろそろシンシアの堪忍袋の尾がキレそうだ。今にも飛び込んでエスメラルダの胸ぐらを掴んでビンタして、呪いを放ってやりたい衝動に駆られる。でもそれをして、ユーフェミアは絶対に喜ばない。惨めな自分の姿を見られたことを恥じ、シンシアを避けてしまうと思った。
助けたい、でも助けられない。そんな葛藤を抱いていてエスメラルダの背中を睨みつけているのを、彼女は露ほども知らない。杖を握る手がブルブル震えたところで、エスメラルダが衝撃的なことを言い放った。
「穢れた血を継いだ、妾腹の生まれのくせに」
頭が真っ白になった。穢れた血という蔑称は知っていた。でもそれを身内に使われたのは初めてだったのだ。頭が沸騰するような、でも冷水を浴びせられたような、そんな衝撃だった。
「本当はヘイスティングズ家を名乗ることも許されないのに、お父様の恩赦のおかげで名乗ることを許されただけよ?貴方が純血ではないのだから、真の意味でヘイスティングズを名乗れないのは、分かっているわよね?」
「エスメラルダのお父様は、本当に寛大ですのね」
「だって、利用価値があるじゃない。ヘイスティングズは私、そして私の産む子が継いでいく。ユーフェミアにはせいぜい、実のある結婚をして幸せになって頂かないと、ねぇ?」
ニレは杖の迷信で、純血にふさわしいとされている。純血の貴族たちは、好んでニレの杖を使おうとするそうだ。純血ではないユーフェミアを、ニレの杖の持ち主としてふさわしくないと言っているのだ。
それに、実のある幸せな結婚をしてほしいだなんて、文脈がおかしい。今まで散々貶してたのに、急に幸せを願うなんてありえない。シンシアの穿った見方が間違っていなければ、家にとって利のあるどんな相手にでも嫁がせて、ヘイスティングズ家に尽くせということだと思う。
「こんなもの、貴方には必要ないでしょう?」
エスメラルダは窓からユーフェミアの杖を投げ捨てた。なんてことを。いよいよ我慢の限界でシンシアは扉に手をかけた。その時、廊下の向こうからバタバタと大きな足音が聞こえてきた。反響していて分かりずらいが、かなり大人数だろう。
シンシアは杖を振り上げてエスメラルダの背中を狙っていたバツの悪さもあり、廊下の反対側にある石像の後ろに隠れた。足音はエスメラルダたちにも聞こえたようで、ロレッタ・セシルが撤退を提案する。エスメラルダもそれを飲んだようで、彼女たちは足音とは真逆へ逃げていった。
「しぃー」
来たのはエヴァンジェリンとアデレード、そして二人を呼びに行ったエリザベスの三人だけだった。エヴァンジェリンはシンシアとエリザベスに静かにしているように言いつけて、石像の後ろで待機しているように指示する。
「遅くなってごめんなさいね。大丈夫?」
「足縛りの呪いがかけられてるわ」
「フィニート。他に怪我はない?」
「失礼します」
声から察するに、エヴァンジェリンはこういうことに慣れているようだった。アデレードも冷静にユーフェミアにかけられた呪いを分析している。けれどユーフェミアは、二人を拒絶するように言って、一人で出ていってしまった。多分、杖を探しに行くんだと思う。
エヴァンジェリンとアデレードが小部屋から出てきた。シンシアが口を開く前に、場所を変えましょうか、と言った。シンシアとエリザベスはそれに素直に従って、二人の後をついていった。
やはりというべきか、スリザリン寮のお茶会室だった。以前4人で使ったことのある一番右の部屋だ。アデレードが二人に座るように言って、エヴァンジェリンがお茶を魔法で入れてくれた。お茶が蒸らし終わるまで待てず、シンシアが口を開いた。
「ユーフェミアの杖を、あのエスメラルダって人が窓から投げ捨てたんです。私も探すのを手伝うので、手短にお願いします」
エリザベスが絶句して、激しく憤っているのを感じる。シンシアだって同じ気持ちだった。そんな血の気の多い二人を見て、エヴァンジェリンは困ったように頬に手を当てて首を傾げた。
「ユーフェミアにエスメラルダ・ヘイスティングズがちょっかいを出すのは、今回が初めてじゃないのよ」
エスメラルダ・ヘイスティングズ。話の流れから察してはいたが、やはり二人は同じ家門、しかも父親が同じなのだ。
「入学してからずっと…。というより、あれは入学する前からでしょうね」
アデレードは重いため息をつきながらこぼした。
「私たちが勝手にユーフェミアの身の上を話すのは気が引けるのだけど、貴方たちはユーフェミアを慕っているし、シンシアは知ってしまったようですから。他から聞いて、間違ったことを信じないために、お話ししようと思います。内容が内容なので、他言無用でお願いします」
「ユーフェミアの名誉にかけて、他言しないと誓います」
「…誓います」
エリザベスは迷いなく誓った。だけど、これから話す内容の察しがついているシンシアは、ユーフェミアの名誉に誓うのを、少し躊躇した。
それでもエヴァンジェリンは一つ頷いて、静かに桃色の可愛らしい唇を開いた。
「ユーフェミアはマグル生まれの魔女と現ヘイスティングズ当主の間に生まれた子で、エスメラルダはその当主とご正妻の子。二人は腹違いの姉妹なのです」
時は例のあの人による大恐慌まで遡る。ユーフェミアの両親は、ホグワーツで運命的な出会いを果たす。時勢もあり、二人の悲劇的な境遇はかえって愛を深めた。しかし、純血の家門としてマグル生まれの魔女との結婚は許されず、二人の仲は引き裂かれ、次期当主と目されていた男は政略結婚で純血の女性を娶った。
しかしそれすら愛の試練だと、二人の愛を強くしてしまった。次期当主は自身の父親を追い落として早くに当主を継ぐと、最愛の女性を別館に囲った。そうしてできた愛の結晶が、ユーフェミアだった。
彼女の不幸の始まりは、同時期に正妻も妊娠したことだ。当然妻として娶ったからには、夫婦の義務がある。奇しくも正妻の子が数ヶ月早く生まれ、正妻は夫の関心を勝ち取った。純血主義の家で育った男は、跡取りは当然正妻との間の子と考えていた。正妻が女児だが無事に産んだので、男はそれはそれは正妻との子、エスメラルダを愛でたという。ユーフェミアが生まれても、男の関心は戻ってこなかった。男は後に、あれは若い火遊びだった。家門を捨てる訳がない、と言い放った。
更なる不幸がユーフェミアを襲う。正妻が例のあの人にマグル生まれであるユーフェミアの母のことを密告したのだ。当然死喰い人たちがヘイスティングズ家を襲った。男は当主として、ユーフェミアの母を切り捨てた。ユーフェミアは政略結婚の駒とするから、と助命を嘆願して、赦しを得ていた。
そして、ユーフェミアは別館に軟禁されて、義母と義妹の嫌がらせを受けながら育ったのだ。義母のせいでユーフェミアが半純血であることは周知の事実となり、まともな純血の家門との良縁は期待できない。でもそういう不幸な生い立ちと、母親譲りの美貌は、一部の好事家に受けが良い。正妻が張り切って、資産家の後妻などの縁を結ぼうとしているのだという。
「ユーフェミアはずっと孤独に戦ってきました。これはユーフェミアとご家族の決闘のようなものなのです。貴方たちに助けられたら、決闘は破綻してしまうでしょうし、その時彼女はどう思うか、考えてから行動して欲しかったのです」
ユーフェミアの過去は、シンシアが想像していたよりずっと複雑で、過酷だった。そりゃあ、そんな家に帰りたくないだろう。
「ユーフェミアは、私たちに助けられることを、望んでいません」
「私は今すぐユーフェミアを抱きしめて、一緒に杖を探してあげたいです。でも、それでユーフェミアが傷つくなら、私は見て見ぬふりをするしかありません…」
「ある意味貴方たちは勇気ある、何よりも優しい選択をしたのよ。悔やむことはないわ、誇っていいのよ」
アデレードに励まされても、今はちっとも響かなかった。
「少し気持ちを整理する時間が必要ね。私たちはもう行くけれど、二人は残って。今日は消灯時間で急かしたりしないわ。ゆっくり考えて、いつも通りユーフェミアに挨拶できるようになったら、出てきていいわ」
アデレードはそう言って、シンシアとエリザベスの手にお菓子を一つ握らせて、エヴァンジェリンと共に去って行った。
「今の話、本当なの…?」
「エスメラルダの話しを聞いた限り、本当。ユーフェミアの杖を捨てたのだって、ニレの杖が相応しくないからだって」
「そんなの迷信でしょう!?」
「そんなの私もわかってるよ!!」
シンシアは自分の見聞きしたことをエリザベスに話す。そうしたら、エリザベスがテーブルをバンと叩いて激昂した。ティーセットががちゃんと耳障りな音を立てた。そんなの、そんなのシンシアだって分かってる。シンシアに怒鳴られたって、どうすることもできないのだ。
怒鳴り返すと、エリザベスは少しの沈黙の後に謝った。
「ごめんなさい、シンシアに怒ってるんじゃないの。ただ、腹が立って、抑えられなかったの」
「分かってるわ、エリザベス。私も同じ気持ちだもの」
しばらく沈黙して、今度はシンシアが口を開いた。
「エリザベスたちが足音をさせた時、私エスメラルダに呪いをかけようとしてたの。もう、我慢の限界で。ユーフェミアはきっと嫌がるだろうなって堪えてたんだけど、本当にもう無理だったの。呪いをかけておけば良かったって後悔と、それがユーフェミアにとって最善だったって、もうぐちゃぐちゃで」
「私にエヴァンジェリンを呼びに行かせたのは英断だったと思うわ。私だったらもっと早くにエスメラルダを呪っていたもの。そして、ユーフェミアを酷く傷つけることになっていたわ」
その日、二人は日付を跨ぐ頃までお茶会室から出られなかった。