November

貴方は周防桃子で『傘の下で』をお題にして140文字SSを書いてください。
日が落ち、あたりは薄暗くなってきた。劇場から足を踏み出すと、雨粒がぱらぱらと空からこぼれだしてくる。手に持っていたスマホで確認したら、次第に雨は強まっていくようだ。顔を上げると、少し遠くの方で困った顔をした桃子を見つけ、私は走った。いつもそうだ。私ばっかり追いかけて、いつまでたっても隣に並べやしない。
「っももこ、か、かさ、わすれたのっ?」
いつもはちゃん付けなのに、思わず呼び捨てにしてしまった。
「そ、そうだけど、どうかしたの?」
首を傾げて問いかける彼女に、私は傘を押し付けた。
「これ!つ、つかって、いいから!返さなくても、大丈夫だから」
こんなに長い時間、彼女の前にいて、話をするのははじめてで、意図していなくても言葉がどもってしまう。劇場で他のアイドルに接する時とは全く違うから、変に思われていそうで、気づけば掌からスマホが落ちていった。
「あっ、ご、ごめん……」
「……お姉ちゃんは傘持ってるの?」
「えっ、あ、いや。これ一本だけしかないけど」
「ふ〜ん、そっか。一緒の駅だよね、桃子とお姉ちゃんは。そしたら、お姉ちゃんは桃子を駅まで送ってくれないかな?」
唐突で、意外な提案に私はどうすればいいのかわからなくなった。
「でも、迷惑じゃ……」
「何言ってるの?桃子がお願いしてるんだから、迷惑なわけないじゃん。ほら、行くよ」
桃子に手を惹かれながら、歩き出す。膝を曲げながら歩くことは至難の業で、結局傘を持つのは私にしてもらったんだけど、これって、つまり、相合傘……だよね。悶々と桃子が何故誘ってくれたのかを考えていると、駅についていたようだ。
「今日は、ありがと」
「ううん。桃子ちゃんと一緒に帰れて、私も嬉しかったから」
「……しゃがんで」
「う、うん」
目線を合わせるようにしゃがむと、顔を真っ赤にしながらこちらを見つめる桃子がいた。傘という曖昧な壁のなかで私たちの吐息は混じりあう。甘い果実とでも言うのだろうか。桃子の唇はとろけるほどあつく、冷たい体温にひどく響く。私の体を蝕むような口づけは、はたして数秒だったのか、数分だったのかわからないけれども、とにかくその行為は私の心に深く爪痕を残していた。

貴方は天空橋朋花で『優先順位』をお題にして140文字SSを書いてください。
「あなたにとって、私は何番目に優先されるべき存在なのですか?」
「それは、一番目ですよ……」
「それでしたら、事務所に来たらまずは私に挨拶してください。私がここまで貴女を縛るのは、それだけ私にとっても大切なんです」
そう言いながら、私の髪にキスをする朋花。まるで聖母マリアのような美しさを持っていた。アイドルとは、よく「偶像」と表現されるが、彼女はそんな陳腐なものではなかった。崇め、敬われるような存在なのだ。
「自分自身でも驚いていますよ、こんなにも独占欲が強かったなんて。あなたは本当に罪深い女性ですね〜」
「朋花……」
彼女は、聖母であり少女だ。慈愛に満ちた女性でありながら、か弱き少女である。そんな朋花を、私はどんなふうに扱えばよいのか、未だにわからないのだ。
だからこそ、なのかもしれない。朋花は、少女としてみてもらいたくもあるが、聖母として必要とされる自分が好きなのだ。聖母か少女か、はっきりとわけられない私なら、彼女の欲求を満たすことができたのだろう。利用されていたといえば聞こえは悪いが、私だって自分を必要としてくれる朋花が大切な存在に、いつの間にかなっていたのだ。
きっとこのあやふやな関係は互いを壊しかねないものなのだろう。だけれども、まだまだ私たちは子供なのだ。間違いを起こしたって、きっと大人が解決してくれる。どんな過ちをおこしたって、きっと神様は赦してくれるに違いない。聖母がいるのだから。

貴方は百瀬莉緒で『寂しいなんて言えない』をお題にして140文字SSを書いてください。
「ね、ねえ……私達って恋人同士で、いいのよね?」
唐突に莉緒さんは私に言った。
「そうですけど、それがどうかしたんですか?」
「ううん、なんでもないの。気にしないで」
気にしないで、なんていいながらこちらをちらちらと確認している。本人はバレていないと思っているのだろうが、誰がどう見てもわかってしまう。ちょっと前は私からたくさん恋人らしいことをしていたのだ。しかし、いくらなんでも莉緒さんが受け身すぎて、彼女から私にまったく触れてくれないのである。もしかしたら、莉緒さんは私に飽きてしまったのではないか……なんて乙女思考に浸るわけではなく、ちょっとした出来心で始めたのが、「スキンシップを過剰にしない」ということだった。会話は毎日する、連絡だって取り合うし、ご飯だって食べに行く。でも、抱きしめたり、キスしたり……なんていう恋人らしいことは一切しないと決めてからはや一週間。寂しいなんて口にできない莉緒さんは果たしてどんな対策を取るのか、楽しみで仕方ありません!

貴方は星井美希で『君の傍』をお題にして140文字SSを書いてください。
美希の傍で眠るのが、わたしは好きだ。とても安心できて、ゆったりと時間を過ごせるのも事実だが、それ以上にリラックスしていられる。私らしくいられるというか、変に気を使わなくていいのだ。美希もそうなのか、私にはわからないけれど、よく事務所にいるときは傍で昼寝をしているように思える。美希も私の傍が好きならば、それはとても嬉しいことだ。今度はお泊まり会でもしてみようか。