ここまで山あり谷ありの過酷な日々だった。気づいたら記憶なくして見知らぬ土地にいるし、アルセウスフォンでいろいろ命令されるし、散々貢献してきたはずなのに急に余所者だからと団を追い出されるし。
シマボシ隊長をはじめとする周りがたくさんフォローしてくれたからなんとかやってこれたけど。デンボク、お前だけは謝っても絶対に許さん。他の団の長は私を助けてくれたのに、自分の所属していた長には捨てられるなんてな。デンボク、絶対に許さんからな。一生根に持ってやるし、なんならいつかかなり痛い目見せてやる。結婚式の時にあいつだけ呼ばないとかそういう姑息なことしてやる。
デンボクへの恨みを募らせる一方で、イケメンのセキさんにクラクラしながら集めたプレート。それを見たあいつが豹変!!
初めから胡散臭いやつだとは思ってたんだよ。ずっとニコニコしてたし、わりとどこでも出会うし、背面どりとかもう私のこと狙いすぎだろってね。寝首かかれるんじゃないかとヒヤヒヤする生活だよこっちは。
そうしたら案の定豹変した、あいつもといウォロさん。突然アルセウスリスペクトヘアーを見せつけられた私の気持ちにもなってみてよ。戸惑いを隠せないよ。よく帽子の下に隠せてたな。それ毎日セットしてるの?
アルセウスに会いたくて会いたくて震えるウォロさんを戸惑いながら6タテし、回復する間も与えてくれない卑怯なウォロ率いるギラティナを瞬殺し、ようやく平和が訪れたんだ。
長年の想いを6タテであっという間に終わらせたのは少し反省している。けど仕方ないんだよ、まさかウォロさんがそんな並々ならぬ想いを抱いているとは微塵も思ってなかったし、ポケモンバトル大好きな私はレベルゴリゴリあげてたし。恨むなら私を召喚したアルセウスを恨んでくれ。ダメか、リスペクトしてるから恨みの矛先は私か。女は浮気されたら男じゃなく浮気相手の女に怒りの矛先を向けるというが、それと一緒か。女々しいぞウォロ。
そのあとウォロさんは姿を眩まし、私の手にはよくわからん笛が残り、それ以外は日常へと戻っていった。壮絶すぎないか。アルセウスの気まぐれに付き合わされるこっちの身にもなれよ。ディアルガパルキアも迷惑してるよ勘弁してくれよ。
セキさんと一緒にプレート探しにいけたのはいい思い出だったけどな。セキさん結婚してくれ。セキさんが結婚してくれるなら私自分の元いた世界に戻らなくていいや。
そう、平和な日常が戻ってきた今、私が目指すのは自分の世界に戻ることなのだが、正直もといた世界の記憶が本当に朧げであること、なんだかんだこのヒスイ地方が人を含め好きになってきたこと、そして何より全てのポケモンに出会うのが面倒であることから、このまま戻れなくてもいいかなと思っている。別に私はアルセウスに会いたいわけでもないし、先ほど挙げたようにセキさんが結婚してくれるならもうそれでハッピーエンドなので全てのポケモン探しをする気力はない。アルセウスの言いなりになるのも癪だしな。
その日その日の困った人たちを助け、いももちを食べて、セキさんのご尊顔を拝見する日々を送っていたある日、奴は懐かしき背面どりで私の平穏を脅かしに来た。
「なぜアナタはのうのうと日々を消費してるんだ!」
「うわ!なに?!びっくりした!誰かと思ったら勝手に姿をくらました女々しくて女々しくて辛いウォロさん。やめてよ、急に背後からまくし立てるの」
「アナタが!アルセウスの言うことを聞かないからでしょう」
「なに、アルセウスの言うことって。なんかあったっけ」
ここ最近アルセウスに絡まれることはなかったと思うんだけど。またアルセウスなんかやらかしたの?私はもう面倒みないよ。セキさんにアプローチするので忙しいの。
そう思いながらウォロに勘弁してくれよ、という視線を送ると、何言ってんだこいつみたいな顔で睨まれた。何?やるの?また6タテよ?嫌な女である。
「アナタ、すべてのポケモンと出逢わなければならないのでしょう」
「……あっ」
「忘れてたんですか?!」
「いや、忘れてたというか、その、正直面倒だったというか」
「面倒?!」
今にも襲いかかってきそうなウォロさんにやっちまったなと軽く後悔する。自分に正直なところは私の長所だが、相手にも心のうちを素直に伝えてしまうのは考えものだな。
だが面倒なものは面倒なのである。ウォロさんはアルセウスのことが好きだからいいかもしれないよ。私は好き勝手されて嫌になってるのよ、アルセウスのこと。アイツ自分勝手すぎない?メンヘラ?
「アナタは自分のいた世界に戻りたいとは思わないのですか」
「あー、うーん、それね。セキさんと結婚できるならもう私はこっちに骨埋める覚悟はできてるよ」
「はあ?」
何言ってんだこいつの視線再び。
わかるよ、どうして自分の世界を捨てて、とか思ってるんでしょう。どうしてあのアルセウスに会おうとしないのか、とか思ってるんでしょう。
そんなの恋はハリケーンで、セキさんの前には私の朧げな記憶しか残ってない故郷なんて比較するに値しないんだよ。
最初こそ消えていく記憶といつまで経っても家族や友達を思い出せないことに怯えていたが、もう仕方ないと割り切った。そうでなきゃやってられない。それにアルセウスの言うこと聞いたって自分の世界に戻れるとは限らないし、戻った時に時間がどれだけ経っているのかもわからない。戻ったら私の同級生みんなおじいちゃんおばあちゃんでした、とかならもうこっちにいたほうがいい。
ウォロさんはそんなこと想像もしてないと思うけど。アルセウス一直線だもんな。
「なぜコンゴウ団の長を……」
「なぜって、むしろあんなに優しくて色気あって美男子で団のリーダーやってる人を好きにならないことある?」
「アナタは……サクラさんはああいうのが好みなのですか」
だからそうだと言っている。みんながみんな、アルセウスみたいなのをタイプだと思わないでほしい。というかアルセウスはポケモンだからそもそも私の恋愛対象にはならない。憎しみは募らせてるけどな。姿現したら一回インファイトくらわせる、私が。
「まあ、美男子で言うとワタクシも負けてませんし、何度もサクラさんを助けてきましたけどね」
「どうした突然。張り合わなくても」
「別に張り合ってるわけでは。事実を伝えたまでですよ」
「そういうところ最高にウォロウォロしてて逆に好感持てちゃうから不思議だな」
「そうでしょうそうでしょう!」
なんだなんだ。急にテンション上がってきたじゃないか。全然褒めてないのに。けど思い返せばもともと感情の起伏が激しい人だったか。プレートじゃねえか事件もそうだったな。
それはさておきセキさんとわざわざ張り合わなくてもいいのに。セキさんはみんなが認めるスパダリだよ。夫にしたい男堂々の1位だよ、私調べで。
確かにウォロさんも顔がいい。けどそれを打ち消す神リスペクトヘアー。あと確かに何度も助けてもらったよ。めっちゃ回復アイテムくれるじゃんって思ったよ。けどそれ大前提としてプレート集めさせるためでしょ。win-winの関係じゃないのよ。まあ確かにデンボクに裏切られた時に近くにいてくれたのは正直嬉しかったけどね。あとちょこちょこ信頼してます頑張ってみたいな言葉をかけてくれるのも。
けれどそれくらいじゃカバーできない別れ方よ。余所者とかアナタなんかとか言ったの忘れてねえからな、忘れてやらねえからな。あと回復させず畳み掛けてきたのはもうちょっと良心あれと思ったよ。
「あ、もしかして急にセキさんと張り合ったように見せかけてちょっと恩着せがましいのって、だからワタクシに恩返しするために図鑑コンプしてアルセウス呼び出しなさいってこと?」
「は?……。いえ、アルセウスは自分の力で会うので結構です」
「え、じゃあ純粋に張り合っただけなの?」
「張り合ってないです。別にアナタみたいな小娘、ほしいわけでは……」
「あげないよ?え?何急に」
いつから私売り出されてたの。私のこともらってほしいとも言ってないし。私はセキさんのものだから。そういう予定入ってるから。まあ、住所教えてくれるなら結婚式には呼んであげてもいいけど。最悪山奥の穴に住んでますとかでも招待状届けに行ってあげるよ。デンボクよりは好感度高いからね。何度も言うがデンボク、テメーはダメだ。
「別に欲しいなんて言ってません」
「いや、だからそもそもあげるって言ってないって。何なの、私のこと好きなの?」
「はあ?!ワタクシが?!アナタを!?笑止!」
「はいはい、じゃあもういいね、私セキさんにアピールするので忙しいのよ」
「待て!話は終わってませんよ」
「なんだよまだあるのかよ」
「アナタが図鑑を完成させるまで離れませんからね」
「え、正気?」
この人自ら姿消したのに、突然帰ってきて付き纏うつもりなの?大丈夫?私コトブキムラに住んでるけど、気まずくない?まあ村の人たちはおかえりウォロさんどこ行ってたの、くらいだろうけど。その他は……。いや、ウォロさん本人がいいならいいけど……。あんた鋼の心持ってたんだね。それなら私に負けた時に姿消さず、一緒に図鑑埋めますよくらいの気持ちで来てくれたら良かったのに。何で今更。あとアルセウスには自分の力で会おうと思ってるのに、図鑑完成見張ってるの?完成した途端また姿くらますつもり?不思議な男だ。
「別にいいですけど、セキさんにアピールする時には席はずしてくださいね。やっぱり他の男の人が近くにいると感じ良くないと思うんで」
「ついていくに決まってるでしょう」
「何でだよ。まさか、あんたもセキさん狙いか?」
「逆だ!あ、いえ、なんでもありません」
「え、逆?え、それって、」
「言い間違えました!さ、早く図鑑完成させますよ。アルセウスが待ってますから。さっさと見つけてないポケモン探せ」
「え、こわ。アルセウス愛こわ」
背中をぐいぐい押されながら図鑑コンプを促される。めちゃくちゃ面倒だな。もう図鑑託すからウォロさんが完成させてくれよ。
恨めしい視線をウォロさんに送りながら重い足を一歩一歩進める。
……ところでウォロさんって。……いや、まさかな。多分逆って言うのはセキさんを狙ってない、つまりむしろアナタが彼に気に入られるのをサポートしてあげますよ!ってことだよな。
なんだ、ウォロさんって案外いいやつ……?プレートの時もそうだったし、目的のためなら利益をもたらしてくれるってわけか。それならウォロさんの働きによっては図鑑コンプ頑張ってあげてもいいよ。これぞwin-winの関係。
にっこりとウォロさんに微笑むと彼は訝しげな視線でこちらを見たが、気にしない。私とセキさんの明るい未来のためにそのよく回る口を活躍させてくれよな。
このあとセキさんの前で何故か抱きつかれてウォロさんにうっかりインファイトをかましてしまうまで数時間。
(セ、セキさん!これは、違うんです!正当防衛なんです!いつもは穏やかなんです私!)
(えっと、付き合ってるわけじゃねぇのか?)
(断じて!私にはセキさんだけなんです)
(これはこれは、サクラさん痛いじゃないですか。恥ずかしがっちゃって)
(なるほど……ウォロ、あんたの片思いってわけか)
(は?!)
(え、ごめん、私にはセキさんいるから)
(誰がこんな小娘を!)
(あー、まあそれでもいいけど、きっと後悔するぜ。な、サクラ)
(セキさんのその笑顔プライスレスです最高)
(いちコンゴウ団の長ともあろう人が、ちょっと距離近いんじゃないですか)
(そうか?気になるならそっちも近づいたらどうだ?)
(……チッ、そうですね、ええ、そうしますね!)
(何、なんなのウォロさんどうしたの。それより私とセキさんのラブラブテリトリーに入ってこないで)
(え、なんですか?もう一回抱きしめて欲しいですって?)
(まじでどうしたの情緒)
2023.11.19