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「ん?」

流石に2度目はそう焦らない。焦らないけどさっきの事実に少し手を震わせながらこの人の顔を拭いていく。

「ふう……まいったな……また寝ちまった」


何事も無かったように咀嚼を再び始めるこの人はほんとマイペースで見れば見るほどルフィさんに似てる気がしてきた。
振り回された店主さんや周りのお客さんはこの人にツッコミを入れコントの様な事を繰り広げている。

よく見たらこの人の背中には一風変わったドクロの刺青が入っている。ドクロは海賊の象徴……きっとこの人も海賊なんだ。そもそも私はアホすぎないだろうか、船ならもちろん帆があるだろう。その帆に書かれているであろうドクロに気付かずルフィさんの船に乗っていたんだ。

この人も……ルフィさんも、本の中で良くあるような人や国を襲撃して、金品を奪っているのだろうか……、人を傷付けるのだろうか。


ヴィランと同じなのかな」
「……ヴィラン?お前おもしれェ言い方すんな、まあおれ達お尋ね者は海軍にとっては敵だろうよ」
「…………海軍は……ヒーローなんですか」
「…さァな。 世の中民主から好かれる海賊もいるんじゃねェの?」


ニヤリと笑うこの人の中では、その好かれる海賊に思い当たる節があるように楽しそうだった。
それは私には到底理解ができなくて。いきなり突きつけられた世界の根本に、例外もある様で私の中の常識が覆っていく。複雑なそれは、過去をぐちゃぐちゃにされる様だった。

ヒーローは正義の味方で、敵は悪の権化。
私の世界ではその常識は普通で、私はそんな2つの役割の間に生まれて。

「ほら、お前がいう"ヒーロー"が来たぞ」


振り向いて入口の方に視線を向けると葉巻を加えた人相が正直言ってあんま良くない人。内心「え、この人がヒーロー……?」と思いながらもじっと見てるとギロリとガンを付けられた様な気がした。


「白ひげ海賊団2番隊隊長ポートガス・D・エースが何の用だ……テメェも白ひげの一味か?」
「弟をね……探してんだ。こいつはここで会ったただの一般人。そういえばアンタ名前は?」
「今ですかそれ……!なまえですけど……!」
「だそうだ!よろしくなまえ!おれはこの海軍が言う通りポートガス・D・エースだ!」


確かめられるように全身を汲まなく凝視されてるような気がするが生憎証明出来るものが何も無い。少し、困った顔で手を挙げて無実を訴えることしか出来なかった。

何か弁解しようと口を開くが一瞬。
目の前の海軍の人とポートガス?さんがどこかへ吹き飛ばされて消える。

そして代わりに現れたのはダイナミックな入店を果たしたルフィさんだった。


「あー!なまえ!お前こんなうめェ店知ってたなら教えろよな!」
「いや……知ってたっていうか辿り着いて……あのルフィさん…早く逃げた方が……」
「なんでだよ!おれは腹減ってメシ食ってんだ!なまえもしかしておれのメシ狙ってるのか!?」


口に物を詰めながら「ぶべら」と会話を続けるためご飯粒があちこちに飛び、口周りにもいっぱい食べさせている。
そういえばさっき似たような食べ方や性格をした人がいて……その人は"弟"を探していて……!

「る、ルフィさん!さっき飛ばしちゃったの……!」


私の中の引っかかりが取れるがそれは既に遅くて、きっとルフィさんを探していた兄本人は数件先の建物に飛ばされたあとだった。

しかも一緒に飛ばしたのは海賊が敵対する海軍の人で……!

「麦わらァアア!!!!!」



私は何回ここでため息を吐くのだろう。
…………遅かった。

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