クリスマス休暇の始まり

 ホグワーツ城には雪がしんしんと降り積もり、冬化粧をしている。先日届いたおばあ様からの手紙とエリザベスからの申し出について家に手紙を書くと、失礼のないようにしっかりと学ぶように、と厳しい言葉が並んでいた。
 また、そろそろクリスマスシーズンだからと、友達へのプレゼントを選んだ方が良いとあった。スリザリンで貴族が多いことを配慮してか、元貴族令嬢であった母がある程度の選別をしてくれたそうで、カタログが同封されていた。
 お世話になっていると言えば、ルームメイトの四人と一学年上のユーフェミアだ。それから、レギュラス・ベネット。ちなみに同級生の男の子たちには、女子全員の連盟でプレゼントを見繕ってある。
 結局エリザベスにレギュラスへのお礼について相談していたのに、あの手紙のせいで全てが振り出しに戻っていた。クリスマスという特別な日であるし、グリフィンドール相手にプレゼントを贈っても問題ないだろう。

 シンシアはしっかりと天幕を閉じたベッドの中で、杖先に灯りを灯してカタログを眺める。エリザベスが生活に必要な魔法を中心に、授業を先取りして練習しているので、シンシアも覚えたのだ。とても便利である。
 エリザベスは最も家格が高いし、このクリスマスはとてもお世話になるので相応の物を贈らなくてはならない。エリザベスは綺麗なヴァイオレットの瞳をしているから、それに因んだものがいいと考えている。
 フレデリカも、ローズマリーも、ユーフェミアもそれぞれが喜んでもらえるような物と言えば、と頭を悩ました。


 あっという間にクリスマス休暇になった。クリスマスプレゼントの発注はなんとか間に合っている。トランクに数日分の衣類や荷物をまとめて、玄関へ降りる。
 クリスマス休暇はホグワーツに残ることもできるそうだが、本来クリスマスとは家族で過ごす日である。スリザリンにはもちろんのこと、他寮でもホグワーツに残る生徒はごくわずかであり、玄関は帰省する生徒たちでごった返していた。
 ホグワーツ特急に乗り込んで、ルームメイト四人でコンパートメントに入る。しばらくすると、同級生のベルトラムとオルトヴィーンが申し訳なさげにドアをノックしてきた。

「すまない、僕たちも相席して良いだろうか」
「ハルトムートが女子たちを呼んで、俺たちは居辛くて出てきたんだ」

 ちらり、と全員がエリザベスを見る。こう言った決め事はより上位の人に判断が委ねられるのだ。

「もちろんよ」

 エリザベスが許可を出し、女子たちも、そしてベルトラムとオルトヴィーンもほっとしたように緊張で上がっていた肩を下ろした。
 ベルトラムはシンシアと似た出自で、魔法族であるが貴族の生まれではない。彼の砕けた雰囲気がシンシアは好ましかったし、なんとなく貴族社会に染まる寮内での苦労に共感できた。
 対するオルトヴィーンはあまり交流がない。ローゼマリーと同格であると聞いたことがあるので、あまり有力ではない家柄のようだ。寡黙だが、勉強熱心なようで良く図書館に通っているらしい。
 珍しいメンバーだが、幸いなことに話題は尽きなかった。ホグワーツ特急がキングズクロス駅に着くのはあっという間に感じられた。

「シンシア、こちらわたくしの両親です。お父様、お母様、こちらわたくしが仲良くさせていただいてるMs.シンシア・カーライルですわ」
「はじめまして。わたくしシンシア・カーライルと申します。この度はわたくしの願いを快く聞き入れてくださり、ありがとうございます」

 エリザベスに習った作法と口上で、エリザベスのご両親に挨拶をする。カーテシーには最新の注意を払った。
 エリザベスは母親似で黒髪やヴァイオレットの瞳を引き継いでいる。父親は少し厳しそうな印象だが、瞳に宿している色は柔らかい。

「ご丁寧にありがとう。私はヘンリック・ハワード。こちらは妻のヴァイオレット」
「シンシア、良くできていますよ。エリザベスもこの短期間で頑張りましたね」

 シンシアとエリザベスはちろりと視線を合わせて、ほんの少し目で微笑んだ。
 ヘンリックとヴァイオレットに連れられ、ヴァイオレットの屋敷へ姿現しする。ハワード家は純血旧家の上級貴族にふさわしい邸宅を構えていた。
 エリザベスが荷物を置きに行ったので、シンシアはヴァイオレットに客間へ案内してもらう。案内された部屋は、白を基調としたアンティークの家具で揃えられ、全体的に淡い色でまとめられている。屋敷内は高級で重厚雰囲気であったが、この部屋はとても明るくて開放的なので、シンシアはとても気に入った。

「素敵なお部屋を整えてくださり、ありがとうございます。わたくし、このような雰囲気が好きなのです」

 ヴァイオレットはふふと微笑んで、目元を和ませる。瞳には懐かしくも、どこか寂しげな色が浮かんでいる。何か失礼をしただろうかと、シンシアは不安になる。
 そっとヴァイオレットの白魚のような手がシンシアの頬を撫でた。

「急にごめんなさいね。わたくしは貴方の御母上であるMrs.レイチェルとはあまり交流がありませんでしたが、Mrs.レイチェルのお姉様とは同じスリザリンで共に生活したのですよ」
「そうなのですね…。わたくし、お母様とはあまりお話しする機会がなくて、おば様については存じ上げませんでした」
「そう……。わたくしと彼女は、貴方とエリザベスのような関係でしたのよ。この邸宅にもお招きしたことがあって、その時もこの部屋をとても気に入ってくださいました。」

 ヴァイオレットはそこで話を区切ると、荷物を片付けるように言って部屋を後にした。クリスマス休暇はそんなに長くないので大した荷物ではないが、片付けが長引けばディナータイムに差し掛かってしまうだろう。少し急ぎ目に荷物を片付けた。
 片付け終えて一息ついていると、エリザベスがやってきた。迎え入れると、エリザベスは上品なベルベットのワンピースを着ていた。

「ディナーの服を選びましょう」
「エリザベス、とても助かりました。わたくしには、何を着たらいいのかさっぱりなんですもの」
「二人きりの時は少し気を楽にしましょう。でなければせっかくの休暇をゆっくり過ごせないわ。そうね、私のことはベティーと呼んで」
「ありがとう、ベティー」

 エリザベスと二人、持ってきたよそ行きの服の中から今日の晩餐にふさわしい物を、あれでもないこれでもないと次々に合わせていく。最後は黒のフォーマルなワンピースに落ち着いたが、少し地味な気がする。エリザベスもそう思ったのか、アクセサリーを貸すからと部屋に呼ばれた。
 エリザベスの部屋は黒と濃い飴色の家具を中心に、差し色に紫を取り入れていた。豪華なクローゼットからアクセサリーケースを持ってきて、再びあれでもない、これでもないと耳や首元にアクセサリーを当てられる。煌びやかな光にシンシアは一体どれだけするのかと気が遠くなる思いだった。11歳の少女に宝石は不釣り合いに思えた。
 エリザベスは耳に真珠のシンプルなイヤリングをつけ、それが目立つように髪を複雑に編み込んだハーフアップにしていく。
 シンシアの首元には大ぶりなネックレスが付けられた。アンティークのもので、宝石等は使われていないが、大小様々な白薔薇が咲き誇っている。大きな宝石がゴテッとついたものでなくて良かったと胸を撫で下ろしたのは秘密だ。

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