「そんなロマンスがあったのに眠ってたなんて!」
ホグズミード駅に着いて、馬のいない馬車に乗り込んだ時、ローズマリーに嘆かれた。ローズマリーには、今夜一緒にプラネタリウムを見ようと言って宥めた。宥めきれなかったが。
ホグワーツに着くと、荷物は勝手に部屋に届けられるので、そのまま大広間でディナーをとる。四人で固まって席に着くが、ユーフェミアが居ないのでキョロキョロして探すが、やっぱり姿がなかった。
「ねえ、ユーフェミアは?課題の参考になる本を貸してくれたし、プレゼントのお礼も言いたいんだけど」
「そうね、確かに居ないわ」
エリザベスとキョロキョロしていると、イヴァンジェリンとアナスタージアが席を立つのが見えた。二人はシンシアたちの二学年上で、ホグズミード休暇にはシンシアたちにお菓子を買ってきてくれる優しい先輩だ。彼女たちの手には軽食が乗っており、なんとなくシンシアとエリザベスにはユーフェミアに関連しているんじゃないかと思えた。
「それってユーフェミアの?」
「ええ、そうよ。毎年この時期は“そう”なの」
「“そう”?」
シンシアの問いに、アナスタージアが答える。含みを持たせた言い方に、シンシアもエリザベスも気になる。アナスタージアはしまったと顔を強張らせてた。
シンシアとエリザベスが「どういうことか」と視線を送り続けると、イヴァンジェリンが困ったこと、と頬に手を当てて苦笑する。
「二人はユーフェミアと仲が良かったし、食事を届けてあげてくれる?」
「イヴァンジェリン、」
「仲が良ければ、いつか知ることだと思うの」
アナスタージアがイヴァンジェリンを咎めるように制止するが、イヴァンジェリンは静かに首を振って否定する。アナスタージアは諦めたように、持っていた食事をシンシアに渡してくれた。みんなが寮に戻る前に行ってあげて、とお願いされたので、すぐに向かうことにする。
ユーフェミアの部屋の扉をノックすると、すぐに返事があった。
「イヴァンジェリン?いつもみたいにデスクに置いておいて欲しいの」
天幕の完全におりたベッドが一つあって、その側のデスクに言われた通り食事を置く。ユーフェミアのデスクは片付いているけれど、勉強の痕跡がたくさん残っていて、熱心なユーフェミアらしかった。
「ユーフェミア」
「…シンシア?ということは一緒にいるのはエリザベスね」
シンシアがそっと呼びかけると、ユーフェミアは少し間があって、来たのがイヴァンジェリンとアナスタージアではなく、シンシアとエリザベスであることを理解した。シンシアたちを呼んだユーフェミアの声は、失望したような色を含んでいて心配になる。
どうしたのか、と尋ねるエリザベスにそっけない返事があって、部屋を出た方がいい空気になる。けれど、こんな状況でユーフェミアを一人にしていいのか分からず、そのままで沈黙が落ちた。
「……はぁ、二人ったら意地悪だわ。あ、シンシアとエリザベスのことじゃないの。イヴァンジェリンとアナスタージアのことよ」
「ねえ、ユーフェミア。何かあったの?」
シンシアがもう一度尋ねると、少しの沈黙の後、ため息をついてゴソゴソとシーツを滑る音がした。
「仕方のない子たちね。でもまあ、いずれ知れることよね」
そういうユーフェミアの頬は赤く腫れ上がり、目元は赤く腫れていた。シンシアは息を呑んで絶句する。
「誰にやられたんですか」
「頬は異母姉妹よ」
エリザベスが静かに問うた。疑問詞もなく、務めて平坦に話したことで、エリザベスの抑え込んだ怒りが透けている。ユーフェミアは肩をすくめて答えた。頬は、ということは他にも傷があるのだろうか。シンシアが心配していると、ユーフェミアが静かに語りだす。
「私はね、愛妾の娘なの」
ヘイスティングズ家は、ハワード家ほどではないが、名家だ。ユーフェミアの父、ヘイスティング家当主は政略で結婚した。当時は例のあの人の全盛期でもあり、結婚相手は家門や思想まで吟味しなければ、一族もろとも破滅を迎えた時代だ。
そうして恐怖は拭いきれないが、目をつけられないように息を潜めて暮らしていたそうだ。そんな生活を続けて、緊張の糸が段々緩んできた。それに、