04
握り返せなかった手を振り解いて、落ちた先はどこを見てもコバルトブルーに囲まれた知らない場所でした。
「あの、ご迷惑お掛けしました…」
恐る恐る告げた言葉に、私の様子を伺うように複数の視線が一身に向けられる。
「お前、海の中にいたんだ!おれ海に落ちてよー、そしたら一瞬お前が見えたから!びっくりしたぞー、何してたんだ?」
「……わかりません」
「わからないの?」
「…人に追いかけられてて、お話を聞くと…気付いたら、海の中にいたみたいです」
首を傾げている人もいれば、眉間にシワを寄せている人もいる。
私だってまだ現状把握が出来てないんだ。……実はここは死後の世界だったりするのだろうか。
「野郎共、レディをそんな目で見るな! お待たせしました、サンジ特製ドリンクです。海の中にいたなら身体冷えてるよね?ゆっくり温めて落ち着いてからでいいんだよ」
コトリ、と置かれたティーカップからは湯気が立ち上っていて甘い香りがする。
「ありがとうございます…えっとサンジ…さん、であってますか?」
視線を向けた先には金髪で片方前髪で目を隠したスーツ姿の人。タバコの煙は何故かハートで……そういう技術があるのか。すごいなぁ。
「うん、レディの名前をお伺いしても宜しいですか?」
「そ、そんな畏まった喋り方じゃなくても…………アッ!ごめんなさい!助けて頂いたのに名前も名乗ってなくて……みょうじなまえと言います」
立ち上がって頭を下げる。
ボーッとしてたのにも程がある。失礼すぎるだろ私。
「あんたもそんな畏まった喋り方じゃなくていいわ、見た感じ年近そうだし」
「ししし!そうだな!おれはルフィ!この船で船長やってんだ!」
次々述べられる名前を頭の中で反復して無理やり頭に叩き入れる。
「でも……恩人の方にそんな……」
「でももだってもないわ、こっちも気を使っちゃうし気にしないで。それより急かすようで悪いんだけど、これからのあなたの待遇を決めたいの」
ナミさんに少し困ったようなでも厳しい視線を送られる。
それから説明されたのは、この船はアラバスタに向かっているということ。ビビさんはそのアラバスタの王女だということ。アラバスタでは現在クロコダイルという者が国を奪おうとしていて、その過程で起きた誤解により戦争が起きようとしていること。
そしてその戦争を止めようとしていること。
「一番はあなたを近くの島に寄ってそこで降ろすのがいいって分かってる。でも寄り道もしてられなくてね、最高速度でアラバスタへ向かいたいの」
「なまえさんごめんなさい、私のワガママで……」
「い、いえ!それは気にしないでくださ……だいじょうぶ、」
流れ出る敬語にナミさんの視線が冷徹になり言葉を改める。
「助けてもらったのは私の方だし……こちらこそタイミングが悪い時にごめんなさい」
「タイミングは良かったんじゃねえか?ルフィがあん時、海に落ちなければなまえに気付かなかったしな!」
「そうね、死んでたかも」
「し……!」
「あはは……その節は本当に感謝してます」
サンジさんから貰った温かい紅茶は少し蜂蜜の味がする。
それは寝ていた私の脳を覚醒させるようで、何が最善策か、それはこの人達に迷惑をかけないか考えさせる要因になった。
「私も、アラバスタ連れてって貰ってもいいかな?」
「そんな……!これから戦争に向かうのよ!ルフィさん達を巻き込むのだって本当は……!」
「おれも反対だ」
背もたれにずっと身体を預け話を聞いてくれていたゾロさんが声をあげた。
「何も出来なさそうな奴が増えたってお荷物なだけだろ」
「マリモてめえなまえちゃんに……!」
「エロコックは黙ってろ。おれは間違ったことを言ってねえはずだ」
確かにそうだ。"普通の女の子"だったら何も出来なくて、逃げてばっかりで、守ってもらうだけのただの足でまといなだけだった。
でもそれは"普通の女の子"の話で
「もし戦力が必要なら」
左手で何かを持つように前に構え、右手で左拳から平行に空をなぞる。
それは何もしてないようで、左手に透明だけども純度の低い氷の様な刀を齎していた。
「助けてもらったんだ。私に出来ることならなんでもさせてください」
ガタガタと椅子から転がり落ちる人もいれば、目を見開かせて椅子に留まる人も。
「なまえ能力者なのか……!?」
能力者……?
それは個性の能力ことなのだろうか……?
「うん…?」
ずっと刀を出してるのは危ないと思い、剣先から柄まで平行になぞるとそれは消える。
「スゲーーーー!消えたぞ!」
「不思議刀か!?」
「すごい……何の能力者なの……?」
ビビさんに問われた質問に私は苦笑いで返した。
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