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「なまえさん、アラバスタに着いたわ」
「ありがとうございますビビさん。少し町を見に行って来てもいいですか?ちょっと見てきたら戻るので」


ダイニングでボーッと座っていた時、ビビさんに声をかけられた。アラバスタの港町"ナノハナ"と言う場所に着いたらしい。船上から見る町中は、外から見たらトラブルが起きてるというのに中はワイワイと盛んで見えた。

「ええ、私たちはあんま目立てないからはずれにいると思う。今言うことじゃないって分かってるんだけど…その、良い国だから……」
「…はい、素敵なビビさんが言うのならきっとそうなんでしょうね…目に焼き付けてきます」



指を刺されたはなれ周辺の建物を確認して記憶する。
悲しそうに、もどかしそうに言うビビさんの国への愛はさすが王女というのものもあり強い。そしてそれは些か眩しく感じた。

一時のお別れを言い、船を降りる。
アラバスタでの役割が終わったらビビさんに迷惑を更に掛けることになるけど、お願いして国で少し過ごさせてもらう予定だ。
私の個性の能力で少しなら復興の手伝いも出来るだろう。少しでも時間があるのならばこの国の雰囲気を感じて、この世界の情勢を把握しておきたい。


…………私は、元の世界に帰りたいのだろうか。


「新聞買ってどっかでお茶しよ……」

それでこの国の事を中の店員さんに聞こう。


そうしてたどり着いた場所はスパイスの良い香りがする繁盛しているお店。中の雰囲気もいいし、トラブルも起きなそうだ。


お金は向こうの世界で何かのためとポケットに入れていたお金が何故か役に立った。
海に落ちて萎れてしまったが。だけど元の世界の通貨だったそのお金は確認したら此方の世界の通貨になっていたのだ。

お金1つの価値は変わらないらしいので持ち金は少ないが有難い事には変わりはない。


「店主さん冷たい飲み物1つ頂けますか?」
「おう、アイスコーヒーでいいか?」
「はい。ありがとうございます」


カウンターに腰掛け新聞を開く。この飲食店までの通り道でアラバスタの情勢が書かれた新聞と、恐らくこの世界の共通の新聞が売っていたので両方買わせてもらった。


「はいよ、……嬢ちゃん旅人か?」
「あはは、そんな大した者じゃないですよ。どっちかって言うと放浪です」
「そうか。大変な時期にこの国に来たな、まだこの町は落ち着いてるからゆっくりしてけよ」


ありがとうございます、とお礼を述べるが1つ気になる節があった。


「この町は、って……酷い町もあるんですか?」
「あぁ、ここ3年アラバスタには雨が降らなくなった。そのせいで活気あった緑いっぱいのエルマルも、オアシスと呼ばれていたユバも。今じゃ枯れ果てて一面砂だらけだ」
「そうなんですね…」
「首都のアルバーナならここよりさらに活気あるはずだ。時間があったら行ってみな」


哀愁漂わせる店主さんは疲れきってるように見えた。
3年も雨が降らない。それは生活を担う作物にも影響させてしまうだろう。
思ったよりも被害が酷いアラバスタの惨状に自分の個性で何ができるか考えるが、個性にも限界がある。
それにやろうと思えば一瞬で出来てしまうその能力は使っていいのか悩んでしまう。

私がやるのは一時的で永遠に出来るわけではない。
根本を解決しなければ何も変わらないんだ。


「はいよ、お待たせ」


一息をつこうとグラスに口を寄せると、隣から香るスパイスの匂い。なるほど、食欲を唆る匂いばかりでこれは繁盛するはずだ。

視線を向けると隣に人が座っているのは分かるが、その姿は下半身しか見えない。上半身はカウンターのテーブルの上に乗り、全て美味しそうな食器で溢れていたのだ。


食べる量がすごいし、幸せそうに食べるなあとじっと見ていると「ん?」と声がする。

「なんだ?おれになんか用か?」
「え、」
「そんなに見てもあげねェぞ、これはおれのだ。……でもおまえなんも食ってねェのな。これうめェぞ!あげねェけど!」

唐突に振られた言葉にすぐ様反応できないでいるのに、続けられる言葉に目をぱちくりさせる。

「いや…見てるだけでお腹いっぱいです」
「ん?そうか? ところでお前麦わら帽子を被った男見なかったか?」
「え、麦わら帽子ですか?」
「あぁ、ルフィって言っ」


どさっ



「!!!?」


どうしよう。
美味しそうなピラフにこの人顔を突っ込んでしまった。

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