June

松田亜利沙へのお題は『この瞬間の君が好き』です。
P←ドル表現あり
亜利沙が、プロデューサーをみつけた瞬間の表情が好き。好きな人を、視界に入れたら、きらきらとした瞳をいっそう開いて、耳より上の高い位置で結んであるツインテールが犬の尻尾みたいにぴょこぴょことする。全身で好きという気持ちを表す瞬間が愛おしい。その視線が、私に向けられていなくても。

馬場このみへのお題は『二文字以内で答えを聞かせて』です。
「ちょっと、なまえちゃん! 好きな人とかいるの〜? もう16よ16! 青春してるんでしょ〜!」
この人は馬場このみさん。私が高校生活を始めるとともに一人暮らしを決め、ここに住んでいるがそのご近所さんだ。高校生で一人暮らしなんて危ないわ! とよく私のうちに上がっては勝手におつまみを作って勝手に自前してきたお酒と一緒に飲み始める。たまに私のお菓子も食べるけど。
「いないってば、そんな人」
「嘘ばっかり! なまえちゃん最近どんどん綺麗になってきてるんだから! お姉さんわかってるんだからね!」
なあにがわかってるんだか。私の気持ちも知らないくせに。
「じゃあ、相手のこと誰だか言ってくださいよ」
「やっぱりいるのね〜! ふふん、お姉さんが当ててあげましょう! ううんっと、あの幼なじみとかじゃないの?」
「あいつなわけないよ。だいたい彼女いるし」
「ええ、誰なのよ~! 教えて〜!」
さっきまでわかってるってドヤ顔で言ってたのにもかかわらず、私の腰に貼り付いている。
「はぁ、これで、わかりますか」
ちゅっ、なんて可愛らしい音を立てて唇が離れると、驚いた顔をしたこのみさんが見える。
「返事ははい、でおねがいしますね」

秋月律子へのお題は『早く結婚してくれれば良いのに』です。
P←ドル表現あり
今日の撮影はウエディングドレスでのものだった。アイドルという自分を売る職業では、比較的6月頃にジューンブライドの特集みたいなものをよくやったりする。結婚なんて程遠い13歳も、ウエディングドレスは着なくてもフラワーガールだったりリングガールだったりで、華やかでいて清楚なドレスを着ることも多々あるわけで、少しだけ可哀想にも思う。婚期が遅れるんじゃないのかって。
「なんで私まで……」
「律子さんも似合ってるじゃないですか。可愛いですよ」
「なまえがニヤニヤしながら言ってるとお世辞にしか聞こえないのよ」
ため息を吐かれながらそんなことを言われると、当たり前だけど私なんか眼中にないんだなって伝わってきて、すごく悔しくなる。お世辞なんかじゃないのに。
「あ、プロデューサーさんだ」
そう、私がつぶやいた瞬間に、律子さんの頬が染まる。その表情を私だけに見せてほしい、なんてわがままは言えないし、たとえ言葉にできたとしても叶えられるわけがない。
律子さんを呼びに来たプロデューサーさんは、少しだけ照れたようなはにかんだ顔をして、似合ってるぞ、なんて当然のことを言った。耳まで真っ赤にしながら、少しの距離を空けて歩く二人はまるで夫婦みたい。
「早く結婚してくれればいいのに」
そしたら、諦められるのに。

春日未来さんの話は短編としてアップしてます。