14
船に戻ってからルフィさんはさっき助けてくれた人は自分の兄だと語った。やっぱり飲食店で感じたあの人はどことなくルフィさんと似ているってのは勘違いじゃなかったんだ。
「なまえエースに会ってたなら先に言ってくれよー」
「ごっごめんなさい…」
船縁にあぐらを書いているルフィさんは拗ねたような表情をつくる。違うんだ、否定させてほしい。あの時は声を掛ける暇もなかったんだ。
「何言ってんだルフィ、お前がおれを吹き飛ばしたんだろ?」
どさっ、と落ちる音と共に入れ替わるルフィさんの身体と……
「ルフィさんのお兄さん……!」
「よっ!さっきぶりだなァなまえ」
彼はルフィさんが座っていた船縁に立ち、丁度いい
腕置きのように船縁に寄っかかっていた私の頭に手を置いた。
「なまえちゃんと言ったか?ここが海賊船って知らなかったって」
「い、言ってないです……」
「え!!? なまえあんたこの船が海賊船って知らなかったの!?」
その会話を聞いていたナミさんに驚いた顔をされ、ルフィさんのお兄さんからこの船は海賊船だということと、ルフィさんに懸賞金が掛かっていることを教えてもらった事を伝えた。「海賊王になるってバカみたいにこいつ言ってるのに」と呆れた表情をされたが、比喩だと私は思ったのだ。
「なまえ……海賊はイヤか?」
悲しそうな顔をして私の元に歩いてくるチョッパーさんに私はどんな言葉を返せばいいんだろうか。
ヒーローとか
「……海賊とか海軍とかまだよくわからないです…、」
ずっと目を逸らしてきたんだ。
ヒーローと敵だって分からないのに、海賊とか海軍とか言われてもよく分からないに決まっている。
「ルフィ、ちゃんとなまえと話し合いしとけよ。…まあもし海賊が好きって言うなら攫ってたかもなァ?」
「ハァ!?」
「それはエースでも許さねェぞ!!」
サンジさんの叫び声と共に攫う?私を? と、話の流れに着いていけないでいると、頭に置かれていた手が突然頬に周りルフィさんのお兄さんの方へと向けられる。
「だってお前を手に入れたらこの世の海を手に入れたみてえじゃねェか」
私の手と違ってごつごつと骨ばった指の背で撫でられた私の頬は、何をされているのか理解した途端熱を持つのが分かる。
思考は停止仕掛けているのをいいことに瞼を撫でられて、ああ、この目の色の事を言っているのかと少し冷静になる。
「うおぉおおおお!なまえちゃんに触るな!!」
「え、うわっ!」
サンジさんに腕を引かれて、背中に隠されるが赤くなった顔はなかなか冷めることはない。
「なまえちゃん消毒……!」
「消毒って大袈裟な……!」
アラバスタの気象に合わせた衣装に着替えたサンジさんの洋服の袖で顔を擦られる中「冗談だ」とルフィさんのお兄さんの声が聞こえるが冗談だと言うならこのサンジさんの奇行を止めて欲しい。
「ダメだ!なまえはあげねェぞ! これからもっといろんな海を見て、島を見て冒険するって決めたんだ!!!」
「まぁ、落ち着けって。そこでルフィ提案なんだが……ウチの"白ひげ海賊団"に来ねェか? もちろん仲間も一緒に」
「いやだ」
ルフィさんが勧誘されてると思ったら即答でお断りの返事をした。海賊王になりたいって言うのが本当なら、他の人の船に乗ったらなれないもんなと1人納得していたら「白ひげ……!?」と、ウソップさんが驚愕の声をあげる。
「そんなに白ひげの海賊団っていうのは凄いんですか?」
「凄い所じゃないわよ……」
近くにいたナミさんに聞いてみると、今最も海賊王に近い世界最強と言われ船員は約1600人に加え傘下も持っていると噂があるということを教えられる。
海賊の規模の平均はわからないが、この船に比べたら多いことはなんとなくわかる。
「ルフィさんのお兄さんは凄いんですね……」
その凄さは兄譲りかとぼそっと呟くと、こっちを見たまま笑っているルフィさんのお兄さん。
「エース」
「え?」
「エースって呼んでくれよ、一緒にメシも食った仲だろ?」
ご飯食べた仲というか、1人でたくさん食べて寝出すエースさんと1人慌ててた私だけど水を差すわけにはいかない。
「あら、なまえあんた気に入られてんのね」
「うーん……そうは思えないんですけど」
でも瞳を褒められたのなんか初めてで、さっきの出来事を思い出すと再び顔が赤くなるような気がするがバレるとサンジさんにさっきみたいに顔を擦られてしまうのがわかるからバレないようにと表情を作る。
「……エースさん」
「なんだなまえっ」
ルフィさんと似た、太陽の様に笑う笑顔に眩しさを感じた。
兄弟か……いいなあ
私も……誰でもいいからなにか繋がりが欲しかった
弟をよろしく、と言ったエースさんは1人小型の船の様な物を走らせて海の向こうへと走って行った。
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