August

貴方は高坂海美で『幸せになれなくてもいい』をお題にして140文字SSを書いてください。
たまたま事務所のラックに掛けてあった雑誌を開く。それは週刊誌で、ぱらぱらとめくっていると、
人気アイドルの熱愛報道の記事にたどり着いた。
「好きな人と一緒にいるだけで、こんなに言われるなんてアイドルって悲しいよね」
隣で一緒に読んでいた海美と私はこの記事のアイドルと同じような関係にいる。まあ、お互いアイドルだが。
「それでも、自分を売ってるんだからしかたないんじゃないのかな。恋人がいないってステータスは大切だよ。誰からも愛されるためには、皆の愛を同じように受け止めて皆に平等に愛を分け与えていかないとね」
「本当は誰かひとりを特別扱いしてても?」
「うん。表面だけは、嘘をついていなくちゃ」
なんだか、自分に言い聞かせているみたいだ。そういう境遇に置かれている自分に、もっと自覚をさせるために。
「私と、なまえちゃんが付き合ってるってことも? 隠して、嘘にしていなくちゃだめ?」
「うん。恋人でいられるのは、ふたりきりのときだけだよ。内緒にしなくちゃ。アイドルでいられなくなっちゃうもん」
「そっか。なまえちゃんはさ、そしたらなんで私と付き合ったの?」
「なんでって、好きだからだよ」
「周りに隠したり、キスとか簡単にできなかったり、デートも難しくて、結婚もできなくて、幸せになれないっていうのに?」
「うん。私の幸せは、海美の隣にいることだし。結婚とか、一般論じゃすべての幸せは語れないでしょ」
「そうだね。私も、なまえちゃんの隣にいられるだけで幸せだよ」

矢吹可奈へのお題は『君と僕との境界線』です。
 私が好きなのは、ダンスだ。可奈が好きなのは、歌。私たちは好きなものが違う。だから、仕事もそれなりに分かれてしまう。
「千早さん! ここのフレーズがどうも上手くいかなくて、アドバイスお願いしてもいいですか?」
「ええ、いいわよ」
 偶然にも、事務所で好きな人を見つけた。可奈と私は、付き合ってるわけじゃないのに、なんとなく私以外の人と楽しくしゃべっているのを見ると悲しくなる。嫉妬、なのかな。
「なるほど! よくわかりました! ありがとうございます!」
 歌が好きって言ったら、可奈は私を見てくれる? 歌が得意だったら、そんなふうに喋りかけてくれる? ねえ、教えてよ、可奈。

篠宮可憐へのお題は『好きだ、って言ったら逃げるくせに』です。
 私は、可憐ちゃんが好きだ。可憐ちゃんに恋をしている。だけれども、彼女は臆病な性格をしているため、思い切りアタックしても、落ちてくれるわけではない。むしろ、私のことが苦手になってしまうだろう。
「可憐ちゃん、一緒にお茶しない? 貰い物なんだけど美味しい紅茶があるんだ」
 だから、遠回りに友好関係を深めていって、徐々に好きになってもらう。それしかないのだ。
「あ、ありがとうございます。これは、アールグレイですか……?」
「うん、そうだよ。でも、なんで知ってたの?」
 気持ちを、押し殺す。好きだって気持ちを。可憐ちゃんの言葉が全て胸に染みこんで、いつの間にか思いを伝えてしまいそうになる。
「その、香りが特徴的なので……」
「あ、可憐ちゃんってアロマテラピーが趣味なんだよね」
 怖い。彼女に気持ちを伝えるのが怖い。普通を装っても、すぐに仮面が外れてしまいそうで、怖い。
「し、しっててくれたんですか……? 嬉しいです……!」
 そんな風に、笑わないで。好きだって言えないんだから。

菊地真へのお題は『恋人ですけど、なにか?』です。
 今日は久しぶりのオフで、真とのデートを約束していた。駅前は交通量が多くて、沢山の人で溢れかえっている。真はまだかなあ。
「おねえさん、いま一人? よかったら一緒に遊ばない?」
 こ、これは! 典型的なナンパ野郎じゃないですか!
「人を待っているので、すみません」
 変なこと言ったら怒らせちゃいそうだな、なんて思いながら無難な返事をする。もうちょっと遅く来ればよかった。めんどくさいことにならないんといいんだけど。
「いいじゃん、いいじゃん! こんな綺麗なお姉さん待たせる男と遊んだって楽しくないでしょ!」
「ちょっと。やめてください」
 腕をつかむとか強引すぎる。これだからモテないんだよ。
「ごめん、遅れちゃって……待った?」
 やっと来てくれた真の姿を見て、無意識に肩の力が抜けた。
「あ? てめえ誰だよ」
「この子の恋人ですけど。その手、離してくれますか?」
 今日の真の服は、男の子っぽいボーイッシュな格好。ふりふりしたスカートも、けっこう可愛いのにな。今度着てほしいと、お願いしてみようか。
「っち。ふざけんじゃねえよ……」
 小者っぽい捨て台詞を吐きながら去っていく男の後ろ姿は、ちょっと寂しい感じがした。
「ふぅ〜。びっくりした……なまえは大丈夫? なんかされてない?」
「うん、大丈夫。真があんな大胆な事言うなんて思わなかった……」
「え、あ……うん。すっごく恥ずかしかったけど、なんとか帰ってくれてよかったよ。まあ、女って気付かれなかったのはちょっとつらいけど……」
 こういうふうに、女の子に気遣うから、余計にイケメンに見られる。自然にできるから、かっこいいのだ。
「そっか。でも、恋人だって思われたことは嬉しいな、私は」
「そう、だね……えへへっ」
 この可愛らしい笑顔も、また誰かを魅了するひとつ、なのだ。