May

貴方は水瀬伊織で『大人になりたくない』をお題にして140文字SSを書いてください。
「伊織もオトナになるんだね」
昔の宣材写真と比べて、ほんの少しだけ伸びた身長と、膨らんだ胸を見てつぶやいた。
「そりゃあ、あたしだって成長するわよ」
見た目こそ変わったが、性格は何一つ変わっていないのが伊織らしい。棘を持った言葉と、内側に秘められた優しさ。なにも、変わっていない。
「でも、大人にはなりたくないわ」
「なんで? 大人になったらなんにも縛られること無く、自由になれると思うんだけどなあ」
「あたしは一番輝く姿でありたいから、今のままでいたいのよ」
「伊織も大人になったらフェロモンむんむんで、お色気キャラとして人気が爆発してるかもよ?」
「その時はその時よ。あたしは、今の15歳の水瀬伊織が、皆に愛されて求められるアイドルだって思っているから変わりたくないわけ。夢を見させるあたしたちが、ファンの望む姿でいなくてどうするの」
「伊織は、ほんとにそう思うの? 伊織のファンは、今の伊織も大好きだと思うけど、16歳になった伊織も好きでいてくれると思うな。……少なくとも、1ファンである私は、今の伊織も、大人の伊織も、水瀬伊織だったら皆好きだよ」

貴方は北上麗花で『この寂しい口に、キスをどうか』をお題にして140文字SSを書いてください。
ふわふわ、ふわわん。もくもく、もくくん。
「なまえちゃんは、タバコが好きなんですか?」
ふーっ。空気に真っ白な煙が溶けていく。
「まあ、好きなのかな。別にニコチン中毒ってわけじゃなくて、口元が寂しいっていうか。カッコつけるために吸い始めたけど、なんとなく手元に置きたくなるというか」
とんとん。灰皿はグレーに染まっていって、火種はゆっくりと色をなくす。
ほんの少し腰を上げて、顔を近づける。触れ合った唇はなんとも言えない苦味があって、眉間を寄せてしまった。
「な、なにやって……」
驚いた。ありえない。そんな言葉が重ねられているような表情に頬を緩めると、なまえちゃんはりんごのように顔に血液を集める。
「なまえちゃんが、口元が寂しいって言ったから、キスで紛れるかなって!」
「そ、そんな一瞬じゃ」
「それじゃあ、もう一回しますか?」
「そういうことを言ってるんじゃないって!」
ちらりと目線を灰皿に向ける。私よりも長く唇に触れ合っていたタバコは、いつの間にか灰になっていた。

双海亜美へのお題は『物語をもう一度』です。
風が吹き、砂埃を巻き上げる。じりじりと太陽が照りつける暑さは、とても耐えられるようなものではなかった。
「ねえ、亜美」
喉は渇き、口の中は少しだけ砂の味がした。上手く声が出ていたかは、わからない。
「……なあに、なまえお姉ちゃん」
小さな身体に似合った、か細い声。口元はスカーフに覆われ、その音色は通らない。
「どうして、こうなっちゃったんだろうね」
「わかんないよ〜。亜美、のど渇いて頭まわんない〜」
「亜美が脳みそ使うときはイタズラだけでしょ。どっかに水道ないかな? 水も使えないとか、ありえそう」
幼い頃の小さな約束。高く空に向かい伸びていた竹の葉に短冊をくくりつけた覚えがある。そこには、あの子には内緒で亜美と2人で“世界がなまえと亜美だけのものになりますよ→に!”なんて、子供っぽくて馬鹿らしいことを書いていた。少しの好奇心からで。絶対に叶わない夢。絶対に訪れない世界。あり得るはずのないことだからあんなにも楽しめたのに。
「もーいっかい。やり直せるかな?」
私たちを支えてくれる人も、競い合ってくれる人も、応援してくれる人も存在しない。私たちがどれだけ頑張ったって、それを見てくれて、評価してくれる人は誰もいない。それがどんなに虚しいことか、2人だけの世界になってからすぐに気づいた。
「できるよ。だってこれは、いつかは覚める夢だもん」
なんて、ありもしないことを言葉にする。亜美を安心させようと手に触れた瞬間、意識は途切れていた。

貴方は双海真美で『一緒にいた影響』をお題にして140文字SSを書いてください。(捏造してます)
真美はいつでも、亜美と一緒だった。亜美は真美のことを全部わかってくれて、全部受け入れてくれていた。
「ねえ、真美ちゃん。ソーダでいいかな?」
亜美が好きなソーダ。真美が嫌いなソーダ。真美と亜美はいつでも一緒で、好みも一緒で。好きじゃなくても、一緒だから、
「ソーダあるの!やった!」
笑顔で喜ぶ。それが、双海真美。なまえちゃんのことがどれだけ好きでも、真美は亜美と一緒だから、亜美が特別な感情をなまえちゃんに向けない限り、真美はこの思いを隠し通さなきゃいけないような気がした。自分が何者でもない双海真美として存在するために。

貴方は望月杏奈で『愛に近い執着』をお題にして140文字SSを書いてください。
ゆるゆると昇っていく日の光に背を向けながら、布団の中でなまえちゃんに抱きついた。朝は嫌いだ。何もかもが見えてしまって、自分には手の届かない眩しさが視界を覆う。いやでも明日が来るということを実感させる現象がひどく憎たらしかった。なまえちゃんは朝になるとお仕事に行ってしまう。透き通るような白い肌も、指通りの良い髪も、桜色の唇も、全部消えてしまう。
「こわいよ。なまえちゃん、怖い」
「どうしたの」
優しく声をかけてくれるその瞳には、杏奈が写っている。誰でもない自分。いつかは消えてしまうなまえちゃんを、今だけは自分だけのものにしたかった。