感じたぬくもり



「寒い」

秋も深まり、山が赤や黄と色とりどりの化粧をほどこす11月。寒い。
頬に当たる風は冷たく突き刺さる。風から逃れるようマフラーに顔をうずめて歩くため、視線も自然と下がり、せっかくの紅葉も視界に入らない。
ポケセンに預けていたポケモン達を受け取った帰り、まだ17時だというのに辺りは暗く、寒さをより際立たせる。
こんな寒い日は家でコタツに入りアイスを食べるのがいい。コタツに入りながら食べるアイスは、炎天下のもと食べるアイスとはまた違った良さがある。乙だよね。
帰宅してからのぬくぬくタイムを想像するも、現実は容赦ない風が吹きつける。家まで体力もたないよ。無事帰宅するために少しでも暖をとろうと、近くの自販機に向かい、温かい飲み物を見る。

「あ、おしるこ!」

この時期になると、突然姿を現すあったかーいの列に並ぶおしるこ。この時期にしかここに並ばない、特別な存在であるおしるこは毎年必ず買うと決めている。使命だ。
迷うことなくおしるこのボタンを押す。ゴトンと落ちてきた缶を手にとると、冷え切っていた手を、じわあと温める。救世主だよおしるこ。
両手でしっかりと缶を握り、再び帰路に立つ。
すると後ろから聞き慣れた声が聞こえた。

「あら、サクラじゃない」
「トウコちゃん」

声のほうへ振り返ると、予想通り。自転車にまたがり手を振る幼馴染みのトウコちゃん。ホットパンツから伸びる長い足は、タイツをはいているとはいえ寒そうである。それ何デニール?40とかじゃない?私は80以上じゃないと無理寒い。こんなに足を出してる上に自転車に乗るなんて、トウコちゃんは元気だな。

「珍しいわね、サクラが外に出てるなんて」
「人を引きこもりみたいに言わないでよ」
「だってサクラ、寒くなったら全く外に出てこないじゃない」
「いや、日中に買い物や適度なバトルくらいは出てるよ」

確かに、毎年寒くなってくると家にこもりがちではある。コタツに入り、ポケモンたちとまったりする生活を送るのだ。寒い中わざわざ外で活動するより、家の中で過ごすほうが心にも体にもいいと思うんだ。すまんな、こんなトレーナーで。
しかしずっとこもってるのも体に良くないしポケモンたちにも申し訳ないので、流石に2、3日に一度は出るよう意識している。毎日は無理寒い。

「たまーにじゃない。まあいいわ、それより今帰りでしょ?後ろ乗らない?」
「自転車は風きって寒いからいいや。歩くよ」

元気なトウコちゃんだから、この寒い中でも自転車に乗れるのであって、ぬくぬくライフをモットーとする私にはそんな修行無理だよ。歩いてるだけで寒さに挫けそうなのに、自転車に乗ったら凍え死ぬ。滝行と同じくらい無理。この時期波乗りもしたくないもの。

「ま、いいから乗って」
「え、やだよ寒いもん」
「いいからいいから」

何がいいのだろうか。私には何一ついいと思われることはなかったが。トウコちゃんの頭の中でどんな会議があってそのような結果になったのか知りたい。昔から彼女は強引というか豪快というか、周りを巻き込む力を持っている。ハリケーンである。私は幼馴染という近さからいつもしっかりハリケーンに巻き込まれる。まあ別に嫌じゃないけど。トウコちゃんならまあいっか、と思える。多分慣れもあるな。

「今日はこれからサクラの家行こうと思ってアイス買ったのよ」
「さすがトウコちゃん。わかってる〜。こたつで食べるアイスは乙だよね」
「そうね。でもその肝心のアイスが、ちんたら歩いてたら溶けちゃうでしょ。だからさっさと後ろに乗って」

こんなに寒いのだから、アイスのほうも溶けるの待ってくれるよ。むしろまだ冷凍庫から出たこと気づいてないんじゃない?それにゆっくり歩いても家までにアイスが食べられなくなるほど溶けることはないだろう。むしろハーゲンダッツとかなら食べ頃になるくらいの距離よ。あともう一踏ん張りってくらいの距離だから。

「あ、名案、勝手知ったる仲だからさ、先に行って家上がっててよ」
「そんなに嫌なの?わたしと自転車に乗るの」
「いや、一緒に乗るのが嫌なんじゃなくて寒いのが無理」
「それなら大丈夫よ。だって二人で引っ付いてた方があったかいでしょ」
「いや、だから風が、」
「もう!わたしがサクラと引っ付いて乗りたいの!」

皆さん聴きました?これがヒロイン力。こんなかわいいこと言われて断るやつ、いねぇよなあ!!
彼女のこういうところがトウコちゃんだからいいか、とか、仕方ないなあと思わせるところである。
幼馴染は的確に私の好みを把握している。ばっちり攻略されてるのよ。高感度マックスなのよ。ドキドキで壊れそう1000%ラブ。

「女の子にここまで言わせたんだから、断ったら許さないわよ」
「攻略度の高さに免じて自転車乗るよ」
「そうこなきゃ。さ、乗って」

彼女は自分が乗っているすぐ後ろをポンポンとたたき、私を誘導する。促されるまま自転車の後ろに乗ると、金属の冷たさが伝わってきた。はやく温もれ。気張れ私の熱!!
少しでも体温をあげるため、トウコちゃんにしっかりと抱き付く。ついでに風よけにさせてもらう。すまんな、ヒロインを風よけにして。

「それじゃ行くわよ」
「出発進行ー」

トウコちゃんは軽快に自転車をこぎ始める。ぐんぐんと早くなるスピードに応じて、やはり肌に当たる風は冷たい。それでもトウコちゃんに抱き付いてるから、いくらか温かくはある。彼女の背中から伝わる熱に感謝。

「サクラがひっついててくれるから温かいわ。人間カイロね」
「お互いね。トウコちゃんの温もりに今私は助けられている」
「それならよかった。寒くなると全然サクラ出てこなくなるから、こうやって久し振りに二人乗りできて嬉しいわ」
「ほんとうまいよね、トウコちゃんは……」

いちいち私のツボを押さえてくるんだよな、この子は。乙ゲーならもうこれエンディング迎えてるから。ハッピーエンドでラブラブチュッチュな未来待ってるやつだから。
こういう心の幸せがあるなら、まあたまには寒さに負けず外に繰り出してみてもいいかもしれない。トウコちゃんといる時に限りね。


2013.02.26
(※自転車の二人乗りは違反です)



 

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