理想のヒロイン1



ここら一帯が甘く、そして香ばしい匂いで満ち満ちている。美味しい匂いに刺激され、お腹はまだかまだかと急かすようにきゅるると鳴く。
お祭りなんていつぶりだろう。何年か前に家族で行ったきりかもしれない。
それにここしばらくは宝探しと称して、チャンピオンになるべくバトルに奮闘したり、スター団解散させたり、ペパーのお手伝いをしたりと忙しなくしていたので、こうやってゆっくりイベントを楽しむの自体がなんだか久しぶりだ。私働きすぎでは。
それにチャンピオンになってからはバトルに誘われることがこれまでより増えたし、一区切りついてからすぐ林間学校が始まったし、たまのピクニックくらいしか息抜きがなかったかもしれないな。私が可愛くて強いばかりにバトルのお誘いが絶えなかったもんな。サインもしっかり考えたわ。自分のことはまず自分が愛してあげる主義なの私。サイン使う機会なかったけどな。みんな私のサイン欲しがれよ。

兎にも角にも久しぶりの息抜き、一大イベントにワクワクは止まらない。
なんといっても私のパートナー、スグリと一緒に周るお祭りだからね。これはもう実質デートであり結婚していると言っても過言ではない。どう考えても過言だよ。付き合ってすらない。けど手は握りました。スグリがオリエンテーションで私の後ろをひっそりとついてこようとしたので、横を歩くよう手を繋いでお導きした。背後を取られるの苦手なんだよ。よぎる赤の目。思わずでんぐり返しで回避しちゃうところだったね。なんの記憶って、うっ、頭が……。とにかく私はスグリと手を繋いでデートもといオリエンテーリングを楽しんだ。まって、デートしかしてない。キタカミ最高か。

最高のキタカミだからお祭りも最高の思い出になるだろうよ。その思い出に残る屋台は何にしようか。全部周るか?金ならある、たんまりとな。羽振りがいいだろう、そうです私がチャンピオンです。多分こんなんだからサイン求められない。

「あ、見てりんご飴!屋台さ行こ!」

私が何から食べようかと考えているうちにかわいいかわいいスグリはりんご飴の屋台に駆け出していった。こんなに屋台ある中で1番にりんご飴を選ぶスグリの可愛さよ。あんたがヒロインだよ。私最初は主食からと焼きそば行こうとしてたわ。黙っててよかった。りんご飴行きたいスグリに焼きそば行こうぜなんて言えなかったよ。危ない。
私も最初からりんご飴食べる気でしたけど?という顔でスグリを追いかける。いやまじお祭りといえばりんご飴だよね。ほんと、焼きそばより焼きとうもろこしより唐揚げよりりんご飴だよね。欲が全面に出てしまっている。

「サクラ、りんご飴いっこあげる」
「えっ!」

なんてことなの、りんご飴を私の分まで買って用意してくれていた……?やっぱり私たち付き合ってたのでは。ゼイユちゃんもスグリが私に夢中って言ってたしな。これは黒ですわ。

「いいの?ありがとう!」
「ばーちゃんからこづかいさもらってっから、気にしないで」

ばーちゃんからの小遣いを、私のために……??こういうところが愛されヒロインなんよスグリ。金ならたんまりあるとか思ってた私、爪の先ほどでも見習いな。けど金があるのは事実だけどな。見習う気がない。
こういうのはスグリが言うからかわいいんだよ、私はいいんだよ。

「りんご飴久々だよ、ありがとうねスグリ。大好き」
「えっ!」
「えっ?」
「す、え?す、まっ、ほ、ほんま……?」
「え、ちょ、ひぃ〜」

かわいい〜!ダメだよかわいすぎるよスグリ。てっきり大好きには「なっ、あんまそう言うこと誰にでも言うのよくねぇで」って照れながら言われるもんだとばかり思ってたので、素直に受け止めてくれて驚き半分嬉しさ半分である。あなたはその穢れなき心のままでいて、一生そのままで。私がスグリに近づく全ての穢れを祓ってやるからな。

「もう可愛すぎるんよスグリ、大好きだよスグリ!」
「……にへへ、ほんまじゃな?わや嬉しい」

キタカミ最高だな。ここが私の宝の地だったわ。ここにきてやっと青春取り戻してる。パルデアでは戦うことが全て、勝つことこそ正義みたいな生活だったからな。あれ、私実はブルーベリー学園に通ってた?

「これでおれら、カップルだべな」
「そうだね、けど言葉にすると照れちゃうな」

脳内ではもう結婚までしてたけどな。照れちゃうとかどの口が。
けれども、その妄想もめでたく公認となった。今夜は赤飯炊かなきゃ。スグリのばーちゃんに頼まなきゃな。図々しさパルデア1かもしれない。

「サクラと付き合えるなんて夢みてぇじゃ。うっかり覚めんようにせんとな。明日起きた時、今日のことが夢かどうかわからんくなりそうだべ、今日一緒に寝よう?」
「うんうん、うん?寝、ねー!?」

またキタカミのヒロインはかわいいこと言うなあとにんまりしながら頷いていたら、とんでもない破壊光線を受けたんだけど、まさか夢?
まって、こういうことをヒロインが言う時には大体深い意味はなく本当に寝るだけの天然発言なのよ。寝るってあんた、とか言ったら「いい夢見れそうだから」とか言ってすやすや眠るのよヒロインは。スグリは穢れなきヒロインなのでそれしかない。
危ない、私のせいでスグリを黒くしてしまうところだった。私が清くあらねば。

「ごめんね取り乱して、スグリさえよければ!ぜひ!」
「んだば決まりじゃ!彼女とお泊まりさ、ドキドキするな」
「私も初めてだから緊張しちゃう。寝言とか言ったらごめんね?」
「ん?大丈夫だべ、今夜は寝かさね」
「ん、んっ?!」

相変わらずにへへと笑うスグリの口から紡がれた言葉に、ヒロインはやっぱり私のほうだったのかと考え直すことになりそうだ。
あれ、かわいいスグリは?


(ねえ、それってどういう……あれ、スグリってもっとなんか照れ屋じゃ、え?)
(もうサクラはおれのもんだべな。誰にも渡さね)
(突然タイプワイルドになられたら心臓追いつかんよ)
(突然でもねぇけどな)
(え?)
(よし、屋台さまわろ!)
(孔明の罠??)


2023.10.20



 

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