06


船尾に1人胡座をかいて座り、ぼーっと海を眺める。



特化させた個性で人々を救うヒーローと、持て余した個性を悪用して犯罪を犯すヴィラン

私の両親はヒーローと敵だった。
世の中の子供が憧れるヒーローになりたいとは私は思えなくて、かといって好き好んで敵になるつもりもなかった。
そんな両親の間に生まれた私はやっぱり異例だったらしい。まあそりゃそうだ。ヒーローは敵を捕まえるし、敵はヒーローを殺意を持って襲い掛かる。なのに私の両親は、私という異物の子供を生んでしまったのだ。

ヒーローにも敵にも憧れない、

ヒーローと敵の血が混ざった中途半端な子供を。


そんなどちらに転ぶか、どこに転ぶか分からない危険人物として表向きは保護、実際は軟禁状態という待遇になった。

軟禁状態と言っても許可を貰えば外にも出られるし、決められた学校にだって行ける。
たまに監視という名目でよく顔も知らないヒーローが見回りに来るだけだ。

そんな生活を少し、続けていたところ私はその決められた学校に4月入学をした。
ヒーローを養成する国立学校、雄英高等学校のしかも普通科を凌いでヒーロー科に。

馬鹿みたいだと思った。
そんな学校に通っている私は、ヒーローを本気で志している者達へなんという侮辱だろうか。入りたくても入れなかった倍率300倍と言われているヒーロー学校に特に目標もなく通う私は…………人を馬鹿にしすぎだと思った。

監視及び調教なのだろう。トップヒーローが教師をやる高校に入学させれば怪しい動きも出来ない、上手く行けばヒーローも目指してくれるかもしれないという。


でもそんな、志もない私はクラスに馴染めなくて。
嘘で取り繕って貼り付けて固めてみたけれど、真っ直ぐした彼らとは異様に浮いていて。

ああ、私はなんでここに居るんだろうと、彼らの半歩どころか十歩、百歩、百万歩後ろを歩いていた。


そんな彼らはこんな中途半端な私にも優しくて、手を差し出してくれたけど私は気づかないフリをして


無理矢理連れてこられた様な林間合宿で、私は敵に攫われた。


「…はずだったんだけどなぁ」


気付いたら海にいたらしいし、今はなんか助けられて船にいるし、同じように嘘で取り繕って同行を願い出てるし

この船のナミさんに借りた分厚い本には知らないことだらけで、でもなぜかその知識はすんなりと頭に入って、これも敵の個性なのだろうか。


「海なんて…………初めてみた」


「おまえ、それ本気で言ってんのか!?」







ルフィが見つけてきた女の子はみょうじなまえと名乗った。見た目私たちと同じような年齢で、色素の薄い髪色と私たちが毎日見ている空と海を閉じ込めたような瞳は正直綺麗だと思った。

これからアラバスタに向かうっていうのになんつートラブルを……と思ったが、過ぎたことは変えようがない。
そして驚くことに海賊とは縁がないような、平和な島の酒場やカフェで看板娘でもやってそうなその子は戦えるという。しかも何の能力かは詳しくはわからないが能力者だという。人は見た目によらないとはよく言ったものだ。


彼女、なまえは一言で言うと生きるのが上手だった。

距離を詰めすぎることもないし、取りすぎることもない。居座るだけはあれだからと、なにか手伝いはないかと船をよく歩いている。

分からないことがあれば質問をして、失礼だけど何を考えているのかよくわからない笑みを浮かべる。

そんな彼女は既に船に馴染んでいるような気がして、これはバカな船長が仲間に誘うのも時間の問題かと思った。


「ナミーー!なまえ知らないかー!?」
「さっきまで女部屋で本読んでたわよ?」
「ええ、でも本を閉じて出て行ったわ」


近くにいたビビと顔を見合わせて首を傾げる。

「あぁ、おれも探してんだ。なまえちゃん好きな食べ物とかあるかなあ。今はどっかのバカのせいで食料ねえけど、好みがあるなら聞いておきたいし」
「ゾローーー!なまえ知らねえかーーー!」


見張り台にいるゾロに大声で声を掛けると返事は帰ってこないが、代わりに刀を持った腕をぐるりと後ろに回した。

「うしろかー!」

ルフィは持ち前の跳躍力でメリー号の船尾に向かうと、その数秒後持ち前の騒々しさを倍にして帰ってきた。もちろん見つけたなまえの腕を引いて。


「ウソップ!!!なまえ海を見たことがなかったって!」
「はァ!?そんなことあんのか!?」
「エェ!?珍しいな!?なまえ!海はすごいんだぞ!」

ルフィの言葉に一同目が丸くなった。

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