「静かだね」
「そうだね」
夕日で頬を染める水面に、ダイヤを散りばめたようにきらきらとした砂浜。そこに2つの影が動く。
小さな粒をたくさんあしらった浜辺は、踏んでも固まらず、崩れやすくていけない。はやく、私たちを捕まえて離さない波の中にとらわれてしまいたい。はやる気持ちを抑えながら、一歩、また一歩と2人で進む。
いつから耐えられなくなったんだったか。職場の女性と話していた時?マツバに無邪気に笑顔を見せる、ジム戦にきた女の子を見た時?
はじめはそれでも、大人なんだからそれくらい我慢しなきゃって、わがまま言っちゃダメなんだって、抑えてたんだけどな。
「真っ赤だね、海」
「綺麗だね」
足先を、溶けた夕日がなぜる。
私たちにぴったりな色ね。情熱、恋情で燃え盛る色。
こんなに綺麗なところで、二人一緒にいられるなんて。ああ、なんて幸せなんだろう。誰も邪魔できない、二人だけの世界。
繋いだ手に自然と力が入る。もうあなたを離さないから。そう私が念じると、マツバの握る力も強くなる。
「サクラ、もう離さないよ」
「うん……」
ああ、全部が夕日色に染まっていてよかった。
頬が赤らんだこと、彼にばれないですむ。今更こんなことで照れただなんてばれたら、恥ずかしいもの。
「サクラはうぶだなぁ」
「やだ、ばれてた?」
「頬が一段と赤いからね」
「恥ずかしいな、あんまりみないで」
「何で?こんなにも綺麗なのに」
彼は歯の浮くような台詞を恥ずかしげもなく紡ぐ。波の音しか聞こえない静かなこの場所では、マツバにまでこの高鳴る鼓動が聞こえてしまいそう。
いつもそう、この人は私が喜ぶことをしてくれる。
この案だって、私のために計画してくれたんでしょう。
マツバは優しいから、私が耐えられなくなるまで待ってくれていたんだよね。私がマツバといろんなところに行きたがったから。
おかげでたくさんの思い出ができたわ。
そしてついに私が耐えられなくなって、この案を決行してくれたんだよね。全部知ってるんだから。
もちろん、それがマツバ自身がずっとずっと望んでいたものであることも。
結局私たちは、似た者同士だから。
お互いを愛したことも、それが毒のように互いの心をじわじわと侵食していたことも、さいごに選んだ場所も、全部全部一緒だったもんね。
「ねぇ、マツバ」
「なんだい」
「こんな私だけど、これからもよろしくね」
「それは僕も同じだよ。こちらこそ、よろしくね」
二人で向き合い、微笑みあう。ああいやだ、なんて幸せなの。
この幸せを噛みしめるように、二人で少しずつ、一歩、一歩と足を進める。肩まで溶け込んだところで、私たちはまた、向き合う。
ああ、こんなに広い海に二人っきりだなんて。なんてロマンチックなの。
「サクラ、愛してるよ。ずっと」
「私も、愛してる。ずっと、ずっとね」
マツバが私の腰に手をまわす。私はマツバの首に腕をからめる。
そして、深く熱い口づけを。
私たちはその熱を感じたまま……
ーーー
二つの心
その海中にて一つになりけり
2016.02.27