April

迷宮にて君を待つ//天海春香
 テレビを付ける。春香が映る。チャンネルを変える。少ししたらCMに春香が映る。チャンネルを変える。おんなじCMが出てきて春香が映る。電源を切って、リモコンをソファーの上に投げた。いつも隣にいてくれていたはずの春香なのに、画面越しに見ると、全然違った人に見える。どうしてなのだろうか。私に見せてくれていた姿と、何一つ変わらない。素顔の、ありのままの春香なのにもかかわらずだ。
 学校に行くのが少し怖い。ずっと隣にいたはずの春香が全く来ないのも怖いし、それと同じくらい、学校に来てみんなにちやほやされている春香を見るのが怖いのだ。今までずっとどこにでもいる女の子だったのに、アイドルになっただけでここまで変わっちゃうの? 周りのみんなが変わっていってるだけなの? 私にはわからないよ。春香は変わらずに学校に来たら私に接してくれるし、特に予定がなければ一緒に帰ってくれる。春香は春香のままなのに、どうしてこんなにも遠いのだろうか。


歓びの数だけ愛を遠ざけた//所恵美
 恵美はすぐに人を好きになる。現場で一緒になると、雑誌片手にこの人がかっこいいだとか、このアイドルグループのリーダーと結婚したいだとか。耳にタコができそうなくらい、その手の話をよく聞く。アイドルとしての自覚があるのか、私にもよくわからないけど、かっこいいとか、結婚してほしいと言葉にするだけで、実際に連絡先を交換したりする姿は見ていないけれど、毎日好きな人が変わっているようにも思えるから、面倒で聞いていないのかもしれない。
「あ〜ほんとかっこいい……この顔やばくない!? マジで結婚して……」
「うんうん。かっこいいね。結婚してほしいね。わかるよ」
「何その聞いてないって一発でわかるような返事!」
「だって聞き飽きたもん。毎日言ってんじゃん」
 毎日毎日、誰々がかっこいい。この子がイケメン。聞き飽きるよ。私は恵美のタイプじゃなくて、恵美の気持ちが知りたいのに。


再会で終わる物語//宮尾美也

 初恋の人は、なんだかふわふわした人だったことを覚えている。色々とふわふわしてた。性格も、オーラも、髪型とか、雲の塊みたいに。
「そうですね〜私は、このカステラが美味しいと思いますよ〜」
 人間驚くと何の反応もできないと言うけれど、どうやらそれは本当らしい。あの頃と何も変わってないのが笑える。顔とか背丈とかじゃなくて、話し方とか、笑った表情とかそういう部分。おかしすぎて涙が出てきた。なんだこれ。運命とか、そういう言葉じゃ表現できない。私がずっと好きで、憧れていたあの人が、テレビに出てる。せっかく出会えたというのに、手の届かない場所にいるの、ほんとにギャグみたいだ。


天には天のやさしさがあり//大神環
「環、お誕生日おめでとう。今日はどうだった?」
「みんながたまきのこと祝ってくれたんだ! こ〜んなにおっきなケーキも食べたんだぞ!」
 太陽の光みたいに笑いながら環が私に今日の出来事を話す。誕生日って不思議だよね。その日のことを何一つ覚えてないのに、毎年祝うんだから。
「このリボン、似合ってる? おやぶんからもらったの!」
「うん、すごくかわいいよ。その人は環のこと、大切に思ってるんだね」
「おやぶんが、たまきのことを?」
「うん。環のためにそのリボンを選んでくれたんだから、環が大切なんだよ」
 私は今日は何も持ってこなかった。プレゼントするのが礼儀かな、とも考えたけど、食べ物は他の子があげてるかもしれないし、身につけられるものは少し違う気がしたから。環にあげるなら、環が一番喜ぶものが良い。形に残るものは捨てられないかもしれないから、なるべくすぐに消えるのものが理想だ。
「たまきはちがうとおもうな! たまきにおめでとー! って言ってくれた人はみ〜んなたまきのこと、たいせつにおもってくれてるよね! だってたまき、すっごくうれしいもん! くふふっ♪」
「……環はやさしいね」
「そうかな?」