19
「ごめんなさい……荷物持ってかれちゃって……、水の樽1つしか死守出来ませんでした」
「何言ってんだ、このクソ暑い砂漠の中樽1つでもお手柄だぜ……怒るべきはこのクソゴムだ!!」
鈍い音を立ててルフィさんの頭の上にこぶが1つと、煙が上がった。その鳥は飛んでいったはずが私達を馬鹿にしたような目で見つめ、頭を抑えて蹲ったルフィさんは次の瞬間には「おれ達の荷物を返せーーっ!!」と鳥の飛んでいった方向へ走り去って行った。
「あいつ……!ここに戻ってこれるのかしら……、あんた大丈夫?」
「大丈夫です……ごめんなさい、私…何も…」
「いいえ、私が先に言ってたら……!サンジさんが言う通り樽1つあるだけでもぜんぜん違うわ、ありがとう」
私の知る世界とは違う、どこかおかしな動物に出し抜かれた私は例え気遣って慰めてくれたとしてもやってしまったことには変わりはない。
何か出来ることはないかと周りを見渡すと、ルフィさんが消えた方向から大きな砂埃と激しい音が聞こえる。
「な、ナミさん…!」
まだ私の髪の毛に絡み付いた砂を半ば頭を叩くようにして落とすナミさんの服を引っ張る。
私がその音の方向へと指を指すと、みんながその方向へ視線を向け、眉間にシワを寄せる。
その先には鳥を追って帰ってきたルフィさんと、何故か一緒に並走してるラクダ……そして、見たこともない程の大きさの怪物がいた。
「うううわぁぁああ〜〜〜っ!!!」
表面がゴツゴツとし、大きな牙と爪を持った人間の何倍もあるそれはルフィさん…と、ラクダを今にも食べようと口を開いている。
それは"サンドラ大トカゲ"というらしいが、大トカゲという分類で収めていいのだろうか……!
「となりでラクダも走ってるってのはひとまずおいとくか……」
「どういう星の下に生まれれば、こうトラブルを呼び込めるんだ」
構えるルフィさんとゾロさん、サンジさんに合わせ私も戦闘態勢を取る。
「“ゴムゴムの”…」
「“龍”…」
「“肩肉”…」
だが3人の
「「「巻き” “ムチ” “シュート”!!!」」」という大業に大トカゲは一瞬にして血反吐を吐き砂漠に倒れた。
「す、すごい……!」
開いた口が塞がらないというのはこういうことか…!
「あんたもあそこに混ざれんじゃない?」
「おれはなまえも怪物枠だと踏んでるぞ」
「さすがにちょっと…、」
一周まわって大トカゲに同情してるナミさんとウソップさんに問われるが、あそこまでできる自身はない。
まだこの世界に来て私はどこまで自分の個性が通用するか分からないんだ。世界が違うなら……ルフィさんの能力は個性じゃないだろうし、今更ながらにその関係性に気付くが調べる術はない。
大トカゲをルフィさん達が倒し、岩場を見つけたら休憩だった私達はサンジさんが手を加え料理した大トカゲを食べることになった。
「私トカゲって初めて食べます…」
「まあ、そうそう食う機会はねェもんな」
ウソップさんの横に腰を降ろし、食べたトカゲのお肉は普段食べてるお肉の食感とあまり変わらない気がした。大きさにもよるからだろうか。
「なまえの能力で水を作ることはできないのか?」
別に水を作り出してほしいって訳じゃなくて……!とわたわたと弁解するウソップさんに、私は説明をしなければと私の個性を大まかに伝える。
「私の能力は状態変化って言って簡単に言っちゃうと化学なんです」
「化学ぅ?」
「物質って温度によって形を変えられますよね。固体は熱を加えたら液体になるし、気体を冷却すると今度はその物質が液体になる」
「要は加熱、冷却出来るってことか?」
難しそうに考えながら呟くウソップさんに、私も小さい頃は理解が出来なかったと独り言ちる。
父親が血液を操る個性で、母親が温度変化が出来る個性だったのだ。2人の遺伝子を両方とも受け継いだ私は無駄に個性だけは便利だった。
「へェーー、ルフィには使いこなせない能力だな」
「あはは、理解すれば出来ますよ? それで水を作ることに関しては結論から言えば出来ないことはないです。でも……」
最初に説明した液体を操ることを前提に話を進める。
父親から受け継いだ個性は私の半径の範囲内から液体を生み出すことが出来た。範囲は測ったことがなく、距離の限界は分からないが私の世界では早々困ることは無かった。でもこのアラバスタでは砂漠の国とあって苦労しそうだ。
「近くの液体って言ったら海になるんですけど……海って海水でしょう?海水には不純物がたくさん入ってるし、そもそも塩っぱくて飲むことはまず出来ない……。それで一般的に使える水にするためには加熱して不純物を取り除くんです」
「なるほど! 時間がすげェかかるんだな……その間も付きっきりになるし」
「そうなんです……ルフィさんのお兄さんみたいに炎が出せたら良いんですけど、スピードは変わることはないし……」
手間がかかる過程に少し困った顔をすると、勘違いしたウソップさんが「そういう意味じゃなくて…!」と再び弁解てくる様子に笑みを浮かべる。
「でももしものことがあったら言ってくださいね」
少しでも役に立つのなら体力が尽きるまで手伝いたいんだ
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