
July
貴方は木下ひなたで『甘やかしてよ』をお題にして140文字SSを書いてください。眠くない。瞳を閉じて、誰かの目覚まし時計の針の音に耳を澄ましても、頭は覚醒したままだ。布団の中で体の向きをいくら変えようとも、それが眠りに繋がるわけがないというのに。仕方がない。他の子達の目を覚まさないように、ゆっくりと音を立てずに起き上がる。今日のレッスンも厳しかったし、疲れているだろうからきちんと寝かしてあげたい。
「あれ、ひなた」
そっと襖を開けて廊下に出てみると、エレベーターの前のすこし開けたスペースのソファにひなたは座っていた。もうすぐ12時だというのに、幼いのもあるが、なんとなくひなたは早くに寝ているように思えたから、少し驚きだ。
「なまえちゃんも、眠れんのかい?」
持参した湯のみを片手に微笑む姿は、妹というよりも母のように感じれる。
「そうなんだよね。明日の346プロとの合同練習が楽しみでさ……」
相手の346プロダクションは、新しいプロジェクトを始めたらしい。その新人さんが来るのももちろん楽しみなのだが、何よりも憧れの高垣楓さんと一緒にレッスンできるということが、夢のようにしか思えなくこうして眠れていないというわけだ。
「したら、明日起きられんよ?」
「うん、わかってるんだけどね……ひなたも、こんな遅くまで起きて大丈夫なの?」
「そうだねぇ、あたしも緊張でがちがちなんだわ。布団の中に入っても眠れんくてね……一緒に寝るかい?」
「え、あ、一緒に、ですか?」
「あたしは、なまえちゃんと一緒ならぐっすり寝れるんだけどなぁ」
ひなたさん!? ちょっと、真面目に照れちゃいますよ!
「だめかい?」
「あー、だめじゃ、ないです……」
わ、私のほうが年上だというのに……まあ、ひなたといっしょに寝たら三秒で意識がなくなったんだけどね。
貴方は三浦あずさで『痴話喧嘩は他所でやれ』をお題にして140文字SSを書いてください。
「もう、あずささん! 何回言ったらテレビ局までの道のりを覚えてくれるんですか〜!」
「十字路でいつも分からなくなっちゃうのよね〜。次もなまえちゃんに案内お願いしていいかしら?」
「ぜったい、覚える気ないですよね! 番組が一緒だから行ってるだけなんですよ! もう、迷っても知りませんからね!」
あっさりと正義に負けた敵が覚えてろよ! とお決まりの言葉を言いながら撤退する時のような表情を浮かべるなまえちゃん。あずささんは、なまえちゃんがいないときは迷うことがそこまでないんだけど、構ってほしいのか一緒のときはどうやらよく迷っているよう。
「そんなこと言いながら、なまえちゃんはわたしと一緒に行ってくれるじゃない。わたしが迷っても、なまえちゃんが必ず見つけてくれるでしょう?」
「うっ、それは……番組に迷惑かけちゃうのはいけないし、あずささんのお仕事に支障がでるのもあれだし、一緒にいたいし……」
「痴話喧嘩は他所でやってほしいものね」
真横からため息とともに冷めた瞳で言葉をこぼす律子さん。淡々と事務作業をしているのだけれど、寝ていない日が続いているのか、隈がひどい。最近は私たちの仕事も増えてきて、3人で回すのは大変だって言ってたっけ……
「り、律子さん! わ、私も事務手伝いますね。あっ、このプリントまとめるんですか〜、ってあわわわ!」
「はあ。あずささんとなまえは一緒に春香と散らばってるプリントまとめておいてよね!」
貴方は舞浜歩で『多分上手く笑えていない。』をお題にして140文字SSを書いてください。
なにか特別な事があったわけじゃない。ただ、頑張る姿が誰よりも愛しく思えて、いつの間にか好きになっていた、それだけ。
「好きだよ」
別に、見返りを求めてなんていない。一方的な好きっていう感情だったから、付き合うとか、私のことも好きでいてほしいとか、そんなこと考えたこともなかったのだ。
「うん、私も。歩は優しくて、カッコよくて、好きだよ。えへへ」
なのに、こんなにも愛らしい笑顔を私だけに向けて、甘い言葉を囁いて、私の気持ちを可笑しくさせるのは、ずるいと思う。もしかしたらなまえと付き合えるんじゃないかって、お互い好きなのかもしれないって考えさせられるから。私とは、好きの種類が違うってことぐらい、わかるけど。
「そっか、両想いだな」
息をするように嘘をつく。たぶん、上手く笑えていない。
貴方は伊吹翼で『いつもの癖』をお題にして140文字SSを書いてください。
「なまえさんって、いつもそれ、してますよね」
ライブ前、舞台袖で私と翼は隣同士だった。いつもの癖でマイクを持つ右手首にキスをしたら、こっそりと言われた。
「願掛けっていうのかな。頑張ろう、落ち着こうって気持ちになるためにしてるんだ」
「ふーん」
興味がなさそうな返事をして、右手首を見つめる翼。自分から聞いてきたくせに。
「それって、わたしにも効きますかね?」
そう言って、瞳を閉じて、優しくキスを手首にした。長い睫毛が頬に影を落とす。いたずらっぽく笑う仕草に、私は俯向くしかなかった。