これから会えないかの問いかけに、「大丈夫」の言葉とかわいらしいスタンプが返ってくる。
それを見て緩む口元はそのままに、車を走らせる。
ずるい男だ。そんなことは知っている。

一緒にご飯を食べに行ったり、映画を見たり、夜になれば大人の付き合いとしてそういう行為も。だからといって付き合っているわけではなく、ただ会いたい時に会えたら会う、それだけ。そこに愛情がないのかと言われれば答えは否。無論、愛がなければこんなに長く関係を続けたりはしない。けれど付き合っていないのは、彼女のため。結婚願望の強いサクラと、結婚願望のないオレとが付き合っていると、サクラが結婚相手を見つけられず婚期を逃してしまう。それを危惧して付き合わないのだ。
別れたきっかけだってそう。全部彼女を思ってのこと。なんて、そんなのは建前。結局のところ、オレは怖かっただけだ。サクラと付き合っていくことでいざという時に責任を取らなければならないことに。それでも、サクラへの愛はおさまらなくて。結局体だけの関係をこちらから持ちかけた。サクラもオレのことをまだ好きでいると確信していたからこそ、言葉にせずともなし崩しにそういう関係にするのは簡単だった。それに、付き合ってと言葉にすればこの関係が崩れるのではないか、とサクラが心配して何も言ってこないのを分かっていて、オレはこの関係に甘んじている。クズだなんて言われなくとも分かっている。けど、オレはこの関係も1つの愛の形だと思っているから、悪いとは思わない。お互いが愛していれば、言葉がなくとも二人は繋がっている。サクラだってオレと会うときは幸せそうに微笑む。オレだってそうだ。
以前、ティエルノやセレナ、幼馴染一同がうちへ遊びに来たとき、セレナがうちの洗面台にピアスを忘れていき、取りにくるまでとそのままにしておいたのだが、サクラが泊まった日に無くなっていた。捨てたのか持ち帰ったのか、詳しいことは分からないが、恐らくサクラが嫉妬からどこかへやったのだろう。オレは愛されている。その事実さえあればいい。
結婚は必ずしも幸せだとは限らない。セレナやサナは旦那の愚痴を言いによく実家に戻ったりうちに遊びに来たりするし、アイツらの新居は自分たちの趣味で形成されている。そこに旦那の意思はない。オレはもう少し自分の時間を過ごしたい。それに他人と生涯を共にするなんてオレには負担が大きすぎる。だから今のままでいい。ちょっと不安定なくらいがちょうどいい。

「今日も車、ありがとうね」
「こちらこそ、せっかくの休みなのにありがとう」
「ううん、会いたかったから。誘ってもらえて嬉しい」
「それならよかった」

ピンクのかわいらしいワンピースに身を包んだサクラが、濡れた唇でオレに微笑みかけながら車に乗る。オレは右手でサクラの手を握りながら運転をする。
ほら、こんなに幸せいっぱいなんだ。何も悪いことはないだろう。オレたちはそれでいい、そういう関係なんだ。


2018.05.14



 

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